第10話

「Gotyumon ha dousare masu ka?」


聞いたことのない言語。


たった数十年で言語が変わるのか。


でも、身振り手振りは伝わるだろう。


そっと読めないメニューに指をさす。


「オムライス de yorosii desu ka?」


聞き覚えのある単語。


激しく頷くと店員は去っていった。



何かを刻む、トントントン。


何かをとく、チャッチャッ。


何かを焼く、ジュージュー。


何かを盛る、フワッフワッ。



香ばしい風と共に運ばれてきた。


出来立てほやほやのオムライス。


「Kochira オムライス de gozai masu」


赤いネクタイをつけた店員に礼を言う。



懐かしい味がした。


昔、父が作ってくれたのに似ている。


あの時も心が和んだ。


キツく結ばれた心を解放するように。



そっと手を挙げて店員を呼んだ。


店員は差し出されたカードキーに驚いた。


「Kiniro…」


目を見開いたまま動かない。


不思議そうな風が一つ、吹いていった。


「もしかして、3階の人ですか?」


聞き取れる言語。


ここに来てから初めて会話ができる。


「そうです。」


その店員は薄っすら微笑み、そのまま会計をした。



待機を命じられ、入り口に立つ。


その店員は家に案内すると言った。


彼はこの世界に新しい文化を生み出そうとしているらしい。



音楽はできない。


絵も描けない。


文才もない。


まして創作のセンスなんてこれっぽちも。



歩く道、他愛のない会話ができることが嬉しかった。


どうやら彼の父も三階の住人らしい。


そして、もうこの世にはいないらしい。



帰るとすぐに彼の父の写真を見せてくれた。


面影がぼんやりと僕の父と似ていた。


「名前は————」


耳打ちされた言葉は確かに聞き覚えがあった。


まさか。


そんな運命があってたまるものか。


同一人物。


そして故人。


あの父には二度と会えない。



でも、同じ息子には会える。


目の前にいる。


話すならこの人だ。


自分の過去をすべて打ち明けた。



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