残照の戦士たち(11)
(これほど整然と、各機が有機的に連動する用兵が可能なのか?)
軍に勝るとも劣らない、反政府組織をゆうに超えるレベルだ。
(だが、我が軍もそれほど脆くはない)
簡単に分断されたりはしない。後続が砲撃をくわえて再貫通を目論む。
その時、怖ろしく濃厚な戦気が宙を貫く。クリスティンの背筋を悪寒が駆け上った。
「ぐ! 全機躱せ!」
極大の熱エネルギー反応が迫り、エクセリオンを始めとした一団は回避した。
予定通りの行動だったのか、
「なんという……」
まさに地獄絵図だ。一瞬にして数十機が薄紫の光に捕らわれ消し飛ぶ。更に周囲の数十機がビームに巻き込まれるようにして爆散した。一ヶ所に集中していただけに被害が大きい。
(駄目だ。これでは完全に分断される)
巻き込まれずに済んだ友軍機も、再び周囲から殺到する敵アームドスキンに撃破されていく。
エクセリオンを始めとした百機足らずは前に巨大アームドスキン、後ろに
「クリスティン様、あの大型アームドスキンを突破して敵母艦に迫りましょう。それが勝利への一番の近道です」
「だろうな。やるしかあるまい」
「いたなぁー! 赤いアームドスキンの女ぁー!」
突如として共有回線に咆哮が木霊した。
「何です?」
「この声、エルネドか?」
「逃さんぞー! ここで終わらせるー!」
声音に強い怨嗟が感じられる。
(以前に何かあったのか? いかん。崩される)
情報部のメクメランの一機が突出し、僚機も引きずられるようにフォーメーションを崩している。そこへ敵主軸部隊も果敢に攻め込んでいく。
「くそっ!
「マズいぞ。固まれ! 自由にさせるな!」
「漆黒のクラウゼン! あっちのでっかいのがケイオスランデルじゃないのか? 魔王は何人いるんだよ!」
情報部部隊は混乱し、一体となって対処する構え。しかし、既に近衛部隊の役割を忘れている。不慣れな任務なのがこの辺りに表れた。
「期待しても無理そうです。我らだけであの大型を攻略しましょう」
「どうやらそのようだ」
イムニの提案に同意する。
「パパのところには行かせないし! まあ、ケイオスランデルに敵うとも思えないけどね!」
「逃げるな、女ぁー!」
「あー、もー、しつこい! 邪魔!」
エルネドは赤いアームドスキンに執着を見せて隊を乱している。
(こちらは各隊長に任せるしかあるまい。あの赤はルージベルニか)
(で、あれはケイオスランデルという機体なのか。確かに名にふさわしい風貌だが)
竜頭人身の漆黒の巨大アームドスキン。大腿の先が無いという大胆な形状をしており、更に不気味さを醸し出している。
「想定外に混乱させられています。クリスティン様は魔王をお討ちください。自分が敵艦を沈めてみせます」
イムニは最も効率が良いであろう分担を選ぶ。
「急がなくていい。無理のない程度で……、イムニ! 気を付けろ!」
「なっ!」
彼が正面から牽制砲撃をくわえていたケイオスランデルが一転して後方に錐揉みしながら加速する。迂回して艦隊に迫ろうとしていたイムニ機に急接近した。
(速い!)
阻止する暇もない。爪から光の刃が伸びるとすれ違い様に振り抜く。一撃でイムニのメクメランの左腕が刎ね飛ばされていた。
「纏めて相手してやろう」
「その根拠のない自信を悔いるがいい」
副官のブレードとケイオスランデルの光爪が競り合っている。
(もし、これが魔王の狙っていた形だとしたら?)
嫌な予感がする。
クリスティンは迷いを振り切るようにペダルを踏み込んだ。
◇ ◇ ◇
遮二無二突っ掛かってくる敵機がうとましい。ボールフランカーの連射も紙一重で躱して迫ってくる。
(こいつ、ポレオンを逃げ出した時に追ってきた奴だし)
クラフター二梃で離脱するところを邪魔されたのを思い出す。そして今はジェイルの援護に向かうのを邪魔している。
(いつもいつも邪魔ばっかり!)
苛立ちが狙いを雑にし、余計に追い縋られてしまう。
「ニーチェ、そのまま逃げ回りなさい。こいつら、それで乱れているから」
マーニが気楽に命じてくる。
「あたしのストレスは?」
「あとで甘い物を奢ってあげるからそれで解消なさい」
「破産させてやるし!」
お腹いっぱい詰め込んでやると誓う。
ずっとトリガーを引き続けていたのか、カノンインターバルぎりぎりで撃ってきたビームが急にやむ。一拍置いて、ガイドを排出すると新しい弾体ロッドを装填していた。
(えー、ロッドの残量警報が目に入らないほど粘っこく追っかけてきてるの?)
今の挙動が証拠である。
(そんなに焦がれるほどとは、あたしって罪な女だし)
熱烈な斬撃がルージベルニの残像を断ち割る。
(とか、ふざけている場合じゃないかも。躱すのが上手な奴だし。確かこいつもライナック。名前は忘れたけど)
腹の底から闘志が湧いてくる。
ニーチェは赤い瞳に映る、敵の濁った執着の灯りと向き合う決心をした。
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