第116話
「ケイ殿! 隠れている者がどこにいるか分かりますかな?」
倒した分だけ増えるアンデッド軍団。
ドワーフたちの探知では反応を示さなかったが、ケイの探知には僅かな反応を示した。
エルフのケイだからこそ探知できる反応であって、他の種族では相当な手練れでなければ気付けるレベルではないだろう。
敵の探知には鼻を使うことが多い獣人のリカルドは、その反応には気付けはしない。
しかし、ケイの実力を認めているリカルドは、ケイのその探知を信頼している。
どこからか魔物を出現させている者がいるというのなら、その者を倒してしまえばいい。
リカルドは、魔物を出現させている張本人の居場所を探れないか尋ねてきた。
「……少々お待ちください。探ってみます」
たしかに魔力の反応を確認したが、かなり僅かな反応だった。
魔力の扱いが上手い者の仕業のように思える。
そうなると、しっかり集中しないと探知から逃れられるかもしれない。
リカルドの要望に応えるために、ケイは魔力の探知の範囲を広げていった。
『反応しない? いや、魔力遮断が上手いのか?』
自分の魔力を薄く広げ、どこに魔物がいるのかを察知する。
しかし、かなりの距離を探っても、魔物を出現させていそうな者の反応が感じられない。
この探知では魔力に反応したものの位置が分かるだけで、それがどんな生物なのかということまでは分からない。
しかし、それが人なのか、動物なのか、魔物なのか、反応の違いで分かる程度の探知でしかない。
魔力は体内から体外へ僅かに漏れているのが普通なのだが、魔力コントロールの上手い者なら、体内の魔力をコントロールして探知から逃れることできる。
この探知から逃れる技術を、ケイは魔力遮断と勝手に言っているが、さっき魔物を出現させた手際の良さからいって、相手はその技術を使っている可能性が高い。
「だったら……」
魔力遮断はケイもできる。
自分ができることは、他にもできる者がいるかもしれないという証明になる。
魔力遮断をされても探知ができるようにするための技術を、ケイは以前から考えていた。
探知範囲はいつものように広げるということはできないが、ある一定範囲内の魔力を増やし、探知を強化することによって、探知魔力に触れた物がどんな生物なのかということまで分かるようになる。
魔力量に自信のあるエルフだからできる技と言ってもいい。
「…………居たっ! あっちの方角です!」
ケイが探知を強化した範囲に、僅かに反応した何かがいた。
魔力遮断をしているからかもしれないが、それが何かということまでははっきりとは分からない。
しかし、確実に何かがそこに居ることは分かった。
発見したケイは、その者を見つけた方角を指さした。
「よしっ! 任せろ!」
「ちょ、リカルド殿! 何者かまでは分かっていません!」
何者かがいると発見したことで、リカルドはすぐさま城壁から飛び出し、ケイが指さした方角へと走り出した。
発見したはいいが、ケイもどんな相手なのか分かっていない。
それなのにもかかわらず飛び出したリカルドを心配し、ケイも追いかけるように城壁から飛び出して行った。
「……奴か!?」
「っ!?」
ケイの制止が届かず飛び出したリカルドは、他のアンデッドとは様子が違う者を発見した。
それがこの襲撃を起こした張本人だと察したリカルドは、セベリノに借りたハンマーを手に一気に距離を詰める。
相手の方も木に隠れて姿を隠していたのだが、猛烈な勢いで迫るリカルドに面食らったような反応をしている。
「ヌンッ!!」
「ハッ!!」
“ドンッ!!”
