第201話

「お久しぶりです。エナグア王」


「こちらこそ。今回も助力頂きありがとうございます」


 魔人大陸南にあるエナグア王国の王、アンセルモ・デ・エナグア。

 昨日のギジェルモとの戦闘の疲労も回復しないまま、ケイはラウルと共に今回の依頼達成を報告をしに王城へと向かった。

 もう依頼の達成は告げられていたらしく、王からは感謝の言葉を受けた。

 他にも色々話し、これからも魔人とエルフ両国の良好な関係の継続を約束することになった。


「エナグア殿、実は1つお願いがございまして……」


「おぉ、我々はケイ殿に世話になっている身。できる限りのことは致しましょう!」


 今回エナグア王に会いに来たのは、依頼達成の他に目的があったため、ケイはその話に移ることにした。


「この国にいるラファエルという少年なのですが、彼を一時的に私どもにお預けいただけないだでしょうか?」


「……それは、どういうことでしょうか?」


 いきなりのことなので、当然エナグア王はケイの目的が理解できない。

 レオの目的は、ラファエルのことだ。

 魔人たちも魔闘術が使える者も増えてきているので、魔物による被害は減りつつあるという話しだ。

 それでもこの先に不安が残る。

 今回の魔族との戦いで、魔王とか言われる更に危険な存在がいるということが分かった。

 それが魔人大陸に攻め込んで来た時のことを考えて、魔人のなかに突出した人間を生み出そうとケイは考えたのだ。

 そうするとなると、才能のあるラファエルが一番適任のように思える。

 そのことを、ケイは魔王という存在を隠してエナグア王へと話した。


「確かに毎回ケイ殿やドワーフ王国の手を借り続けるのも良くないですな……」


 エナグアはドワーフの道具によって守られて来た歴史があり、最近はケイに頼ることが多くなってきた。

 このままでは、いつまでも他の国に世話になり続けることになる。

 そうなると、国と名乗っている意味がない。

 大抵の自分たちのことは、自分たちで解決できるようにならないといけない。

 ケイの言うように、誰か象徴となるべき人間が欲しいところだ。


「しかし……、ケイ殿もご存じだと思うが、」


 ケイの提案はもっともだが、そこで出てくるのが魔人領の暗黙のルールだ。

 20歳を越えない者は国の外へと出ることは禁止されている。

 以前きた時にも説明したのでケイも知っているはずだ。


「分かってはおります。しかし、ラファエルなら今後の魔人たちを導く人間に必ずなると思われます。彼を数年お預けいただけないでしょうか?」


 魔人の中ではケイが見た中で、ラファエルは飛びぬけた存在だと思っている。

 今でも魔人の中では上位に存在しているが、数年ケイの下で訓練すればもっと伸びると思える。

 そう考えると、どうしてもエルフの国に連れていきたい。


「ケイ殿がそこまで言うのであれば、ラファエルとやらは相当な才の持ち主なのだろう。しかし、ここで鍛えることはできないのだろうか?」


「私どもの島も人族からの脅威にさらされています。私がここに住むという訳にはいきません」


 エルフの国はケイがいなくても、2人の息子を中心として人族のどこかの国から攻め込まれても追い払うだけの強さは持てるようになったとは思う。

 しかし、今後は魔王というどこまでの強さを有した者と戦うことになるか分からない。

 そのために、ケイは自身を強化すべく訓練を開始する予定だ。

 その訓練にラファエルも特別に加えようと思っている。

 なので、魔人領にいることはできないため、ケイはエナグア王の言葉に返答した。。


「このままでもラファエルなら魔人の中でトップを取ることができるようにはなると思われます。しかし、成長期の時期に私の指導がプラスされれば、きっと魔人族最強の名を名乗れる人間にして見せます!」


