第200話
「参りました……」
「しょ、勝者ラウル殿!」
ラウルとラファエルの手合わせの決着がついた。
エナグア王国どころか、魔人族で一番の天才であるラファエルがあっさりと負けたことに、バレリオも驚きを持ちつつラウルの勝利を宣言した。
最後にラファエルが使った技術は、剣術の指導をしているバレリオ自身見たことがなかったため、目にも止まらぬ速さで動いたラファエルに驚いた。
「……ハハハ、折角思いついた技なのに、同じことをされるなんて……」
ケイは魔人族の人間に魔闘術は教えたが、ラファエルが使った技術は教えなかった。
つまり、あの技術はラファエルが自らの力で生み出したことになる。
知らなかったはずの技術を自分一人で作り出すなんて、やはり天才と言っていい。
しかし、自分が生み出したがゆえに、他の人間が使えると思ってもいなかったようだ。
負けたことに茫然としつつ、乾いた笑いで何とか自分を落ち着かせようとしているようだ。
「落ち込む必要はないぞ」
「……ケイ様」
完全な負けに落ち込んでいる様子のラファエルに、ケイは慰めの言葉をかける。
内容的には完全な負けだが、そもそもラウルに勝てると思っていなかった。
年齢的にも指導者の質に関しても、ラウルの方が完全に上なのは当たり前だからだ。
「まさか自らの力であの技を使えるようになっているとはな……」
「自主練をしていた時に思いつきまして……」
ケイの言葉に対し、ラファエルは最後に使った技術を思いついた時のことを話し始めた。
昔に兄と共にケイから魔力操作を教わり、ケイがいなくなってからはバレリオたちに指導を受けてきた。
それによって若いながらも魔闘術を使いこなせるようになり、さらに上を目指して自主練を重ねていた。
そこで思いついたのがさっきの技術だったらしい。
「すごいな。俺が思いついたのは成人してだいぶ経ってからだったからな」
「えっ!?」
ケイがさっきの技術を思いついたのは、リカルドと出会ってすぐにおこなった試合の時が初めてだった。
その時の年齢を考えると、この年のラファエルが使えるようになるのはかなりすごいと感心する。
自分がケイよりも若い年齢でこの技術にたどり着いたと知って、ラファエルはさっきよりも表情が少し明るくなった。
「でも、覚えたてだったようだな」
「……はい」
さっきの技術が使えるようになったのはすごいが、どうもまだまだ使いこなせているようには見えなかった。
そのため、最近になってようやく形になる所まで持って来たのだとケイは考えた。
案の定、ケイに図星を付かれたラウルは、頷きと共に返事をした。
「やっぱり分かってしまいますか?」
「あぁ、魔力を溜めるまでの時間がかかり過ぎだ。あれを実戦で使うのは難しい状態だな」
自分以外なら使えない技術だが、ケイなら1度見せればもしかしたら同じことをしてくるのではないかと思っていた。
しかし、実際はもうあった技術のため、あっさりと自分の欠点を突かれた。
魔力を1ヵ所に溜めて威力の増大を図るという発想は合っているが、それを実戦で使えるかが問題になってくる。
貯めるまでの時間がかかるラファエルのでは、まだまだ完成とは言い難い。
「ラウルのように一瞬というべき速度まで上げないと通用しないな」
「はい。完成形を見れてよかったです」
あの技術を実戦で使えるようにするとなると、ラウルのようにすぐに使えるくらいの魔力操作技術が必要になってくる。
思い付きの技術だったために。ラファエルの中でも何が完成なのかもイメージしずらかったのだろうが、ラウルのがお手本になってくれたようだ。
今回のこの手合わせをさせたことは、やはりラファエルにはプラスに働いてくれたようだ。
「ラウル様もありがとうございました!」
「お疲れさん」
感謝と共に礼をするラファエルに、ラウルは労いの言葉をかける。
ラウルとしても、ラファエルとの手合わせはなかなか有意義なものだったと内心では思っている。
手を合わせた経験から、ラウルもケイが言ってたようにラファエルに才能があることは認めた。
そのため、多種族でもこのように強くなれる者もいるのだと、何だかワクワクして来た。
強い者を求める獣人の血がそうさせているのだろうか。
「まあ、俺は教えてもらって覚えた身だ。自力で覚えたんだから君の方がすごいかもね」
「ありがとうございます」
ラファエルのさっきの技術が未熟だったのは、単に自分で作り出さなければならない状況だったからだ。
後継者よりも、先駆者の方が生みの苦しみを知っている分難易度が高い。
自分にとっては祖父であるケイだが、彼はその祖父と同じ苦しみを味わっていたということになるのだから、ラウルとしては素直に賛辞を贈りたい。
「後は……、君にライバルのような存在がいれば、もっと成長は早くなるかもしれないな」
「そうですか……」
ライバルと言われてもラファエルはピンとこない。
これまで同世代で自分と同等の強さを持った者を見たことがない。
互いに切磋琢磨するという経験をしたことがないゆえに、その感覚がないのかもしれない。
「そこで、ラファエロに話があるのだが……」
「はい」
ラウルの言葉に続きケイが話を始める。
ライバルということに関係ない話ではないからだ。
「お前はうちの国に来ないか?」
「「「えっ!?」」」
ケイの言葉にここにいた3人が同時に驚いた声をあげる。
ラファエルとバレリオは当然のことながら、ラウルにとっても寝耳に水の提案だったからだ。
ただ成長具合を見に来ただけという話だったのに、ケイの中ではどうしてそうなったのだろうか。
「当然エナグア王にも願い出るし、兄のオシアスの許可も求めるさ」
「しかし……」
当然このまますぐに連れて行くという訳ではない。
国民の1人を連れていくことになるのだから、ここの国王であるエナグア王からも了承を得るつもりだし、兄のオシアスにも許可を得てアンヘル島へと連れて行くつもりだ。
ケイの提案を受けた側のラファエルは 戸惑いの表情へと変わった。
付いて行きたい気持ちはなくはないが、一つ問題があるからだ。
「失礼。ケイ殿もご存じであると思うが、魔人大陸では20歳未満の者を町の外に出すのを禁じているのだが……」
「確かに掟があるのは分かっている。しかし、エナグアだけでなく魔人大陸の者たちが今後も人の力に頼って生きていくのであればいいが、そのような考えはしていないだろ?」
「……そうですね」
魔人大陸は危機があると、ドワーフに頼り、ケイに頼るというようなことが続いてきた。
それでは、いつまで経っても人族の脅威に怯えて生きなければならなくなる。
それはバレリオの望むところではない。
しかし、掟がある以上それは無理なのではないかと考えていた。
「魔人族の掟の本質は、若者を魔物などの危険から守るというものだ。しかし、ラファエルは大人よりも強い。掟は大事だが掟によって未来が狭まれるようなことがあってはならない」
「ラファエルが魔人族の未来になれると?」
「その通り。うちの島で魔人族を引っ張る人間になれるよう訓練しよう」
「……私はエナグア王の決定に従います」
昔からある掟に背くことに忌避を感じる気持ちも分からなくない。
掟があるから、魔人族は何とか守られて来たという思いもるのだろう。
しかし、掟に縛られて潰れていった種族であるエルフのケイは、掟に縛られることの問題もあるということを理解している。
掟を破る代わりに、ケイはラファエルの強化をすることを約束した。
そういわれると自分でも迷う所があるのか、バレリオは王の考えに任せることにした。
「ラファエルは?」
「……行きたいと思います!」
「分かった。エナグア王とオシアスには後程聞いてみよう」
本人の了承は得られた。
後は王と兄の許可を得るだけだ。
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