3話 石の壁を右ストレートでI☆CHI☆GE☆KI

 盆地に立つアキマ王国をぐるりと取り囲む、霊峰アキマ山脈。


 別名を『仙竜せんりゅう山脈』。


 かつて、牙も角もない竜が、で世界を統べた。


 その伝説が生まれた山である。


 今ではその末裔たる竜たちが縄張りとしており、彼らとの生存競争に敗れた魔物たちはどれも弱体化の一途を辿っている。


 また、高潔な竜たちは、卑小なヒト族に興味をほとんど向けず、積極的に攻撃を加えることはおろか、滅ぼそうなどとは露ほども考えなかった。


 結果として、アキマ城と城下町からなる小さな辺境の国は、魔王全盛の時代にあってさえ、強力な魔物に襲われることも、他国との戦争に巻き込まれることもなく、この険しい山々に守られ、平和に暮らしていた。


※※


 その日、アキマ城下町は朝からひっくり返った様な盛り上がりようであった。


「山竜討伐隊が帰ってくるぞぉ!」

「なんと、あの竜を退治したのか!」

「ベン殿がやったのか」

「さすが我らの英雄」

「いや、どうやら、やったのは弟子の少年らしいぞ」

「マジかよ!? アキマに新たな英雄の誕生だな!」

「その者の名は?」

「先に帰ってきた者たちの話では、たしか、シンジ、と」

「転生者でもあるらしいぞ」

「勇者殿なのか!?」

「ならば、英雄ベンと、勇者シンジを盛大に出迎えるぞ!」

「おう! 祭りじゃあ!」

「集まれ街の衆!」

「「「「ベーン! ベーン! ベーン!」」」」

「「「「シーンジ! シーンジ! シーンジ!」」」」」


 街のあちこちで噂が噂を呼ぶ。

 ベンとシンジを讃える歓声が上がる。

 街の吟遊詩人が彼らの物語をオリジナルの歌にした。

 太鼓が打ち鳴らされ、大道芸人がパフォーマンスを始めた。

 商店街ではタイムセールが始まり、酒盛りがダンスバトルに発展し、彼らに花を手渡す代表を決めるミスコンが急遽開かれた。


「シル四世様も正門で出迎えるらしいぞ」

「「「「「おおーっ!!」」」」」


 と、現国王が直々に出迎えると知り、街中の人間はさらに盛り上がる。


「まったく、相変わらずお祭り体質だね、我が国のたみたちは」


 金髪碧眼、眉目秀麗びもくしゅうれいなシル四世の目は、こぞって正門に集まる国民に微笑みかける。


 そして、いよいよベンたち竜討伐本隊が帰ってきた。


「よくぞ戻られた、ベン……ど……の……?」


 しかし、王の声がクレシェンドしていく。民も、一様に唖然としていた。


「はぁ、この歳で登山は厳しいわい。ところで、何の任務だったっけか?」

「お待ちください、ベン殿」

「あんた、誰だ?」

「……国王の、シル四世でございます」

「こんな奴だったかの……まぁ、いい。話なら後にしてくれぃ」

「いえ、そういうわけには。ベン殿には、が見えないのですか?」


 シル・アキマの指が指し示す先には、巨大な深緑の山竜。

 そして、それと談笑する、ヘンテコな甲冑を着た少年姿。


「ヤマさん、初下界の感想はどう?」

『ふん、人間どもの住処にしてはそう悪くはない』


 何故かヤマさんこと山竜も一緒になって下山してきていた。

 周りの兵士・魔術師たちは戦々恐々としている。

 しかし、シンジによって命を救われた格好なので、文句も言えないようだ。


「シンジ様、やはり連れてくるのはまずかったのでは?」


 ラキィがそわそわと耳打ちするが、シンジは相変わらずである。


「大丈夫、ヤマさんは草食系ドラゴンで、生贄とかいらない派らしいから」

『人間の筋張った肉など、どの竜も食わぬのである』

「いや、山竜様が何をおっしゃっているか、我らには理解できません」

「あ、そっか。でも、ヤマさんがお山の王国を見てみたいっていうから」


 さながら、親が息子夫婦の新築を覗きに来るような理由であった。


『案ずるなシンジの友よ。

 人間なぞ、我が歯牙にかける価値もない存在なのである』

「誇りたけーわ。ヤマさんマジ推せる」


 そんな山竜推しのシンジに、王の引き攣った顔がやってきた。


「や、やぁ、君が世界針せかいしんさまより勇紋ゆうもんたまわった転生勇者殿ですかな……?」


 様々なものを押し殺した言葉に、シンジは、こう答えた。


「何言ってんだ、このオッサン」

「「「「「……!!!!」」」」」


 ラキィや、国民たちが絶句する。王の側近が目を見開く。ベンが大欠伸おおあくびをかます。


「あれ、どしたの皆さん」


 シンジ は ろうや に いれられた !


※※


「ちっ。まさか不敬罪が存在するとは」

「当たり前だ、馬鹿者」


 アキマ城地下の牢獄。看守としてつけられたラットが、シンジに説教する。

 学生服姿だ。ハリボテ鎧や持ち物はすべて没収されていた。


「ラットさん、協力者を連れてきてくださったのですね」


 そこに、女性、そこはかとなく気品を感じる少女の声が響いた。


「誰?」

「隣の独房へやよ。でも、壁越しでは話し辛いわ。

 ねぇ、少し下がっていてくださる?」

「……へ?」


 シンジが意味も分からず後ろに下がった瞬間―――


「ふん!」


 少女が声を発すると同時に、分厚い石壁が崩れ落ちた。


「初めまして」

「……」


 牢屋のお隣さんは、華奢きゃしゃな少女だった。見た目だけは。


「わたくしはアキマ王国の第三王女、フィア・アキマと申します」


 上品に頭を下げる。


 服装こそきらびやかなドレスではなく平服であったが、長い金髪と碧眼、そして美しい顔立ち、まさに一国の王女といった雰囲気。


「いや、嘘つけよ。石の壁を右ストレートでI☆CHI☆GE☆KIて」


 シンジの呆れ声にも、王女フィアは涼しげにこう言った。


「大したことでは。王家の嗜みです」

「ラットさんがヘッタヘタに腰抜かしてるけど?

 どう考えてもこの世界の筋肉番付きんにくばんづけ最上位なんだけど」

「どうしても信じないって言うのですか」

牢名主ろうなぬしっていうほうが信じるよ。牢屋に王女って、状況が残念すぎない?」

「残念言うなっ! これにはわけがあるの!」


 すると、ヘッタヘタだったラットが

「いや、その方は本当に我らが王女様だ」

 と言った。


「マジで? じゃあアンタが死霊殺人事件の容疑者王女様?」

「……事情は知っておられるようですね。

 しかし、一部真実ではありません」

「なにが?」

「牢屋には、自分から入ったのよ」

「残念だなぁ」


 ざんねんひめ の フィア と であった !

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る