「……了解した! 特例としてラファエルをお任せしたいと思います」


「ありがとうございます!」


 ここまでいってまだルールは破れないと言うようだったら、もしかしたらケイは魔人を見捨てていたかもしれない。

 やはり昔のエルフのように、おかしなルールに縛られているのが納得できなかったのかもしれない。

 しかし、エナグア王は特別とはいえそのルールを破ることを決めた。

 そういった人間には、自分のように何かしらの結果を提供するのが一番だろう。

 自分で言ったことなのだから、ラファエルを魔人最強にして戻すしかなくなったようだ。

 エナグア王の英断に感謝し、ケイはその場から去っていったのだった。


「オシアス!」


「ケイ様? どうなさいました?」


「実は……」


 王の許しも得たし、後は兄であるオシアスの許可だけだ。

 全は急げと、ケイは転移魔法でオシアスの所へと向かった。

 昨日の戦闘で魔力を消費したため完全回復していないが、ここまでの転移は苦ではない。

 避難してきた人族を送り返すことが済んでいなかいため、オシアスは予想通りまだ北東の村にいた。

 すぐに会うことができたケイは、ラファエルを連れていくことの許可を、ラファエルの兄であるオシアスに求めた。


「……分かりました。ラファエルのことをケイ殿にお任せします」


「……本当にいいのか?」


 説明を受けたオシアスは、少し悩んだのちにケイの提案を受け入れることにした。

 このままエナグアに戻って、そのままラファエルを連れていくつもりだということも言ったため、もう少し考えたり時間を求められたりするかと思ったが、そこまで時間がかからなかったのが意外だ。

 ケイも思わず聞き返してしまった。


「えぇ! 陛下のご許可も得られたのだし、ケイ様ならきっと大丈夫でしょう」


「その通りだが……」


 たしかに未成年の子供を預かるのだから、なるべくフォローはするつもりだ。

 しかし、訓練のために連れて行くので、死にはしなくても怪我を負うことはあるかもしれない。

 なので、そこまで信頼されるとそれはそれで困ってしまう。


「弟のことを、お願いします!」


「あぁ! 任せておけ!」


 両親を亡くし、2人きりの家族。

 きっと、心配で仕方がないだろうが、それでも大事な弟のために送り出そうという決意をしたようだ。

 そのオシアスん思いを受け、ケイも気合いを入れて返事をした。

 そして、とんぼ返りするようにエナグアへと戻った。

 こんな時まで、子供を町から出してはいけないというルールが適用されるのは正直しんどい。

 どうせならラファエルも連れていき、オシアスとのしばしの別れをさせてやりたかったところだ。


「オシアスからの許可も得た。早速だが、エルフの国に向かう準備はいいか?」


「はい!」


 まだ許可をもらっていないのに、どうやらラファエルは昨日のうちに用意をしていたようだ。

 着替えなどは、ケイが持つ魔法の指輪に入れていくので問題ない。

 バレリオなどの知り合いたちにも、王からの許可証を持って説明に行ったので、激励の言葉をもらえたらしい。

 何だかやる気に満ちた目をしている。


「ラファエル! 頑張れよ!」


「うん! みんな元気で!」


 今生の別れでもないので見送りはいらないとラファエルは言ったのだが、バレリオや戦闘部隊の隊長になったエべラルドなどが見送りに来てくれた。

 兄のオシアスがいないのが少し寂しいが、急に決まったことなので仕方がない。


「じゃあ、ドワーフの国に寄って帰るか?」


「うん!」


「ドワーフ王国ですか?」


「今回の依頼達成の見返りに、魔道具をもらうことになっているんだ」


「そうなんですか……」


 エルフの国に帰るのだが、その前にドワーフの国に用がある。

 今回の依頼の達成をした見返りとして、魔道具をもらうことになっている。

 転移の魔法も見せる訳にもいかないので、ケイたちは少しの間歩きで南へと向かっていった。


「何をもらうの?」


「精米機っていう魔道具だ」


「精米機? 水車があるのに?」


 もらう魔道具を聞いて、ラウルは何故それなのかということが頭に浮かぶ。

 精米なら水車を使えば自動でできる。

 それをわざわざ魔道具でする意味があるのだろうか。


「水車は時間がかかるだろ? それがあっという間にできるんだ。精米したての米は上手いんだぞ!」


「出たよ! じいちゃんの米のこだわりが……」


 日向へ行った時に持ち帰ったので、エルフの国の米は前世の白米に近いものになっている。

 以前からケイは、水車だと精米に時間がかかっていたのが気になっていた。

 精米したての米は、ほぼ前世の米と同等の味になるはずだ。

 やはり日本人ならお米だと、ケイがドワーフたちに開発するように頼んでいたのだ。

 昔から米にうるさいケイに対し、ラウルはうんざりしたように声を漏らしたのだった。


「つべこべ言わずに行くぞ! ラファエルも付いてこい!」


「あぁ!」「はい!」


 何だか今回の危険度に比べて、たいしたことない魔道具が見返りになったとラウルは思う。

 しかし、ケイは真面目にすぐに精米できる魔道具が欲しかったので、今から貰えるのが楽しみな様子だ。

 ドワーフ王国から魔道具をもらい、嬉しそうなケイと共にラウルとラファエルも一緒にエルフ王国へと帰還したのだった。


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