第228話

「ハッ!!」「セイッ!!」


 オスカルとラファエルによる魔法攻撃。

 それが魔王アマドルへと襲い掛かる。


「フンッ!」


 左右から迫る足下を狙った魔力弾を、アマドルはジャンプすることで躱す。

 2人の魔法攻撃はかなりの威力だが、アマドルからすれば躱すことは苦ではない。


「っ!!」


 オスカルたちの攻撃を躱したが、ジャンプしたところを狙ってリカルドがアマドルへと迫る。


「オラッ!!」


「グッ!!」


 空中にいるアマドルを、リカルドは武器であるハンマーでフルスイングする。

 その攻撃を、アマドルは両手をクロスして手甲で受け止める。

 しかし、地に足を突いていない状態ではリカルドのパワーを抑えきれず、猛烈な勢いで吹き飛んで行った。


「このっ!」


 いくつもの樹々を倒すように体を打ち付けダメージを受けたアマドルは、すぐさま反撃に出る。

 地を蹴り、自分にダメージを与えたリカルドへと襲い掛かった。


「ハッ!!」


「ムンッ!!」


「っ!!」


 リカルド目がけて拳を突き出すが、その攻撃を盾役のハノイが受け止めた。

 攻撃が防がれたアマドルは、一瞬無防備になる。


「「ハッ!!」」


「チッ!!」


 その無防備になった所を、オスカルとラファエルが魔法攻撃を仕掛ける。

 タイミング的にも避けることができず、アマドルは舌打ちをして飛んできた魔法を手甲で受け止めた。

 その受け止めた魔力弾の威力にアマドルは吹き飛び、リカルドたちから離れた所に着地した。


「フゥ~……」


 離れた距離に着地したアマドルは、精神統一をするように息を吐く。

 それによって、リカルドがハンマーで殴って受けたダメージや、オスカルとラファエルの魔法攻撃によって受けた傷などがあっという間に回復してしまった。


「くそっ! せっかく攻撃を当ててもすぐに回復しやがる!」


 回復してしまったアマドルを見て、リカルドは忌々しそうに呟いた。

 かなりの魔力量と戦闘力のくせに、あっという間に回復や再生をしてしまう。

 回復によって魔力量が減っているが、たいして減っていないというのも反則近い存在だ。

 この4人の連携なら攻撃を受けないように戦うことはできるが、それもこちらの魔力や体力が続く間までのことだ。

 戦いが長引けば長引くほど、不利になっていくのは目に見えている。


「何とかして大ダメージを与えられれば……」


 このままではジリ貧なことから、ハノイが呟く。

 多少の怪我やダメージはすぐに回復してしまう。

 どうにかして大ダメージを与えて動けなくし、総攻撃を仕掛けて回復し続けなければならない状況に持っていきたい。

 そうすれば、アマドルは回復し続けなければならず、魔力を消費し続けなければならなくなるからだ。

 さすがに魔王といえども魔力が無くなれば回復できなくなり、どこかにある魔石ごと消し去ってしまえば死ぬだろう。


「いや、このまま戦うだけでいい」


「何故ですか?」


 ハノイの呟きに、リカルドが否定の言葉を返す。

 作戦としてはハノイの考えの方が正しいと思えた。

 そのため、その意見を否定するリカルドの考えが分からず、ラファエルはその理由を問いかけた。


「こちらには秘策がある。俺たちはその策が成るまでの時間稼ぎだ」


 ラファエルの問いに、リカルドが答える。

 どうやら、リカルドはここに来るまでに何か策を施してきたらしい。

 そのため、何故不利になる長期戦をするように言っているのか理解した。


「策……ですか?」


 このままの戦闘の理由は理解した。

 しかしながら、オスカルはその策の内容が気になった。


「あぁ、お前もよく知っている策だ」


「……あぁ! なるほど!」


 オスカルの問いに、リカルドは皆まで言わずに返答した。

 それを聞いたオスカルは、少し考えてその意味を理解した。

 自分が知っている魔王対策。

 それは祖父であるケイが作り出した魔法だ。

 そのことを思いだせば、リカルドの言う策を実行している人間のことが想像できた。

 魔王出現からリカルドが援軍に来るまでの時間を考えると、距離的に速すぎる。

 しかし、自分のように転移魔法で来たのなら納得できる。

 たしか、今日は従兄であるファビオとラウルがカンタルボスに行くようなことを聞いた気がする。

 きっとその2人が動いているのだろう。


「あとどれくらいの時間がかかるか分かりますか?」


 ファビオとラウルのうち、どちらかだけしか来ていないのならかなりの時間がかかるし、2人共来ているのならそこまで時間はかからないはずだ。

 それを確認する意味でも、オスカルは歓声までの時間を尋ねた。


「分からない。しかし、そんなに時間はかからないはずだ」


 その答えでオスカルは理解した。

 時間がかからないというのであれば、2人共来ているのだ。

 それならば、無理をして大怪我を負うよりもこのまま戦っていた方が良い。


「了解しました!」


「分かった。2人を信じよう」


「私も了解しました」


 リカルドの言う策に納得したオスカルは、笑みを浮かべて頷きを返す。

 2人のやり取りを見ていたハノイも、策が何かは分からなくてもこれまで通りの戦闘を了承する。

 このまま戦っていても勝てるか微妙なところなのだから、リカルドが自信ありげに言う策に懸けた方が可能性があるはずだ。

 そう判断しての選択だ。

 ラファエルの場合、他の者が了承しているのに、自分1人が否定できるわけがない。

 そもそも、自分には策なんて言えるものがないのだから、否定する意味もない。

 なので、策があるのならそれに乗るしかないため頷いた。


「打ち合わせは済んだか?」


 リカルドたちが話し合っている間、アマドルは離れた距離でただ立ち尽くしていた。

 声量から言って、リカルドたちの話は聞こえていないだろう。

 自分を倒すための作戦を練っているというのに、随分と余裕の態度だ。

 アマドルも分かっているのだ。

 即興で組んだというのに、4人の連携はかなりのものだ。

 攻撃はハノイに止められ、近距離ならリカルドの攻撃があり、離れればオスカルとラファエルの魔法攻撃が飛んでくる。

 その攻撃は完全に躱すことはできず、多少のダメージを負ってしまう。

 しかし、そのダメージも少しの間を作れればすぐに回復できる。

 魔力量も身体能力も高い自分なら、時間をかければそのうち4人が力尽きるはずだ。

 自分はそれまで戦いを楽しめば良いだけ。

 その考えからの余裕なのだろう。


「余裕かましていられるのも今のうちだけだ」


「へぇ~、そいつは楽しみだ」


 このまま戦っても負けるというのは分かっているはず。

 それなのに自信ありげに言うリカルドに、何か考えがあるのだろうと、アマドルは笑みを浮かべて返答したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る