第237話

「そっちはどうだった?」


 魔王封印の地の異変の報告を受け、ケイたちはそれぞれ調査に向かった。

 その調査の結果、ケイが調査に行った魔王サンティアゴの封印地でも、エルフ王国の側にある魔王ソフロニオの封印地と同様の現象が起きていた。

 その報告をしたケイは、他の地へ行ったメンバーに調査の結果報告を求めた。


「こっちも同じようなことが起きていた」


「ダンジョンがあって、強力な魔物がうろついてた」


 ケイの問いに対し、孫のファビオとラウルが返答する。

 2人はオスカルの転移魔法によって移動し、ドワーフ王国側の魔王アマドルを封印した地の調査へ向かった。

 そこでもダンジョンができていて、強力な魔物が存在していたようだ。


「俺たちの方も同じだ」


「ありゃ危険だわ」


 息子たちの報告に重ねるようにレイナルドが答え、カルロスが感想を述べる。

 彼らの方も同じようにダンジョンと危険な魔物が存在していたらしい。


「あの魔物の強さだと、俺たちはちょっと難しいかも……」


「そうだな……」


 ファビオとラウルの2人は、調査のためにダンジョンの中に入った感想を呟く。

 ダンジョンの魔物は、魔人大陸にいるような魔物をさらに強くした変異種ばかり。

 ケイが幼少期の頃から訓練に使用しているダンジョンもかなりのものだが、今回のダンジョンは更に1段上のレベルかもしれない。

 少数を相手にするだけなら問題なく倒せるだろうが、徒党を組まれて襲われでもしたら大怪我、もしくは命を落とすことになるかもしれない。

 冷静に判断した結果の感想だ。


「しかも、ダンジョンの特徴として、何階層かに1回ボス部屋みたいなものもあるだろうから、簡単に手は出せないな」 


「あぁ……」


 世界には大小様々なダンジョンがあるが、最深部にある核を破壊されないように、一定の階層ごとにボス部屋のようなものが存在する。

 あれほどのダンジョンのボスとなると、一体どれくらい危険なのか想像できないため、レイナルドとカルロスは攻略を躊躇うように呟いた。


「とは言っても、放置はできないからな」


 ダンジョンは、中に入ってきた生物を吸収することで成長する。

 それなら中に何も入らなければ成長しないのではないかとも思えるが、生憎そうも言えない。

 例え外部から生物が入って来なくても、空気中の魔素を吸収することで微弱とは言え生お蝶することができるからだ。

 もちろんそんな微弱な成長などしたところで魔王復活には程遠いが、塵も積もればと言ったところだ。

 魔素の吸収だけで魔王が復活するなんて気が遠くなるくらいの年月がかかるだろうが、それでも放置しておくわけにはいかない。

 それが分かっているため、ケイはどうするべきかを思考する。


「とりあえず、俺が1人で攻略に向かってみる」


「「「「「えっ?」」」」」


 少し考えた後に呟いたケイの言葉に、この場にいた5人は驚く。

 ファビオとラウルの2人はともかく、レイナルドとカルロスですら警戒するようなダンジョンを、1人で攻略に向かうなんて、いくらケイでも難しいと思ったからだ。


「父さん1人で?」


「あぁ」


「無茶だよ!」


 再確認するようにレイナルドが問いかけると、ケイは鷹揚に頷きつつ返答する。

 その返答に、カルロスがツッコミを入れる。

 1人で向かうなんて無謀だからだ。


「魔王に関係しているだろうし、あのダンジョンを放置しておくわけにはいかない。誰かがやらないといけないことなら、俺しかいないだろ?」


 いきなりに出現したダンジョンにしては、内部には強力な魔物が蔓延っている。

 あれほどの魔物となると、魔王が関連しているという予想は正解だろう。

 そうなると、いくら危険でも放置はできない。

 このメンバーの中で攻略の可能性が高いのは自分だ。

 だからケイは自分が行くことにした。


「しかし……」


「せめて俺たちの誰かを連れて行ってくれよ」


 あのダンジョンが、どれほどの階層で出来ているのか分からない。

 もしも深いようなら、転移を使えるここにいる連中でないと戻ってくることも難しくなるかもしれない。

 この中だと、たしかにケイが行くのが一番攻略の可能性が高いだろう。

 だからと言って、1人で行くこともないとレイナルドは止めようとする。

 だが、ケイの言うこともたしかなため、援護・支援役に誰かを連れて行くべきだとカルロスは忠告した。


「そうだな……」


 たしかに、手助けがあった方が攻略しやすいだろう。

 カルロスの意見を尤もと思ったケイは、少しの間思考した。


「じゃあ、北と東はカルロス。西はファビオとラウル。南はレイナルドで」


「……それはどういう判断から?」


 少しの思案の後、ケイはそれぞれを指差しつつ述べる。

 誰かを連れて行くように言った張本人であるのは分かるが、カルロスは何故自分が多いのか気になり、その理由を問いかける。


「単純に出入りできるかだな」


「東は入ったら出られないけど?」


 結界内の出入りは、封印魔法を発動する時に協力しているかどうかだ。

 そうなると、北はここにいる全員、東はケイだけ、南はレイナルドだけ、西はファビオとラウルの2人が出入りできるということになる。

 なので、北は分かるが、東は入ったら出られなくなることをカルロスは告げる。


「言っておくが、一緒に入って来なくていい」


「えっ?」


 てっきり一緒に攻略を目指すのかと思たのだが、どうやらケイの考えは違うようだ。


「1人じゃ駄目だというから、キュウとクウを連れて行けばいい。お前たちには食料などの補給を頼むだけだ」


 最初は1人で行けば良いと思っていたが、レイナルドたちが心配そうにしているので提案を受け入れた。

 しかし、1人ではなく、1人と従魔2匹でだ。

 カルロスたちに頼みたいのは、単純に食料のなどを定期的に持ってきてもらうことだ。

 魔法の指輪に収納しておけば食料なんて問題ないが、どれだけの期間潜ることになるか分からない。

 結界内でも植物は生えているし、魔物を倒せば肉は手に入る。

 協力してもらう必要はないように思えるが、ダンジョン内がどうなっているかの情報を共有するために来てもらうだけだ。


「それだけでいいの?」


「あぁ」


 思ったよりも簡単なことのため、カルロス安堵しつつは問いかける。

 その問いに、ケイは頷いて返事をする。


「まずは北だな」


 東西南北の封印のうち、面倒だからという理由で魔王サカリアスだけでなく結構の数の人族も封印してしまった。

 その者たちの栄養分をサカリアスが吸収していないわけがない。

 そう考えると、一番復活に近いかもしれない。

 なので、最初に攻略をするのは北の封印内にできたダンジョンだ。

 そうと決めたケイは、ダンジョンに潜るための準備を始めたのだった。


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