第三話
地獄の住人たち(1)
『
元は一惑星であったとされるゼムナ環礁は極めて広大な空間を占めている。フェシュ星系の第二惑星ゼムナ本星の外側に位置していた、直径で本星の数倍する大きさだった惑星一つの破片なのだ。膨大な数の小惑星が恒星を縁取る円環を形成していた。
それほどに巨大な円環となれば全てを把握できるわけもない。本星の監視の目から隠れるにはこんなに良い場所は無いといえる。
ただし、それはゼムナ政府も当然理解していて定期的に偵察艦隊が派遣されてくる。そこに潜む反政府組織の拠点を発見して潰して回るためだ。
その他にも、未だに発見されていないゼムナ遺跡を求めて各研究機関も船舶を飛ばす。ときに不幸な遭遇で拠点が発覚したり、逆に民間人の被害者が出てしまったりもしていた。
ところが
これも構成員には不思議であった。探査船の航路はともかく偵察艦隊の航路など軍事機密の一部に他ならない。事前に察知できるはずもないのに何故かケイオスランデルは把握しているのだ。どこからともなく運ばれてくる装備品や物資と並んで、彼の底知れなさを感じる一事であった。
その
「ふぅー、帰ってきたぜぇ」
妙に年寄りめいた台詞が漏れる。
桟橋である針の一本に係留されたロドシークは整備と補給を受け、六角柱内部の
「なに爺臭いこと言ってんのよ!」
0.1G下で漂っていると背中を蹴られた。
「痛ってぇ! なんだよ、お前は?」
「なにもないじゃん! あの告発動画、あんたのガンカメラ映像でしょ? それなのに音声使われてないってのは、また余計なことばかりしゃべったからに決まってんじゃない。馬鹿じゃないの?」
「うるせー!」
声の主は分かっている。
ヴァイオラ・アイドホルン。それが彼女の名だ。一つ下の十九歳。それなのにマシューと同じサナルフィのパイロットでもある。
組織内でも屈指のパイロット。金髪緑眼の完全な美少女なのだが、いかんせん口が悪い。しかも毒舌の犠牲になるのは年代の近いマシューを含めた若いパイロットたちである。
その若さで重要な役割を任されているが故の虚勢なのかもしれないが、的にされるほうは堪ったものではない。が、こればかりは敵のビームと違って回避は容易ではない。
「ほんとに間抜け。上手に立ち回れば魔王様にお褒めの言葉をいただけたかもしれないっていうのに、絶好の機会をふいにするとか信じらんない」
彼女は魔王を信奉してはばからない。
「いいだろうが! あれのお陰でライナックを一人破滅に追い込めたんだぜ?」
「その手柄をゴミ箱にポイしちゃった奴の言葉なんて価値なし。隅っこでゴミと一緒に漂ってなさい」
「おおお、苦労した結果がこの扱いかよ。黄昏れちまうぜ」
通りかかるロドシークの乗員に指をさして笑われている。それくらいにいつも通りの光景なのが不条理でならない。
「もういい。オレは飯食って寝る。やっと新鮮な食材にありつけるんだ。それくらいしか楽しみが無い」
いじけたマシューは背中を丸める。
「聞き捨てならない。まるで魔王様が準備してくれた
「そこまで言ってない。でもさ、
「あんたみたいなゴミは食べられるだけで満足すれば?」
猛攻は収まる気配もない。
宇宙生活、それも戦闘を主とする活動となれば、モチベーション維持に大きなウェイトを占めるのが食事。品質の良い食材を用いた十分な食事が精神衛生に貢献しているのは否めない。
「こら! それくらいにしてあげなさい」
救世主が現れた。
「今回の作戦に参加できなかったからってマシューに当たり散らしちゃ可哀想でしょ」
「ミグフィ、でも、この馬鹿ったら……」
「はいはい、これ以上わたしを困らせないで。あなたも一緒に食堂に来なさい。そこで話しましょう」
先輩の、しかも旗艦の操舵士という重役を担うミグフィ・プレネリムに咎められればヴァイオラも口をつぐむ。
「聞かせて聞かせて。今回の作戦はどうだったの?」
「ちゃんと教えてあげるから」
「はーい」
三人は連れ立って食堂に向かうのであった。
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