ゼロキルゼロデス〜あなたの力では人を殺せません〜

HalFull

始まり

いざ、異世界へ

俺の名前は「浜野海斗(はまのかいと)」

ごく普通の高校生だ。

「ん、お。最新刊じゃん」

商品棚の漫画とペットボトルのお茶を持ち、間隔の狭い通路を通ってレジへ行く。

「いらっしゃいませ」

慣れた手際でテキパキと仕事をこなす店員。

「710円になります」

「あ、はい。あ、レシート大丈夫です」

「かしこまりました。千円のお預かりで、290円のお返しです」

営業スマイルを顔に貼り付け、手の上にお釣りを置く店員。

「またのお越しをお待ちしております!」

お釣りの小銭を財布の中に仕舞いながら、袋に詰められた商品を持ち出口へ向かう。

「あの子ちょっと可愛かったなぁ」

コンビニを出ながら、一人で呟いてみる。女性にあった時に可愛い子を覚えておくのは男の性。思春期バンザイ。

学校帰りにコンビニ。そこから自転車を少し漕げば愛しの我が家である。

訂正。愛しくはない。

何代わりない日常。

思えば高校へ入学してから少し経ったが、特に彼女ができたわけでもなし、また、肩を組むような親友ができたわけでもない。

いわいるぼっちというやつだろうが、別に気にしてはいなかった。

「ただいまー。可愛らしい息子が帰りましたよっと」

軽口を交えて玄関のドアを開ける。

靴を雑に脱いで家に上がると、家に入ってすぐ正面の階段へまっすぐ歩いていく。

「海斗!今日の夜ご飯はどうするの?」

リビングの方から甲高い女の人の声が聞こえる。何を隠そう、俺の母である。

「テスト近いし、いいわ」

「はいよー!」

母はいつも元気いっぱいである。

それに対し、父の方は新聞とにらめっこしてまったく喋らないような、母とは正反対の性格をしている。

寡黙な父と元気な母の間に生まれたのが、ぼっちの一人息子。

どうやら父親の遺伝子を濃く受け継いだっぽい。

二階に上がってすぐ右の部屋が自分の部屋。

その奥は親の部屋と物置。

自分の部屋の扉を開けると、そこは自分のことで埋め尽くされた空間。とても居心地がいい。

制服を素早く脱ぎ捨てると、ベッドへ寝転がる。机の上に置いたケータイに手を伸ばし、中を覗く。

ケータイの通知欄には、よく読んでいる漫画アプリから来た新しい通知が表示されていた。新連載だそうだ。

「おーおー。また異世界系ですか。最近流行ってんのかね」

知ったようなセリフを吐く。

「異世界、異世界ねぇ。正直不便の固まりってイメージしかないしなぁ...、ケータイ、テレビ、パソコン。機械がないなんて考えられない」

考えてみたところで、自覚済みの現代っ子である自分には、正直きつい世界だ。

エアコン完備で近未来マシマシな異世界なら考えてもいいが。

「第一アニメの中の世界の話だー

起き上がりながら「だろ」と言おうとしたその時、正面から何か大きいものが飛んできた。

刹那、視界が埋め尽くされた。

姿勢を崩しベッドの奥へ落ちる。

大きな物音を上げ、自宅に震度3。

「海斗ーーー!あんたやるなら静かにやりなさいよ!」

大きい物音を聞いたのかしたから叫び声が聞こえた。

埋もれた顔を出し、言い返す。

「うっせーわ!やめろよ変な言い回し!」

自分の上に乗る大きい物体に目を移した。それは、変な格好をした女の子だった。

ぴょこっと上半身を起こし、僕の顔を見て話しかけてきた。

「いや、転移魔法って便利ですね!あ、どうも!そしてごめんなさい!」

家に侵入してきた変なコスプレをした変な女の子に変なことを言われ、ましてや飛びかかられた。

可愛い女の子が自分の体の上に乗っているシチュエーションに心の底で少し喜びつつも、女の子を振り払い部屋の隅へ逃げる。

「だ、誰!?警察呼ぶよ!?進学できなくするよ!?」

「誰が中学生ですか!失敬な!私はあなたと違って大人なんです!」

ベッドの陰から顔を出している女の子に、言い返された。

親しげに話してくるあたりがなんだか怖い。

スッと立ち上がると、ベッドの上に座った。

話も戻すように、わざとらしく咳き込み、俺の方を見て話を進めてきた。

「私の名前はミルディア。私は、あなたを連れにきました!」

「つ、連れてくってどこへ?」

「決まってるじゃない!異世界よ!い・せ・か・い」

まるでアニメの中のキャラクターような名前。

漫画の中にいるキャラクターのような姿。

そして黙ってればそこそこ可愛い容姿。

そして出た言葉が、異世界。

なんとも突飛な話だが、自然と信じ難くはなかった。

「いやどこの誰かも知らない人に異性界に行くって言われて、はい行きます!なんて言う訳ないでしょ!?」

「あれ?この世界の男共は異世界に憧れてる愚かな種族だって聞いたんだけど...」

「殴られたいのかな?というか君誰」

「名前教えたでしょ!?あと初対面の人には【さん】をつけてください!」

「こっちは愚かな種族呼ばわりされたんですけど!?っていうかなんで俺なの」

それもそうだ、自分でなければならない理由なんてどこにもない...はず。

別に異世界に憧れていたわけでもない。

厨二病をこじらせた訳でもない。

「いい感じの人いないかなーって探してたら【異世界】って聞こえたから、とりあえず来てみました!私は実は偉い人なので!その証拠に、あなたの名前ももう既に知っています!」

「ほう?じゃあ聞かせてもらおう」

試してやる、みたいな雰囲気を出しながら言ってみたものの、正直当たってたら怖い。

「坂本海斗!どうよ!」

いや違うのだが。

だが、あえてここは坂本ということにしておこう。

「あ、あぁすごいね正解だよ!」

「へへん!」

誇らしげに胸を叩く少女。

間違っているとも知らずに自慢げな顔をしている彼女を見て、少し笑ってしまう。

「じゃあそろそろ警察呼んでいい?」

「なんでよ!いやダメよ!転移魔法使って今私の魔力残り少ないんだから!」

やっぱり急にダイブしてきたのは魔法か何かだったのだろうか。あまり強そうじゃないけど。

「悪いけど、その異世界ってやつなんかには行かないからな」

「え?じゃあ実力行使!はい」

少女が手を広げると、そこに杖が出現し、それを握って振りかざした瞬間、体が後ろに強く引っ張られ、後ろに振り返る。

「え!?ちょ、え!?」

空中には黒い穴が出現し、その中に、体が吸い込まれていく。抵抗もできないまま黒い穴に吸い込まれていく。暗闇の中に吸い込まれ、暗闇の中にある小さな光の中には自分が元いた部屋が見え、それはだんだんと小さくなっていく。

そこから、少女がこちらを覗き、笑顔で叫ぶ。

「がんばってねー!」

「ちくしょおおおおおおおおぉ!!!」

落ちていく感覚に包まれ、暗闇に飲まれていく。



ここから、浜野海斗の異世界生活が始まる。




「ふう、さてと。強引になっちゃったけど大丈夫かな?期待してるよ」

持ち主がいなくなった部屋で、少女が一人で静かに笑った。

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