第12章
第178話
魔人大陸を侵略しようとした人族を追い返し、自身が育った島に帰ったケイ。
それからしばらくは平穏な日々が続いていた。
「えっ?」
島に戻ったケイは、これまで通りの畑仕事に加えて色々と物づくりをすることにハマり、毎日を好き勝手に生きている。
しかし、そんなケイへ息子のレイナルドが一つの報告をしてきた。
「魔人大陸にちょっかいだそうとしている国があるらしい」
「また?」
レイナルドの言葉に、ケイは思わず眉をしかめる。
折角魔人たちに協力して追い返したというのに、またも同じようなことが起きたとなると、そう思ってしまうのも仕方がないだろう。
「うん。セベリノ殿に会いに行ったらそのことを相談された」
昨日、相談があるとの報告を受けたため、国の代表としてレイナルドがドワーフの国へ向かったのだが、そこでドワーフ王国の国王になったセベリノに相談されたとのことだった。
セベリノの父で、ケイ同様転生者だったマカリオは、結局たいして話す機会もないまま天に召されてしまったのはとても残念だ。
もう少し、この世界に産み落とされた理由について話し合いたかったところだ。
しかし、今はそれよりも人族のこと。
「懲りねえな……」
毎度毎度どこかの国が魔人や獣人の国にちょっかいをかけてくるので、しつこいと言わざるを得ない。
いっぺんに2、3の国を潰してやらないと理解しないのだろうか。
「どうする? 俺が行こうか?」
「いやいや、お前に何かあったらこの島の人間みんなが困るだろ?」
報告を受けて面倒臭そうな表情をしたケイに対し、息子のレイナルドは代わりに援護に向かうことを提案する。
しかし、その提案ははっきり言って賛成できない。
この島のことは、もうレイナルドが統治していると言って良い。
もちろん、レイナルドの弟のカルロスの協力もあってのことだが、もうケイがあれこれ言うことは無い。
島民のみんなも楽しく毎日を過ごしているようなので、もうケイの出る幕はない。
ケイに何かあっても特に困らないが、レイナルドの方はそうはいかない。
みんなの安寧の拠りどころになっているのは、もうケイではなくレイナルドなのだから。
「それは父さんも同じだろ?」
たしかに、レイナルドからしたら母に当たる美花が亡くなって、ケイは少し生き方を変えた。
島のみんなのことは心配しつつも、自分がいなくてもいいと思えば色々な大陸に遊びに行ってしまう。
無責任にも思えるが、それによってレイナルドの評価が上がったことを思うと、そうなるようにしていたのではないかと疑いたくなる。
それに、最初に救われた獣人のルイスとイバンの2家は、ケイへの感謝を忘れていないからか、大ぴらではないが島民同士の結婚相手は選んで行っているように思える。
出来る限りケイの血が濃くなるような組み合わせを計算しているようだ。
ケイとしてはお互い好いた者同士が結婚するのが良いと思っているので、あまり血のこととかは気にしないでほしいという思いがある。
「俺はみんなのおじいちゃん的な立ち位置だから……」
昔に比べて島民の数も増えてきた。
島民は畑仕事がメインになっており、仕事で家を空けることが多い。
その間、子供たちの面倒を見るのがケイは大好きだ。
見た目は20代のまんまだが、子供たちからおじいちゃんと言われて懐かれると、気持ちがほっこりする。
もしも1人で行ってやられたら、子供たちには悲しまれるかもしれないが、大人たちはそれ程ダメージを負うこともないだろう。
「化け物みたいな戦闘力のジジイがいてたまるかよ」
「ジジイはともかく、化け物は余計だ!」
普通の人族なら老人と言って良い年齢のため、ジジイ呼ばわりで腹を立てることは無い。
しかし、化け物呼ばわりは心外だ。
それを言うなら、孫もいるレイナルドもジジイだし、化け物並みの戦闘力の持ち主だ。
化け物に化け物と言われるのはなんだかできず、ケイはツッコミを入れた。
「せめて保険としてラウルでも連れて行ってくれよ」
