第217話

「フンッ!」


「クッ!!」


 接近したカルロスは、右手の刀でサンティアゴへと斬りかかる。

 サンティアゴは、その攻撃を土魔法で作った剣で受け止める。


「ぐふっ!!」


 カルロスに気を取られているサンティアゴの脇腹に、魔力弾が撃ち込まれる。

 もちろん撃ったのはケイ。

 魔力弾が直撃したサンティアゴは、脇腹から大量に出血した。


「このっ!!」


「っ!!」


 脇腹の一撃で剣を持つ手の力が抜ける。

 その瞬間を利用して、カルロスはサンティアゴの脳天へ向けて拳銃を向ける。

 ここまでの戦いよって、ケイとカルロスはサンティアゴの核があるのは、以前倒した吸血鬼魔族のギジェルモと同じように脳の中にあるのだと考えた。 

 恐らく、その考えは正しい。

 ケイやカルロスの攻撃に対し、サンティアゴは体への攻撃と違い、頭部の攻撃には過敏に反応しているからだ。


「危ね!!」


 カルロスの銃から、サンティアゴの頭部へと向かって魔力弾が発射される。

 それを避けるように、地を蹴りサンティアゴは後退する。


「うがっ!!」


 後退した所に、またもケイの魔力弾が飛んでくる。

 その攻撃を両腕に受け、サンティアゴは持っていた武器を落とした。


「ハァー!!」


「くっ!」


 武器を落としたところを見逃さず、またもカルロスが刀で斬りかかる。

 頭部へと向けた攻撃に、武器を落としたサンティアゴは防御出来ない。

 そのまま刀がサンティアゴの頭部を斬り裂くと思えた。


「ゴハッ!!」


「なっ!?」


 カルロスの刀が頭部へ当たる直前、サンティアゴは足下に魔法を放つ。

 土の柱が出現し、サンティアゴはその魔法によって吹き飛ばされる。

 自分で自分を攻撃した形だ。

 その自爆攻撃によってダメージを負いつつも、サンティアゴはカルロスの刀攻撃を回避することに成功した。


「ハハッ!! 痛え、痛え」


 ケイの魔力弾による攻撃で脇腹と両腕に穴をあけ、自分の土魔法によってアバラがへし折れている。

 そんなボロボロといえる状態でも、サンティアゴは笑みを浮かべる。


「くそっ!」


「やっぱり治っちまうか……」


 距離を取って時間が稼がれると、サンティアゴの体の傷が修復されて行く。

 彼が持つ再生能力による傷の修復だ。

 傷を修復をするために、サンティアゴは魔力を消費する。

 しかし、サンティアゴの魔力量は底が見えないため、減っているのかいまいちよく分からない。

 サンティアゴは、以前倒したギジェルモのように特定属性の攻撃に弱いということはないため、修復にごっそり魔力を消費させるということができない。

 サンティアゴ自身もそれが分かっているため、体にダメージを受けても、頭部さえ無事なら構わないというような戦い方をしている。

 しかし、ケイとカルロスのコンビネーションなら、危険な目に遭うことなく攻撃が与えられている。

 アンヘル島のダンジョンに養分を与え、そこで訓練を積んだ成果が出ていると言っていいだろう。


「何にしても、ダメージを与え回復させて魔力が底をつくまで減らし続けるしかない」


「分かった」


 頭部への攻撃を成功させるためには、これまでと同様に攻撃を与え、魔力を使わせ続けるしかない。

 いくら魔王といえど、無限の魔力を持っている訳ではないはずだからだ。

 もちろん狙えるなら頭部の破壊も仕掛けることを念頭に置きつつ、ケイとカルロスはサンティアゴへと攻撃を再開した。






「フゥ……」


「ハァ、ハァ……」


 ケイとカルロスの有利の状態のまま、戦いは進んで行く。

 しかし、肝心の頭部への攻撃は成功せず、体への攻撃しか成功しないままの状態だ。

 攻撃を当てても回復してしまうため、サンティアゴはいまだに無傷。

 ケイとカルロスも多少の切り傷ならすぐに回復できるので無傷だが、戦闘が進むにつれて疲労が蓄積している。

 そのため、ケイは額に汗を掻いて少し深めの息を吐き、息子のカルロスは肩で息を切らす。


「ハハッ、息が切れてきているようだな?」


 2人の様子に、サンティアゴは満足そうに笑みを浮かべる。

 彼自身も汗を掻いて息を切らしているが、それでも余裕の表情だ。

 それを見る限り、これまでと同様に戦い続けても、自分の頭部へ攻撃を受けることはないと理解しているかのような反応だ。


「ちくしょう再生能力が面倒過ぎる」


 カルロスが小さく愚痴をこぼす。

 ケイとしても同意だ。

 ギジェルモの時は弱点があった分、分かりやすく魔力を減らせることができたが、サンティアゴの場合自分たちと同程度にしか減っていないように思える。

 このままでは双方魔力が減っていくだけで、平行線のまま続いて行く未来しか見えない。

 しかも、サンティアゴの方が消費魔力が少ないように見える所から、このまま続けば次第にケイたちの方が不利になってくるかもしれない。


「……こうなったら、あれをやる」


「しかし……」


 サンティアゴと戦い始めて、ある程度の時間が経過している。

 このまま戦い続ければ負けてしまう可能性があるのなら、奥の手を使って早々に集結する方が最善手だとケイは判断した。

 その気持ちも分からなくないが、カルロスとしてはこのまま戦えば頭部への攻撃が成功する可能性もあると思える。

 あくまでも奥の手は奥の手として、取っておくほうが得策な気がした。


「それに、やるなら俺の方が……」


「味方がお前だけだ。発動までの時間を考えると俺がやる方が良い」


 魔王出現時の対応策として取っておいた奥の手は、ケイが作り出して数人に教えた。

 当然、考え出したケイが一番正確で迅速に使用できる。

 そのため、ケイはカルロスしか味方の援護がない状況では、自分がやるのが成功する確率が高いと判断した。

 そう言われると、カルロスも納得できる。

 同じことをするにしても、ケイと自分ではたしかにかかる時間が違うからだ。


「魔王は他の地にも出ているんだ。いつまでも時間をかけている訳にはいかない」


「……分かった」


 ケイたちのエルフ王国にはレイナルドがいるし、島民の援護もある。

 そのため、もしも他の魔王がサンティアゴと同等の戦力なら何とかなるはずだ。

 しかし、ドワーフ王国に出現した魔王を相手に、ドワーフ族たちがどこまで戦えるか分からない。

 そっちに参戦するためにも、ケイは一刻も早くサンティアゴを止めることを選択した。

 ケイの言うように、カルロスも他の地のことが気になる。

 概ねケイと同様の考えだ。

 可哀想な話だが、2人の頭には人族大陸への心配は全く浮かんでいなかった。


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