リカルドは片手で巨大ハンマーを振り下ろす。
しかし、相手もそれに対して反応する。
風切り音からして強力だと分かるようなリカルドの攻撃を、魔力の障壁を張って受け止めた。
それによって、大きな衝突音と共に地面が抉れる。
そして、ぶつかり合ったことによる反発によって、お互い弾かれるように後方へと飛び下がる。
「……何故、ここに獣人が……」
「リッチ……か?」
ローブを纏い、顔を隠すようにしていたその敵は、魔導士のような姿をして手に杖を持っている。
顔を隠してはいるが、先程の衝突によってローブの下の顔がリカルドには見えていた。
その顔は骸骨の顔をし、杖を持つ手も肉がなく骨の状態だ。
姿からリッチかと思ったリカルドだが、様子がおかしい。
見た目はリッチのようだが、リカルドの攻撃を防ぐようなその魔力量は信じがたい。
そのため、リカルドはリッチであると判断しかねた。
「リカルド殿!」
「エルフ!? 生き残りがいたのか……」
2人の衝突が起きてから少しして、ケイが追い付いた。
表情がないので分かりづらいが、その反応と声からしてリッチは驚いているようだ。
どうやら、アンデッドにまでエルフは絶滅したと思われていたらしい。
「……ただのリッチではない? 気をつけてください」
「了解した!」
リカルドと対峙するリッチに、ケイは鑑定をしてみる。
しかし、その目に移ったリッチの魔力の流れが普通のアンデッドとは違うように感じる。
そもそも、内包している魔力の量がとんでもなく多い。
それだけでこのリッチの強さの一端を感じ、ケイはリカルドへ注意を促した。
結構本気の一撃をあっさりと止められたことで、リカルドもこのリッチのことを警戒していた。
そのため、ケイの忠告にリカルドは素直に返事をした。
「フン!!」
ケイとリカルドが短い言葉を交わしているうちに、リッチは片手を地にかざす。
すると、そこには魔法陣が浮かび上がり、様々なアンデッド系の魔物が出現してきた。
「アンデッド!?」
「やはり貴様が呼び寄せていたのか?」
その魔物の出現に、ケイとリカルドは目を見開く。
思っていた通り、このリッチが無限のように魔物を出していた張本人だったようだ。
「行くぞ! ケイ殿!」
「えぇ!」
リッチがかなりの実力を有しているのは、先程のリカルドとの衝突だけで理解できる。
しかし、出現したアンデッドたちは普通の魔物と大して変わりない。
アンデッドたちが邪魔だが、ケイとリカルドならたいして気になるほどではない。
ケイは腰のホルダーから抜いた2丁の拳銃を抜き、リカルドはセベリノに借りたハンマーを握る。
2人はそれらの武器を、アンデッドとそれを操るリッチに向けて構えた。
「ヌンッ!」
アンデッドの魔物を呼び出しているリッチを、直接攻撃をして倒してしまいたいところだが、奴が呼び出したアンデッドの魔物が邪魔をするように2人の前に立ち塞がる。
それに対し、リカルドは行動を開始する。
セベリノから借りているハンマーを、その場で振り回しただけで強風が巻き上がる。
その風だけで、リカルドへ近付こうとする魔物たちはバランスを崩す。
「セイッ!!」
バランスを崩したところを、リカルドはハンマーで攻撃をする。
軽く振ったハンマーに当たった魔物たちは、強力な衝撃を受けたように弾け飛ぶ。
リカルドからしたら、この程度の魔物はただの土塊を殴っているようなものなのかもしれない。
「さすが……」
相変わらずの圧倒的なパワーによって、ガンガン魔物を倒していくリカルド。
近くで見ているケイも、その姿に思わず声が漏れる。
武器がない状態でもとんでもない存在なのだが、武器を持ったら更にとんでもない存在へとランクアップしているように思える。
「武器があると何かと楽だな!」
盾でリカルドの攻撃を防ごうとするスケルトンを、全く意味をなさないように盾ごと粉砕しながらリカルドは前進していく。
リカルドがあまり武器を持たないのは、単純に自分の力に武器が付いてこれないという理由がある。
ただの武器だと、リカルドの力に耐えきれず、すぐに駄目になってしまう。
これまで色々試すが、しっくりくるものはなかなか無いため、普段は何も持たないようになっていた。
