善悪の向こう側(8)
ゼムナ軍打撃艦隊と
「どこもかしこも獲物だらけじゃねえか」
「そんな感想を抱くのはあんただけだよ、リューン。オレたちは勘弁してほしいと思ってるって」
青い縁取りの入ったパシュランで随伴するオリバーの言は如何にも心外だ。
リューンにしてみれば想定内の状況である。ゼムナと本気で喧嘩をするなら、この規模の戦闘は避けられないと思っていた。逆にいえば、ゼムナ側は意外にも戦力を小出しにしてきたと感じる。
それには連合している
「今回は下に回ったか」
魔王は足下に位置している。
「魔王軍か? あの位置にいたほうが厚みを見せられると思ってるんだろう」
「あいつはそんなに単純じゃねえ。何か企んでる。一時的にでも指揮下に入ったお前のほうが分かってるだろ?」
「だけどさ、一切読めない。あの人はオレたちとは頭の中身が違いそうじゃん」
青年は失笑して「違いねえ」と言う。
「分かってるんなら気にしても仕方ないっしょ。わたしたちはいつも通りやるだけ。っていうか、それしかできない」
「お前、俺を考えなしだって馬鹿にしたな、ネイツェ?」
「嫌だったらケイオスランデルくらい楽させてよ、リューン。居残り組のはしゃぎっぷりったらなかったんだから」
僅かな損害だけで第二打撃艦隊を半壊させた居残り部隊の連中は自慢たらたらだったらしい。そのほとんどが魔王の作戦による戦果だとしても、洗練された戦術による勝利は彼らを酔わせたのだろう。
「あれを俺に要求すんなよ」
剣王は不貞腐れる。
「だいたい、いつも通りの戦い方しかできねえのはお前らだって一緒だろうが」
「おっと、これは一本取られたかも」
「『かも』じゃねえ! ここで後れを取って恥かかせんじゃねえぞ」
無論、冗談だ。
「一番気にしてんのはあんたなんじゃないか? って、ご本人がきたぜ」
「ああ、みたいだな」
「まさか聞こえてないよな。地獄耳とか言って」
予め決めてある友軍回線でなく部隊回線なので聞こえてないはず。
「どうした、魔王?」
「新型機を確認した。対処に幅が必要だろう」
「さっき聞いたところさ。ジュスティーヌも馬鹿じゃねえ。同じヘマはしねえよ」
リューンも赤いストライプの散りばめられた黄色い機体の事は聞いている。自身のカラーであるのでパイロットは
「パパが援護するって言ってるから助けてあげる。感謝してもいいし」
やってきたニーチェも鮮やかな赤い機体を閃かせる。
「でけえ口叩くんならやって見せろよ、小娘」
「ほんとはケイオスランデルとルージベルニで十分だけど、あんたのプライドが許さないだろうから、おこぼれくらいはあげるし」
「おうおう、そいつはありがとよ」
ゼビアルの手をひらひら振って見せるとルージベルニはそっぽを向く。賢しらげなところが子供っぽくて笑える。憎まれ口を叩くのは彼を認めている証拠だ。
「下がらなくていいんですか、ケイオスランデル。うちの大将に付き合っていたら全体は見えませんよ?」
オリバーは魔王に一定の敬意を払っているらしい。
「構わん。女帝だけ抑えておけば戦闘隊長二人が状況に応じて指揮をする。オプションは授けてある」
「あー、そういうの慣れてるんですよね、そっちは」
「やけに含みがあるじゃないの。何だったらエイグニルに入れてもらえば?」
ネイツェがからかう。
「向き不向きがあるんだって。オレみたいのだと神経使って頭痛と仲良しになってしまうじゃん」
「つまんない。浮いた分のギャラをこっちに付けてもらおうかと思ったのに」
「おい!」
軽口にツッコんでいる。
キリのいいところでリューンはオリバーたちに下がるように合図した。ジュスティーヌとの戦闘に巻き込めば彼らはただで済まない。それよりは敵部隊への切り込み隊長として機能してくれなくては困る。
「どう見る?」
三機になったところで魔王に訊いた。
「前回の戦闘記録は見た。普通に考えればあれは女帝の専用機。随伴のデュープランには別のパイロットを据え、中距離での援護及び牽制に専念させるのだろう」
「予想は同じって事か。なら、難しくはねえな。あんたらがレギュームを黙らせてくれりゃ、その間に俺がジュスティーヌの専用機を墜とす」
「当面の方針はそれで構わん。あとは流動的になるな」
ケイオスランデルだけでレギュームへの対処ができるならルージベルニを彼と組ませる気なのだろう。そうなれば確実だといえる。
「まずは探りを入れるか」
「うむ」
ケイオスランデルはゼビアルの後方に付いて加速した。
◇ ◇ ◇
「予想通りの配置になってるわ」
アリョーナは機を逃すまいと目を皿にする。
「気取られないように動きなさいよ。もう少し引き込んで」
「慎重に過ぎたりはしない。確実にいくぞ、アリー」
「息が詰まりそう。でも、ここが勝負どころ。我慢しないと魔王を出し抜けない」
タイミングはマフダレーナに任せている。彼女の提案でもあるし、閃きにも頼りたい。良くも悪くも杓子定規なアリョーナのタイミングでは見抜かれそうな気がしたからだ。
「もっと……、いや、今だ!」
「全機、予定位置に突入!」
マフダレーナの指示でアリョーナは手札を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます