第199話
「すごい! 全く当たんない!」
「何で当たんないことが嬉しそうなんだ?」
ラウルに血して攻撃を続けるラファエル。
しかし、ギリギリの所でその攻撃は当たらない。
攻撃が当たらないでいるのに、ラファエルは何故か嬉しそうだ。
攻撃を躱している側のラウルは、その笑顔の意味が分からないため首を傾げるしかなかった。
「どうしてだ?」
現役を引退して稽古を付けている立場ならその理由が分かると思い、ケイはバレリオに尋ねることにした。
問いかけられたバレリオは、少し言いにくそうにはない始めた。
「魔闘術を使った状態だと、同年代の人間は全く相手にならなくなってしまいましてな……」
「……そりゃそうだろうな」
元々、ケイに指導を受けるまで魔人たちはたいした魔力操作ができないでいた。
それを必死になって覚えたのがバレリオとエべラルドで、辛うじて魔闘術が使えると言って良いのがこの2人だった。
それと同時期に、ケイは小さかったラファエルにも魔力の操作の指導をしていた。
最初は遊びのつもりだったが、教えたことはすぐにマスターしてしまうラファエルに、ケイは驚かされたものだった。
あの当時から天才だったラファエルなら、この年齢で魔闘術を使えたとしても不思議ではない。
そうなると、バレリオの言うように同年代の者たちと戦うのは、かなり差があり過ぎて稽古にならないことだろう。
「戦闘部隊の者たちでも、上位の者でないと稽古にならない状況ですね」
同年代では相手にならないのなら、大人たちに相手になってもらえばいいということになり、バレリオはが戦闘部隊の訓練にラファエルも紛れ込ませた。
それによって相手になれる人間ができたのもいいが、ラファエルはドンドン強くなっていっている。
戦闘部隊の者たちの中でも、少しずつ打ち負かされるようになってきていて、バレリオの後を継いだエべラルドも相手にしなければならない状況になっているのだそうだ。
「ライバルがいないってのも問題だな……」
このままでは外に出られる年齢になる頃には、エナグア王国内に相手になる人間はいなくなってしまうかもしれない。
攻めて一緒に切磋琢磨できる人間がいればいいのだが、それもラファエルには難しそうだ。
ラウルに攻撃を躱されて喜んでいるのは、どうやらすぐには追いつけない人間を見つけたことによるものなのかもしれない。
もしも成人前に稽古相手になれる人伝がいなくなったとしたら、折角の才能の成長が中途半端なままで止まってしまうかもしれない。
ケイは、それがなんとなくもったいない気がしていた。
「この道場に通ってくれていますが、俺が教えてやれるのはもう魔闘術を使わない状態での剣の訓練だけです」
「才能があるのも考えものなのかもしれないな……」
ケイも若い時はライバルと呼べるような人間はいなかった。
しかし、エルフの人生の中では短い期間だとは言っても、リカルドという友がいた。
リカルドは今でも強いが、年齢的に肉体を維持することに注視している状況といった方が良いかもしれない。
その点、ケイは20代のまま変わることがない。
魔物を倒しての成長は鈍くなったが、単純にレベルがアップすればアップする程経験値が必要になるのは当然のことだ。
そういった意味での鈍化と言って良いだろう。
つまりは、まだまだ成長できるということになる。
「流石ケイ様のお孫さんだ!」
「……楽しんでいる所悪いが、そろそろこっちも攻撃を開始するぞ!」
「はい!」
ずっと攻撃を躱しているだけで、押されているように見えていたかもしれないが、それはラウルがラファエルの攻撃の癖がないかを観察するための行動でしかなかった。
それもある程度分かってきたため、ラウルは反撃に出ることをラファエルに忠告した。
その余裕ともとれる発言に、ますますラファエルは嬉しそうに返事をする。
それだけ差があるというのが、ラファエル自身分かっているのだろう。
「…………」「…………」
ラウルがどのように攻撃して来るのかを、今度は自分が見抜こうとラファエルは少し距離を取って木剣を構える。
お互いただじっと睨み合うだけだが、いつどう攻めて来るのか分からないラファエルの方が、ラウルの放つプレッシャーにジワジワと圧されているようにも感じる。
「シッ!!」
「っ!!」
ゆらりと動き、強く短い息を吐くと同時に、ラウルが姿を消した。
実際には姿を消したのではない。
とんでもない速度で視界から消えるように移動したのだ。
「ハッ!!」
「ぐっ!!」
死角へ死角へと動くラウル。
そして、姿を確認できていないラファエル目掛けて距離を詰める。
死角からの攻撃に、ラファエルが反応できずラウルが処理を得るために木剣を首へと振る。
当然寸止めするつもりだったが、微かにラファエルの視界にラウルの姿が入り込んだのか、攻撃をギリギリの所で攻撃が防がれることになった。
「良い反応だ。視界だけでなく魔力探知も咄嗟に広げたみたいだな……」
「えぇ、ギリギリ間に合いました」
勝利と思った攻撃が止められたのだが、ラウルはそれ程驚いていなかった。
というのも、ラファエルがどうやって自分の攻撃に反応したのかが分かっていたからだ。
目で追いきれないと判断したラファエルが、魔力探知で来る方向だけを感じ取ったのだ。
「っと!!」「くっ!!」
攻撃と防御によって鍔迫り合いの状態になり、少しの間押し合いをしてからお互い後方へ飛んで距離を取った。
魔闘術によって強化された状態のラウルの方がパワーの面では上のようで、鍔迫り合いも苦しむような声を漏らしたおはラファエルの方だった。
「フゥ~……、これは勝ち目はないな……」
「降参するか?」
「いえ! 当たって砕けます!!」
距離を取ったラファエルは、額に汗を掻きつつ弱気な言葉を呟く。
それに対し、痛い目に遭う前に降参を宣言するかを尋ねる。
負けるにしても、当然このまま負けを認めるという訳にはいかない。
最後に自分の持てる力を全て注いで、せめて一矢報いてやろうとラファエルは考えた。
「面白いな! 何をするのか見せてもらおう!」
笑みを浮かべてそう言うと、ラウルは木剣を構えてラファエルが何をしてくるのかを期待しながら待つことにした。
本当なら、何かをされる前に敵を仕留めろようにケイは言っている。
ラウルのそれは、その指導を無視するような行動だ。
しかし、ケイはラウルに文句は言わないでおく。
ケイも、ラファエルがどんな攻撃をしてくるのかが気になったからだ。
「ハァ~……!!」
距離を取った場所で、ラファエルは低く呻くように声を漏らす。
どうやら集中して体中から魔力をかき集めているようだ。
「ハァッ!!」
「っ!!」
ラファエルは溜めた魔力で地を蹴り、一気にラウルへと接近した。
「おぉ! あれは……」
その魔力の使い方は、ケイも使える技術だ。
魔力を足に集中し、その爆発力によって接近速度を無理やり上げたのだろう。
昔リカルドと戦った時にケイがおこなったのと同じ技術を、あの時のケイと同じようにラウルが自分で生み出し実行したということになる。
やはり素晴らしいセンスだと褒めたいところだ。
だが、
「それを考え付いたのは素晴らしが、魔力を溜めるまでの時間が問題だな」
「なっ!?」
これまでにない程の速度で急接近したというのに、ラウルは全く焦る様子がない。
ラファエルはそんなことお構いなく攻撃をしようと、振りかぶった木剣で思いっきりブッ叩いてやろうとした。
だが、木剣が届くと思た時にはラウルはいつの間にかラファエルの背後へと回っていた。
驚いて固まっている彼を無視し、ラウルの剣が首に添えられていた。
これによって、ラウルの勝利、ラファエルの敗北が決定したのだった。
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