しかし、さすがはドワーフ族といったところ。
セベリノに渡されたハンマーは、かなりしっくり来ている。
その証拠に、魔物たちが減っていく速度が、とんでもなく速い。
「ハッ!!」
リカルドならば心配なんて必要ないかもしれないが、それでも多くの魔物を一人で相手させるわけにはいかない。
そのため、ケイも銃と魔法を使って魔物を吹き飛ばし、リッチへの通り道を作り出す。
「ゥラッ!!」
ケイとのコンビネーションによって出来た道を使い、リカルドはリッチへ向かって一気に迫り、ハンマーで殴りかかる。
最初の時とは違い、やや当てることを重視したコンパクトな振り。
「クッ!!」
コンパクトといえど、その振りは十分強力な一撃。
迫るリカルドの攻撃に、リッチも慌てて魔力による障壁を張る。
リッチの魔力の制御はかなり上手いらしく、慌てて張った障壁でリカルドの攻撃を受け止めた。
「このっ!!」
「ムッ!?」
リカルドのハンマーと、リッチが張った魔力障壁で鍔迫り合いのような状況になっている所に、他の魔物を蹴散らしたケイも加わろうとする。
ケイの銃は、弾を出さなければ魔法を放つ道具としても使用できる。
魔力を手に集めるか、銃に集めるかの違いでしかないので、たいしたことではない。
「ハッ!!」
「チッ!」
ケイが魔法を放とうとする前に、リッチが右手に持つ杖に魔力を込めて地面に向ける。
すると、リッチの側に、ケイの魔法から壁になるように魔物の集団が出現した。
構わず魔法を放ち、壁になる魔物ごと攻撃してしまおうかとも考えるが、そうなると味方のリカルドへも被害を及ぼす可能性もある。
そのため、ケイは舌打ちをして魔法攻撃を中断する。
「面倒な奴だな……」
ケイが魔法を中断したのを見ると、リッチは壁にしていた魔物たちをケイに襲い掛からせる。
たいしたことがなくても数が多いと手間がかかる分面倒だ。
迫り来る魔物に対し、ケイは銃の引き金を引いて頭部を破壊していく。
アンデッドといっても所詮は魔物。
大体が頭部を破壊すれば行動不能になることが多い。
ケイの住む島でも時折アンデッド系の魔物が出るので、その経験から的確に頭部を攻撃していった。
その間に、リッチはまたも周囲に魔物を出現させ、リカルドも自分から遠ざけさせた。
「ケイ殿! もう一度行くぞ!」
「了解!」
何度魔物を出そうとも、あっという間に倒していくケイとリカルド。
次第と、リッチの魔物を出現させる速度の方が遅くなっていく。
「ハッ!!」
「クッ!?」
今度はケイが魔力を込めた蹴りをリッチへ放つ。
それを、リッチはまたも障壁を張って受け止める。
「もらっ……」
その攻防をしている間に、リカルドはリッチの背後へと回り込んでいた。
そして、リッチの隙だらけになっている背後から渾身の一撃を食らわせようと、両手で握ったハンマーを勢いよく振りかぶった。
「っ!?」
“ドンッ!!”
「リカルド殿!!」
リッチへ向けてハンマーを振り下ろそうとしているリカルドへ、突然水弾の魔法が飛んできた。
全く無警戒だった所へ飛んできた魔法だったため、体勢的にも躱すことが不可能だったリカルドは、その水弾の直撃を受けて吹き飛ばされて行った。
ケイは慌ててリッチから離れ、リカルドの方へと向かって走り出した。
「リカルド殿! 大丈夫ですか!?」
「ぐっ! 大丈夫……」
攻撃の直撃を食らったため、相当なダメージを負ってしまったのではと心配したのだが、思っていた以上にリカルドは平気そうだった。
倒されはしたがすぐに立ち上がり、直撃した脇腹の部分を軽く撫でている。
「……無事で何より」
それを見て、ケイは今更ながら獣人の頑丈さに驚きというより呆気にとられた。
どこからともなく飛んできた水弾は、結構な威力をしていた。
ちょっと痛かった程度のリアクションしかしないリカルドは、特殊というしかありえない。
何はともあれ、リカルドの無事が確認できたケイは、一安心して水弾が飛んできた方角へ探知を広げた。
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