第118話

「リカルド殿! ケイ殿!」


 2体の魔族を倒してドワーフの王城へ戻ると、セベリノがケイたちを待ち受けていた。

 魔族がいたことと、それを倒してきたということはもう伝わっているらしく、かなり嬉しそうな表情をしている。

 王子であるということ考えなければ、駆け寄ってきそうなほどだ。


「この度はご助力ありがとうございました!」


「なんの!」


「どういたしまして」


 セベリノは、感謝の言葉と共に2人に頭を下げる。

 ドワーフたちだけだったら2体の魔族の存在に全然気付けず、もっと甚大な被害が広がっていたかもしれない。

 それを考えると、セベリノからすれば頭を下げるくらいでは足りないくらいだ。


「魔族がいなくなり、数が増えることがなくなったため、残りの魔物は我々自身で始末します」


 魔物が何度倒しても増えてくる原因が分からず、いつまでも戦い続けなければならなかった時とは違い、魔族という元凶に苦しめられていたということが分かった今、もう迷いなく戦うことができる。

 元々、ドワーフは大抵の魔物と戦えるだけの力を持っている種族。

 ここから先はケイたちに迷惑をかける訳にはいかない。


「城の者に案内をさせますので、お二人はお寛ぎ下さい」


「了解した」


「ありがとうございます」


 残っているアンデッドの魔物たちと、これまで倒してきた魔物の残骸を放置しておく訳にはいかない。

 残骸に魔素が集まって、新しいアンデッドの魔物ができてしまっては二度手間になってしまう。

 それらの始末をしなくては市民も安心できないだろうし、ケイたちの相手もまともにできない。

 後始末にいっている間、城内で待っていてもらうおうと、セベルノは近くにいたメイドに指示を出し、ケイたちを案内させたのだった。






 セベリノもトップとして戦場に向かっているなか、ケイたちが城内でのんびりと過ごしていると、美花たちとリカルドの護衛たちが案内されてきた。

 魔物の脅威も去ったことで船をようやく停泊させることができ、入国をすることができたそうだ。

 美花たちも加わってしばらくすると、後始末が終わったセベリノが城内へ戻ってきた。


「この度はまことにありがとうございました。御二人のご助力がなければどれ程の損害を受けていたか分かりません」


「お気になさらず」


「困ったときはお互い様と言いますから」


 護衛や美花のことを紹介し終えると、セベリノは改めてケイたちに頭を下げて礼を述べてきた。

 リカルドにちょっと痣ができたくらいで、たいして苦戦をしたつもりはないが、それはそれとして、ケイとリカルドはありがたくセベリノの礼を受け入れた。


「魔物のことでお騒がせしましたが、我が国へお越しいただいたこと感謝いたします。父に代わって感謝申し上げます」


 ケイたちがこの国に来た元々の目的は、ドワーフ王国の国王であるマカリオに会うためだ。

 そのマカリオは、体調不良で床に伏して安静にしている状況なため、会うことはできそうにない。

 それでも、王子のセベリノに恩を売れただけでも、ケイたちは良しとするところだ。


「今回お越しいただいたお礼という訳ではないですが、何かお望みの魔道具を差し上げようと思うのですが……」


「……宜しいのですか?」


 セベリノの言葉に、ケイが反応する。

 魔道具は物によっては相当な金額をする。

 それをポンとくれると言うのだから、思わず確認をしてしまった。


「大丈夫です。父からも了承は得ております」


 大金の魔道具をタダでくれるとなると、いくらこの国の王子のセベリノでも独断でどうにかできるとは思えない。


 セベリノが魔物の後始末に出ている時に、宰相のゴンサロにこの国のことをチョコチョコ聞いていたのだが、この国の王位は世襲制らしく、マカリオの子供はセベリノだけらしい。

