目覚める娘(5)
ニーチェは解放され示された椅子に掛けている。ただし、正面に掛けるマーニのサイドテーブルにはまだハンドレーザーが置かれていた。不審な動きをすれば撃つという姿勢。
「あんたみたいな若い娘が
「リ……、ライナックにパパを殺された。あたしみたいな小娘じゃ何もできないから武装組織に入って復讐してやるし」
動揺で危うく本音を口走りそうになるが、何とか準備した理由を告げる。
「そんな話はポレオンじゃごろごろある。大概が泣き寝入りする筈だけど、何でまた思い切った事をしようとするわけ?」
「復讐しないなんて選択肢はあたしには無いし」
「ふぅん……」
マーニは彼女の真意を見透かすかのような目で見てくる。背筋を恐怖感が走るが、ニーチェの中で燃え上がっている怒りが逆に見返す原動力になる。
「悪いけど、そういうの受け付けてないわ。確かにここは裏で
誤魔化すのも無理だと思ったのだろうか。
「でも、仲間に勧誘する相手は総帥ケイオスランデルからの指示で決められてるのよ。入りたいです。それじゃ、どうぞって訳じゃないの」
「は? 総帥が全部決めてるの?」
「そ。どうやって調べているのかは知らないけど、メンバー候補のリストは上から来るわ。その人物に接触して勧誘するのがここの役目」
全く予想外の事実が告げられる。
「じゃあ、あたしは入れないし」
「そういうこと。さ、今度はあんたの番よ。どうやってここを突き止めたかしゃべりなさい」
「ここの場所はパパの情報に……」
そこにスライドしたドアの向こうから男性が入ってくる。振り返ったニーチェはドキッとして言葉を止めた。
「戻りました、姐さん。例の件は……」
「黙りなさい、ギルデ。注意力が足りないわよ」
「うげ、客かよ!」
跳び退った男は壁に張り付いてだらだらと汗を流す。その様子を見ると報告しようとした件は表の調査ではなく
「わたしたちがポレオンに居るのは常に綱渡りだといつも言っているわよね?」
悄然とする青年。
「すんません。って、そう言うって事はこの女はそっち方面の客じゃん」
「ばーか。そうでなきゃ今頃顔面にその辺のデブリがインパクトしてるわ」
「それってただ物を投げてるだけじゃんかよ、姐さん!」
騒がしいツッコミをする男だとニーチェは思った。
だが、軽口の応酬をする程度には空気は軽くなってきている。一時は命の危険を覚えたものなのに。
「続けるわよ。どこでここの事を知ったの?」
「パパの持っていた情報……」
プロフィールもあったのを思い出した彼女は端末のファイルを見直す。
「マーニ・フレニー。ん? 三十八歳? そんな年には見えないし!」
「あら、ありがとう」
「三十前後くらいだと思っていたし」
マーニは男好きのしそうな艶やかな美人である。焦げ茶の緩やかにウェーブする髪を背中に垂らし、普段は陽だまりで眠る猫のように柔和な面持ち。唇の右下にある黒子が色っぽさを演出している。
対してギルデと呼ばれた青年は薄茶色の髪を無造作に伸ばし、野性味のある顔立ち。焦げ茶の瞳が眼光鋭くニーチェを見ていた。
「ギルデ・ギッシュ、二十二歳。まだ若いし。喧嘩っ早そうだけど」
「黙れ。好き勝手言ってくれる」
剣呑な空気を漂わせている。
「ずいぶんと調べられているわね。あんたの父親って何者?」
「捜査官。機動三課の」
「なに!?」
ギルデが掴みかかろうとしてくる。
「待ちなさい。その娘は父親をライナックに殺されたって言ってるの。捜査官だとしてももう死んでるわ」
「う、そうか。……待て? 機動三課ってこの前まで惑星軌道に派遣されてた筈だぞ。殉職者が出たって噂は本当だったのか」
ニーチェは
「おいおい、お前、あの『横紙破りのジェイル』の娘だったのかよ」
「なるほどねぇ」
二人は納得顔になる。
「消されたのか。凄腕のアームドスキン乗りで、真っ正面からライナックに噛み付くのが痛快だったのにな」
「連中の堪忍袋の緒が切れたみたい。派手にやっていたものね」
「パパはそんなに有名だったの?」
意外な事実に目を丸くする。
「こっちの界隈ではね。目立ち過ぎて容易に手が出せないくらい」
「引き入れられないもんかって話なら何回もしたけどさ」
ジェイルについて話している間に更に二人の女性が帰ってきた。
一人はドナ・ヤッチ、二十三歳。金髪碧眼の美しい娘である。ライナックのドラ息子に暴行された過去を持つらしい。屈辱が彼女の原動力。
もう一人はトリス・アカーサ、二十歳。黒髪黒瞳の彼女は弟を虐め殺されたと言っている。朗らかなように見えて激しさを隠し持っているらしい。
「彼らがここのメンバー」
マーニが全部を仕切っているという。
「三人ともアームドスキンパイロットよ。それぞれに役目があって相応の技量を持っている。あんたは何ができるの?」
「だよな。あのジェイルの娘なら入れてやりたいじゃん」
「……何もできない」
彼らのような戦闘技術なんて何一つ無い。
「でも! 何でもやるし! 本気だからここに入れて!」
「仕方ないわね」
溜息を一つ。
「小間使いくらいにしかならないなら忙しくしてもらうわよ。甘くはないから」
「うん!」
ニーチェは計画通り
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