魔王(2)
反政府組織『
正体の知れない彼の人物は反政府活動に高い熱意を抱く人々を纏め上げた。ライナックに
そして、独自開発の戦闘艦艇やアームドスキンを提供し、本格的な反政府活動を可能とした。それ故に、施設などに隠密裏に破壊工作を行い、後で犯行声明を出す中小規模の組織の活動とは段違いの成果を挙げられる。警察の警備艦隊はおろか、ゼムナ軍の艦隊とも戦闘を行えるのだった。
更には魔王ケイオスランデルの作戦立案能力に頼るところも大きい。彼の立てたチャート方式の作戦により活動を行っている
メンバーは従いさえしていれば安心して作戦に臨めるのである。達成率も反政府組織の中では群を抜いているだろう。
そして、数少ないケースではあるがケイオスランデル自身もパイロットとしてアームドスキンに搭乗する。軍のエース級パイロットとも渡り合える技量を有している。
派手さを感じさせない戦闘スタイルなのに、敵手はいつの間にか追い込まれて撃破されるのであった。
極めて高い能力を有するケイオスランデルであるのに、その正体を知る者は一人としていない。
普段は彼が送ってくる作戦を実行しているだけで、自身が作戦に参加するのが稀である所為もあろう。専用のアームドスキン操縦補助装具
ときに魔王が本当はライナック本家の人間であり、現状を正すために組織の長に収まっているという流言も飛び交う。彼の能力然り、技術力然り、生産を支える財力もまた噂を裏打ちするが真実は闇の中。
何の確証も無く、誰もが不安を感じそうな組織運営であるのに全てが円滑に機能している。それが魔王ケイオスランデルのカリスマによるものだと言えるであろう。
◇ ◇ ◇
「戦闘宙域近くに民間船舶の反応!」
ミグフィは驚いてつい後ろを振り返る。だが、彼らのカリスマは泰然としたままで作戦指示パネルに軽く指を走らせていた。
「気にしなくていい。把握している」
ギアから変調された声が響いてくる。
「り、了解です」
「そのまま指示通りに動くように」
珍しく司令官席に収まっているケイオスランデルが直接部隊行動の指示を出していた。アームドスキンオペレータはただそれに従ってナビゲートしているだけである。
逆にいえば、民間船舶に戦闘宙域が接近しているというのは彼の作戦の一部だと思われる。それにミグフィは戦慄した。
(まさか……)
◇ ◇ ◇
「船長、何をしている! 包囲されているではないか!」
ウィルフレッドが非難の声を上げる。
「ご、ご安心を。この通り、ゼムナ軍に警護要請を出して周囲を固めていただいております。問題ないかと?」
「問題だらけだ! 私に万が一のことがあれば君の馘一つでは採算が合わないのだぞ?」
(近付けと言ったのはあんたじゃないか!)
船長メクナランはそう思うが間違っても口にするわけにはいかない。
「いずれ軍が彼奴らを打ち倒してくれるはずです」
が、素人目に見ても戦闘は拮抗しているかのようだ。目視でもエイグニルカラーの暗灰色の機体が周囲を飛び交っていると分かる。
「艦隊司令官に繋げろ。私自ら発破を掛けてやる」
「それは戦闘の邪魔になるので控えるべきかと?」
そうでなくとも必要以上に戦闘宙域に近付いたのを艦隊司令官に叱責されたばかりなのだ。会社側に抗議するとまで言われた。
それでも警護はしてくれている。遊覧船ルシエルダ号は戦闘艦艇のように防御磁場の発生装置を搭載していないのだ。ビームの一撃でも大破しかねない。
「とにかく早く何とかしたまえ!」
「善処いたします」
そうとしか言えなかった。
◇ ◇ ◇
戦艦ロドシークの艦首の変更指示がミグフィのところへ来た。それは判明した遊覧船ルシエルダ号を指向している。
(閣下は狙っていらっしゃるんだ)
確信に至った。
エイグニルのアームドスキン部隊はルシエルダ号のほうへと敵機を誘導し、より警護を重厚にせざるを得なくしている。今や軍の機体が二重三重に取り囲んでジェットシールドを展開していた。
(確かに遊覧船を沈めれば警護のアームドスキンを巻き込んで撃破できる。でも、乗っている何百人もの民間人の命をも奪う結果になるのに)
手が震える。
「できないかね?」
ケイオスランデルが問う。彼女と同じく火器管制卓の砲術士ベック・ウィーゼルも躊躇っているらしい。
「すんません。オレ……」
「構わない」
「閣下!?」
彼は目を丸くしている。制御を司令官席に強制移行されたようだ。
ロドシークは全砲門から艦砲を放つ。所属機が退避した空間を貫いた紫の光芒は軍アームドスキン部隊へと襲い掛かり、ジェットシールドのコアを焼き潰す。
数発が船体に直撃すると赤熱光と同時に白いガスが噴出しているのが見える。そして一発が船尾辺りを貫き爆炎が巻き起こる。最後には対消滅反応の光が宇宙空間ごと周囲を飲み込み、多数の機体をも誘爆させた。
「十分だ。本作戦を終了する」
全コントロールがそれぞれの卓に戻り、撤収指示が出された。
(ああ、この方は本当に滅びの魔王なのかもしれない)
ミグフィは恐怖に震える心を抑えられなかった。
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