「あいつも子育て忙しいだろ?」
ケイの孫でレイナルドの息子のラウルは、孫たちの中で一番魔力量が多い。
転移もできることを考えると、レイナルドとしてはもしもの時のために連れて行ってほしいのだろう。
しかし、ケイの言うように、ラウルも結婚して子供がいる。
その子供の相手に忙しい思いをしているラウルを連れて行くのは、なんとなく気が引ける。
「俺が見るから良いんだよ」
「……あっそ」
どうやら、レイナルドがラウルを連れて行くように言ったのは、単純に孫と遊びたいという我が儘のようだ。
島の代表としての仕事もあるため、なかなか孫と遊べていなかったのがストレスになっていたのかもしれない。
ケイとしても、そう言ったことをレイナルドに任せっぱなしにしていることを申し訳ないという思いもあるため、それに文句を言うことはやめておいた。
「行って来るか……、ドワーフには世話になってるしな」
国王のマカリオが亡くなり、王太子だったセベリノが王位に就いたのだが、ドワーフ族にこれといった変化は起きていない。
ただ、以前のように画期的な商品が開発されることはなくなった。
そう言った分野で天才と言われていたマカリオがいなくなったのが影響しているのかもしれない。
ただ、それまでに作った物を改良するという分野へ移行したため、色々な魔道具がバージョンアップされていっている。
「なんか新商品出てたらもらってきて」
「分かった」
以前もエナグアの戦いに協力したが、その時にも報酬として色々な魔道具をもらってきた。
今回も依頼を受ける代わりに何か役に立つ魔道具をもらって来るつもりだ。
レイナルドとしても、島のみんなが喜ぶものをもらってくることを期待しているようだ。
「行くぞ! ラウル!」
「ハイ、ハイ……」
レイナルドから報告を受けた翌日、ケイはラウルと共にカンタルボスへ行くことにした。
いきなり付いてくるように言われたラウルの方は、子供と離れるのが寂しいのか、少し不満そうに返事をしている。
「リカルド殿に挨拶するのだから、シャンとしろよ」
「……分かってるよ」
娘のルシアと結婚したこともあり、ラウルにとってリカルドは義父にあたる。
毎回そのことを理由に訓練相手に指名され、ラウルにとっては困ったことになっている。
獣人としてはもう高齢になるというのに、リカルドはまだ強いままだ。
ケイの孫は、みんな魔法も使える獣人というのが適切と言ってもいい。
魔法も使えて、身体能力も高い。
それだけ聞くとめちゃめちゃ強い新種族のように思えるのだが、獣人並みの身体能力や魔力が多いと言っても人族に比べればといったところで、純粋な獣人やエルフに比べるとどうしても落ちる印象だ。
つまり、ラウルは強いとは言ってもリカルドの相手にならず、訓練では毎回負けてばかりだ。
そのため、リカルドに会うのが憂鬱の種になっているのだ。
「じいちゃんが義父上の相手をしてくれよ」
「バカ言うな! 俺でも無傷で済むか分かんない相手だぞ」
今回は祖父であるケイが一緒にいる。
そのため、ラウルはケイにリカルドの相手をさせようと考えているが、ケイとしてもリカルドの相手は勘弁したい。
エルフのケイは、昔に戦った時よりも強くなっている。
いまだに20代の容姿と肉体をしているので、恐らく今戦えばリカルドよりも強いと思える。
しかし、前回本気だったと言い切れないし、今も肉体を維持しているリカルドと戦ったらただで済むとも思えない。
これから魔人大陸で人族相手に戦う前に燃え尽きる訳にはいかない。
なので、もしもの時の逃走用員でしかないラウルに、今回もリカルドの相手をしてもらうつもりだ。
「まぁ、がんばれ!」
「え~……」
今回もリカルドにやられるイメージしかできないラウルは、ケイの言葉に残念そうな声をあげたのだった。
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