【始末屋物書き】Lost Words ~錬金術師キリートの書~

始末屋Vtuber VRシドレッド

第1話「錬金術師キリート・マイスター」

----------※重要:転載・二次創作等についてはこちら※----------

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 民主国家グランス領の首都、シルトの街。

 多くの人々で活気付くこの街を、一人の青年が訪れる。

 「この街も、だいぶ様変わりしたものだ。」

 街と外を隔てる大きな門をくぐり、彼は周囲の街並みを見ながらそう感じた。

 彼が子供の頃に見知った光景とはかなり様相が変わっているが、これも年月の経過、技術の発展によるものだろう。

 青い髪をなびかせ、彼は街の中心部へと進んでいく。

 この話は、彼を中心とした物語である...



 「キリート・マイスター様、お待たせ致しました。こちらの書類に記入をお願いします。」

 そう言って役所の人間が俺に一枚の紙を手渡してきた。

 俺は受け取った紙にさらっと一筆書いて役所の人間に返した。

 何故俺がこんな事をしているのか。答えは簡単。俺はこの街に商売をしに来たのだ。

 となれば当然、役所で開業の手続きをせねばならない。

 極めて面倒臭いのだが、通すべきスジは通しておくのが商いを行う者としての心得。

 ...というのは俺の死んだ爺さんの受け売りなのだが。

 そんなわけで、これで晴れて俺も商売人の仲間入りを果たしたというわけだ。


 開業の手続きを済ませて役所を出てから、街の東区画へ向かう。

 新しい建物が立ち並ぶ街並みの中に、一件だけ建っている古びた建物を見つける。

 「...ここか。」

 建物には見慣れた看板がかかっている。マイスターズショップ...つまりここは、俺の爺さんが経営していた店であり、爺さんの生前住んでいた家だ。

 ...少し思い出話をしようか。

 爺さんが死んだのは十年前。この街が魔物の軍勢に襲われた『災厄』の時の事だ。

 「魔界の門」と呼ばれるゲートのようなものが世界各地に現れた。そしてそこから恐ろしい数の魔物が溢れ、世界を混沌に陥れた。

 人間と魔物の戦争によって、この街だけではなく世界規模で甚大な被害が出た。酷い場所は魔物の軍勢に壊滅させられてしまった街もあったそうだ。

 この災厄で世界総人口の二割は死んだとされている。そしてそのうちの一人が俺の爺さんだった。

 まさしく『世界崩壊級の大災害』だったわけだが、この一年後...今から九年前に突如現れた英雄たちの力によって「魔界の門」は閉じられ、一先ずは安寧を得たという話だ。

 俺は当時、親父やお袋と一緒に遠く離れた別の街で暮らしていたから、爺さんの最期は看取れていない。訃報が届いたのは災厄の後、数か月が経過してからだった。

 時が過ぎ、そして今。俺もこうして独り立ちできるようになって、爺さんの後を継ぎに...という程大層な理由も志もあるわけではないが、まぁ有り体に「爺さんの店を借りて商売をしに来た」という訳だ。

 ...少々長くなったか...だが、これで俺がここにいる理由は概ね説明出来ただろう。


 想い出を懐かしむ事もそこそこに、俺は店の中に入る。

 カウンターや商品棚、そしていくつかの装飾品...人の手が入っていないせいで幾らか埃っぽくはあるが、あの災厄の中これだけ無事に残っていた事は驚きだ。場所によっては跡形もなくなってしまったという話もあるからな...

 しかし、俺がここで生活するにあたって、まずは住む場所の確保が優先か。

 そう思った俺は、まず居住空間である二階へと向かった。

 二階は大きく二つの部屋に分けられている。生活する部屋と作業する部屋だ。

 居住部屋については多くを語る必要もないだろう。簡素なベッドと机があるくらいのものだ。

 重要なのは作業部屋。描かれた魔法陣の上には巨大な壺、そして近くに本棚と収納箱。

 昔と何ら変わっていないな...そう、ここはかつて爺さんが『錬金術師』として作業をしていた場所だ。そして俺もまた『錬金術師』なのだ。

 ...というか、そうでなければ遠路はるばる亡くなった爺さんの家まで独り立ちをしに来る理由など無いのだが。

 さて、これはかなりの大掃除になりそうだ...

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