 なので、セベリノは跡継ぎに決定しているのだが、だからと言って魔道具を好き勝手出来るような権利を有していない。

 天才マカリオのアイディアによって、多くの魔道具が開発され、ドワーフ王国は発展してきた経緯がある。

 魔道具がこの国の生命線でもあるので、好き勝手にしようものなら、市民から大ひんしゅくを受けること間違いなしだ。 

 そのためにも確認したのだが、ちゃんと了承を得ていると聞いて安心した。


「……私はこの武器が気になった」


 この話題が出ることが分かっていたように、リカルドは話し始めた。

 そして、セベリノから借りていたハンマーを取り出したのだった。


「なかなかしっくりくる武器がなかったので、これを機に何か欲しくなった」


 戦っている時にも感じていたが、このハンマーは珍しくしっくりくる武器だった。

 大抵がリカルドのパワーに耐えきれず、あっという間に壊れてしまうのだが、これは全然平気そうだ。

 戦いのバリエーションを増やすにも、耐えきれる武器がなければ話にならない。

 その一つとして、この武器を手に入れることにしたようだ。


「その武器でよければどうぞお持ちください。作った者としては、自分の武器がリカルド殿ほどの武術者に気に入って貰えて嬉しいです」


 このハンマーを作ったのは、セベリノだ。

 父のように色々な分野で功績を残している訳ではなく、セベリノは一番得意だと思った鍛冶技術の習得に力を入れた。

 マカリオが特別なだけで、これまでのドワーフ王は鍛冶の方が得意な者が多かった。

 色々な分野で父には勝てなくても、この分野では歴代の王と同等の能力を有しているという自信があっため、セベリノはなんとか性格が捻じ曲がること無く済んでいるのかもしれない。

 獣人の国の中でもかなり上位の戦闘力の持ち主であるリカルドに認められる武器を作ったということに、鍛冶師としてセベリノの内心は喜びで満ち溢れていた。


「ケイ殿は何が宜しいですか?」


「ん~……、そうですね……」


 突然言われても、どんなものがあるのかも分からない。

 アンヘル島に必要な物が何なのか、もしくは自分に必要な物を選んだ方が良いのだろうか。

 そう考えると、何を選んでいいかなかなか思いつかない。


「……容量の多い魔法の指輪なんて良いんじゃない?」


 ケイがどんな魔道具にするかを悩んでいるのを見て、美花が一つの提案をしてきた。


「……魔法の指輪?」


 美花の提案に、ケイは考え込んだ。

 ケイが今している魔法の指輪は、前世の記憶が戻る前のアンヘルの時に渡されたものだ。

 迫害を受け続けたエルフが、長い年月少ない資金を集めて手に入れた貴重なもので、アンヘルの記憶が残るケイにとっても、無人島生活で大変世話になった代物だ。

 しかし、何とか手に入れられた思い入れのある品でも、容量が少ないという欠点がある。

 ケイたちの住むアンヘル島は、まだまだこれから発展して行く島で、島民はこれからどんどん増えていくだろう。

 そうなると、食料のことなどが心配になって来る。

 転移魔法で、リカルドのカンタルボス王国へ行って調達するという手もあるが、カンタルボスも毎年豊作で居続けるという保証はない。

 美花の言う通り、確かに色々と溜め込むためにも容量の多い魔法の指輪が選択としては正しいかもしれない。


「そうだな。セベリノ殿、容量の多い魔法の指輪を頂けないだろうか?」


 魔法の指輪は容量が多ければ多い程、高額な金額になる魔道具。

 そういった意味でも、そんな貴重なものをタダで手に入れることができ、不謹慎ではあるが、ケイは今回倒した魔族たちに内心感謝した。







「こちらが今この国で一番容量が多い魔法の指輪です」


 そう言って、セベリノは指輪が入った小さなケースをケイに見せた。

 魔族の襲撃を防いだ謝礼として、ケイが求めた魔道具だ。

 魔法の指輪はセベリノの父であり、このドワーフ王国の国王であるマカリオが幼少期に作り上げた代物だ。

 これによって、ドワーフの国が鍛冶だけの国ではないということを世界に知らしめることになった。

 最初は僅かな容量しか収納できなかったが、モノづくりのスペシャリストであるドワーフたちの手によって、次第に収納できる量が増えた物が作れるようになっていった。

 魔法の指輪を求めた理由は、ケイたちの島民の食料確保に使うためだ。


「途中で入れる物がなくなってしまったので、容量の限界は分かっておりませんが、最低でも数千人分の食料は余裕で入りますよ」


 記録に挑戦だか何だか知らないが、酒に酔った者たちが調子に乗って作り出したのがこの魔法の指輪で、出来たスペックを調べた所、近場にあった物がすっからかんになるほどの容量があった。

