掌編ホラー小説「麒麟館の人々」
棗りかこ
短編ホラー小説「麒麟館の人々」(1話完結)
すごいなあ、5千円の時給なんて…。
生沼紗依(きぬまさえ)は、本屋の前に貼られたポスターを見た。
古びた建物の、行きつけの本屋だったが、そんなポスターを見たのは、初めてだった。
「麒麟館」と書かれたその家は、正面に大きな時計、高い塀に囲まれた、新築の洋館だった。
あの…。
扉は、簡単に開いた。
玄関に、銀色の鎧が飾ってある。
だしぬけに、声がした。
どちら様?
紗依は、その女の方を振り向いて、驚いた。
黒猫を抱いた、風変わりな女性。
彼女は、じろりと、紗依を上から下まで見渡した。
紗依が、しどろもどろになりながらも、家庭教師の件でというと、女は、上機嫌にあらそう、と頷いた。
あたしは、叔母よ…。
彼女は、付いて来るように、紗依を促した。
足音のしない赤い絨毯を、踏み締めて、一番奥の部屋へ通された紗依。
そこにあったのは、一つの机。
呼んで来るわ…。お待ちになって。
それから、十分待たされて、部屋の扉が、再び開いた。
それで…。
警察官は、紗依を覗き込んだ。
それが…。それから先のことを全然覚えてなくて…。
紗依は、家に辿り着いた時、総ての出来事を忘れ去っていた。首を横に振るだけの紗依に、
本当に、憶えていないんですね?
警官は、もう一度念を押した。紗依が頷くと、
じゃあ。荷物はお返しします。
警官は、書類にサインするよう、促した。
殺害現場に残されていた紗依の荷物は、こうやって、手許に戻った。
―完―
掌編ホラー小説「麒麟館の人々」 棗りかこ @natumerikako
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