遠距離になって振られた俺ですが、年上美女に迫られて困っています。
雨音恵
一年生夏編
第1話:本日振られました【女子大生:飯島早紀】
『ごめんね、
高校一年の夏。俺、
『野球頑張ってね。テレビの前で応援してるから。じゃぁ、もう連絡してこないでね』
彼女、いやもう元彼女からの一方的な死刑宣告に何も返事をすることが出来ず、呆然としているとブロックされてしまった。ゲリラ豪雨か何かかこれは。
「テレビの前で応援するって……東京の地方大会を見るほど野球好きじゃないだろう。そもそも放送するかも怪しいっていうのに」
俺は携帯をベッドに放り投げてベランダに出た。
念願叶い、この春から俺は野球の名門高校に進学することができた。実家を離れることになったのだが、独り身の叔母がそれならと声をかけてくれて住まわせてもらっている。
「はぁ……野球に打ち込みすぎて連絡怠ったのがまずかったのかなぁ……はぁ……辛い」
「ため息ばかりしていると運気が逃げるぞ、若者よ」
どれくらいベランダで過ごしていたのかわからないが突然声をかけられたことで意識が現実に浮上した。夏真っ盛りだがこの日の夜は冷えていた。
「元気ないみたいだけど。晴斗君、何か嫌なことでもあったの?」
「あっ、早紀さん。嫌なことというかなんというか……その……」
声をかけてきたのは隣の部屋に住む女子大学生の
「監督に怒られたりした? でも今日の試合で失点したけど晴斗君のせいじゃないから気にすることないと思うよ」
なぜ早紀さんが試合のことを知っているのかは謎だが、今の時期は地方大会の速報もネットで見られるからと納得してから、改めて俺は頭を振った。
「違うんです。そうじゃないんです。あ、あの……笑わずに聴いてもらえますか?」
俺は事の顛末を話した。元カノとの出会いから振られた今日にいたるまでの出来事をそれこそ赤裸々に、包み隠すことなく全てだ。中学生、高校生の恋愛話など早紀さんにしてみれば笑い話にもならないはずなのに、彼女は馬鹿にすることなく静かに聴いてくれた。
「好きだったんですけどね……でも、まさかこうもあっさりと振られるとは思いませんでしたよ……」
気付けば俺は涙を流していた。悲しい、寂しい、それ以上に虚しさが押し寄せてきて、話しているうちに自然とあふれてしまった。
「晴斗君、こっちにおいで」
早紀さんの慈愛に満ちた声に導かれ、俺は彼女の方へ近づいた。二人の間を阻むものは背の低い壁とわずかな空間。手を伸ばせば届く距離だ。
「大好きだったんだね、その子のこと……」
ふいに頭を優しく撫でられた。幼子をあやすような手つき。早紀さんの繊細な指は夏だというのに冷えていたけれど、そこに込められた思いは温かかった。
「それにしても、君みたいないい子を振るなんてその子は見る目がないね。私なら―――絶対に捕まえて離さないよ」
早紀さんは大人だ。俺のようなまだ高校生になりたての子供にそんな言葉をかけてくれるなんて。これはお世辞だと頭ではわかっていても嬉しくなってしまう。なんといっても早紀さんは美人だから。
「フフッ。お世辞だと思ってる? なら、試してみる? 私が本気かどうか……?」
その時の早紀さんの瞳が夜の世界に生きる妖艶な光を灯した。晴斗は背筋がぞくりと震えて、このまま呑まれてしまいたい欲求に駆られるが―――
「晴斗―――? どこにいるの? 遅くなってごめんねぇ! ご飯食べるよ!」
「あら、残念。叔母さん、帰ってきちゃったみたいだね。じゃぁ晴斗君、大会頑張ってね!応援しているよ!」
笑顔で手を振って早紀さんは部屋に戻っていった。俺は彼女に撫でられた頭を触りながら叔母さんの呼びかけに答えてリビングへ向かった。
*****
「そうかぁ……晴斗君、彼女と別れたのかぁ。これは、私にもやっとチャンスが回ってきたかな」
一人部屋に戻った早紀はペロリと思わず舌なめずりをした。あんな可愛い子に彼女がいるのは仕方ないと諦めていたが、これで心置きなく勝負を仕掛けることが出来る。
「君の辛さは私が癒してあげるからね」
早紀の口元は獲物を見つけた肉食獣のように妖しく歪んでいた。
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