 あまりにもとんでもないものが出来たので、作った者たちは王家に献上してきたとのことだ。

 元々、ドワーフにとって魔法の指輪は、仕事道具と好きな酒が十分な量入れておければ良いだけで、それ以上に容量を大きくする必要がない。

 調子に乗って作ったはいいが、ただの宝の持ち腐れになるだけだ。

 ならば、王族に献上して、使ってもらった方が良いと思ったのかもしれない。

 魔法の指輪に関しては、研究によってどれほどの魔力や魔石が必要なのかというのは分かっている。

 なので、素材と人数さえそろえば、これと同じような物はまた作ることができるため、この指輪をケイに渡したとしても問題ないらしい。


「そんなに……ですか?」


「えぇ」


 ケイたちの住むアンヘル島の住民は、駐留しているカンタルボスの兵を合わせても100人にも満たない。

 いきなり千単位と言われてもピンとこないが、それだけの人数を養えるだけの食料が入れられるのであれば、これほど助かる物はない。


「しかも、状態保全の機能も付与しているので、賞味期限を2~3倍近く延ばすことが可能になります」


「えっ!?」


 そんな機能まで付いているなんて、とてもありがたい。

 保存食を作って大量に入れておくつもりだったが、そんな機能付きなら保存食でなくても大丈夫そうだ。

 その日できた野菜を放り込んでおけばいい。

 ラノベのように魔法の指輪があるのはいいが、この世界のは少々不便だ。

 魔法の指輪内に収納した物の品と数が、画面表示されるとかいったようなことはないため、入れた物と数をきちんとメモしておかないと、忘れて腐らせてしまうということだ。

 この指輪なら、それもあまり気にしなくて良さそうだ。


「ありがとうございます。助かります」


「これで、食糧問題が起きたとしても大丈夫そうね!」


 書いたメモも中に入れておけばいいのだから問題ないかもしれないが、そのメモも分厚くなってしまいそうだ。

 とはいえ、美花が言ったように、これで島にとって一番恐ろしい食糧問題が解決したも同然だ。

 セベリノへ頭を軽く下げ、ケイは感謝した。


「喜んで頂けて何よりです」


 これほどの魔法の指輪を作ることなどこれから先あるかどうか分からないが、いつでも作れるような物で喜んでもらえたのであれば、セベリノの方としてもあげる甲斐がある。


「そして、こちらもお譲りしようと……」


「んっ……? こちらは?」


 たしかに、魔法の指輪が欲しいとは言ったが、当然一つだけのつもりでいた。

 そのため、セベリノから先程の指輪と見た目が同じ指輪を渡されて、ケイは困惑する。

 この指輪を渡される意味が分からないため、ケイはセベリノへもう1つ渡される理由を尋ねた。


「こちらは、容量は先程のよりもかなり少ないですが、同じ機能の付与された魔法の指輪です」


「はぁ……?」


 説明を受けても、何故もらえるのかが分からない。

 そのため、ケイはいまいちハッキリしない返事になる。


「こちらはどなたか・・・・にお渡しください」


「…………なるほど」


 チラッと美花を見つつ「どなたか・・・・」と言ったことで、ケイはようやくセベリノの意図が分かった。

 つまりは、美花へのプレセントとしてとおそろいの指輪を譲ってくれたということだろう。

 男性が女性に指輪を渡すのは求婚を意味し、セベリノが美花に直接渡すのは外聞的によろしくない。

 しかし、セベリノがケイに譲った物を、ケイが他の人間に渡そうが特に問題はない。


「しかし、さすがにこれはいただき過ぎでは?」


 魔族の襲撃を防いだことを感謝されての譲渡とは言っても、ここまでされると何だか気が引ける。

 一緒に戦ったリカルドへは武器を譲ったが、性能の差はあるとは言っても、ケイだけ2つももらってはリカルドへもなんとなく悪い。


「…………実は、こちらはケイ殿には折り入って頼み事がありまして……」


「頼み事……ですか?」


 セベリノの言葉に、ケイはちょっと安心した。

 「タダより怖い物はない」という言葉が頭をよぎり、何かあるかのと思ったが、頼み事と言われたことで、2つもらえる理由が分かったためだ。


「膨大な魔力の量で知られるエルフがこの国に訪問するという話を聞き、魔道具制作班が協力をしてもらえないかと言って来てまして……」


 魔道具を制作するには、錬金術を使用することが多い。

 そして、錬金術はやたらと魔力を使用しなければならない。

 そんな時、魔法に愛された種族とも言われるエルフのケイが来訪すると聞いて、魔道具製作班が協力を求めてきたそうだ。

 ケイが協力してしてくれれば、成功の確率が上がるだろうと考えた魔道具制作班が頼んでくるのも仕方がないことだ。


「…………それに協力をしろと?」


「いえ……、決して強制ではないです」


 美花とおそろいの指輪というのは欲しいところだが、ケイとしては別に容量の多い方がもらえるだけでも全然構わない。

 錬金術で魔力をガンガン使うとなると、相当疲労することになりそうだ。

 なんとなく気が乗らないため、ケイもどうしようか悩む。


「……いいですよ」


「おぉ! ありがとうございます!」


 魔法の指輪は、多くあっても困らない。

 そう考えると、貰えるなら貰っておきたい。

 それに、興味がある魔道具開発に関われるのであれば、ノウハウを見れるチャンスだ。

 そのため、ケイはセベリノの頼みを聞くことにした。


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