第57話

「みんなはどうした?」


 村に戻ったケイは、見張りをしていた息子のレイナルドに村の状況を尋ねた。

 美花が先に戻ったはずなので、最近の異常の真相と状況は説明されていると思う。

 そのため、自分が戻るまでの間に、みんなで何か話し合ったはずだ。

 それを聞いておこうと思ったのだ。


「いつでも避難できるように、貯蔵庫になってる洞窟の中に最低限の生活道具何かを色々運んでいるよ」


「なるほど……」


 ケイがこの島について初めに拠点として使っていた洞窟は、内部の温度が一定な長所を利用して、現在は貯蔵庫として使用している。

 ケイが土魔法で部屋を幾つも作ったので、色々な種類の保存食が分かれておかれている。


「内部は? 部屋なかったよな?」


 噴火した場合、入り口さえ塞いでしまえば頑丈に作られた洞窟内は安全だろう。

 しかし、内部の部屋はほとんど保存食などで埋まっている。

 全員が入れるほどの部屋はなかったような気がする。

 そのことが気になり、ケイは問いかける。


「カルロスが魔法で広げてた」


「あっそ……」


 ケイと美花の2人の息子は、ハーフとはいえエルフの血を継いでいるからか、ケイ程ではないにしても魔法のレベルが非常に高い。

 どんな魔法も使えるが、レイナルドは火や風の魔法が、カルロスは水と土の魔法が得意な方だ。

 レイナルドとよく組み手をしたりしていたのが原因なのか、カルロスは魔法攻撃を防ぐために、どちらかというと防御系の属性が得意になったのかもしれない。


「お前は何で、ここにいるんだ?」


「噴火したら諦めるしかないけれど、ギリギリまで畑は守らないと……」


 ケイが噴火による被害を減らす細工をしてきたが、何をしようと火山灰が降ってくることはどうしようもないだろう。

 そうなると、畑にも降り積もることになるため、作物の成長に悪影響が出るのは目に見えている。

 どれほど続くか分からないが、噴火がおさまるまでは畑は諦めていた方が良いかもしれない。

 今畑を守ったところで、あまり意味がないようにも思える。


「イバン兄たちが一生懸命育てている畑だからね。可能性は低いけど、噴火しないって可能性もあるし……」


「なるほどね……」


 レイナルドが言ったように、噴火しないという可能性もたしかにある。

 しかし、魔物が逃げているような現状では、はっきり言って期待はできない。

 それでも何もしない訳にはいかないのだろう。

 自分も手伝っているが、イバンたち夫婦は一生懸命みんなのために作物を育てている。

 食べ物のありがたみをよく知るケイや美花は、息子2人に耳にタコができるほど、食べ物への感謝を忘れるなと教えてきた。

 それが、ちゃんとレイナルドには届いていたのが分かり、非常時でありながら何だかちょっと嬉しかった。


「噴火したら諦めろよ。種もとってあるし、畑はまた作ればいいからな」


「あぁ」


 イバンたちの頑張りは分かるが、ケイが言うように畑は作り直せばいい。

 不作の年のことも考えて、野菜全部の種は保管してある。

 自然が相手とは言え、理不尽に思うのは仕方ないが、守ることに意地になる必要はない。

 表情的に、レイナルドもそこまでこだわっているようには思えないので、ケイはみんなの手伝いに行くことにした。




「地震が頻発してきましたね……」


 ケイと美花が噴火の兆候を確認してから3日が経った。

 遠くに見える煙は、少しずつ大きくなっているように見える。

 それと、ルイスが言うように、地震の頻度が増えてきた。

 震度的には1か2くらいのものだが、数が増えると不安がどんどんと募って来る。

 子供たちや女性は、いつでも避難できるよう洞窟から離れないようにしてもらっている。


「噴火が近いのかも……」


 地震の数が倍々に増えていっているのは、恐らく噴火が近い証拠だろう。

 分かっていても何もできないのではどうしようもない。

 ケイができることと言えば、できる限りいつもと変わりないように過ごすだけだ。

 とは言っても、洞窟の付近から離れる訳にはいかないので、みんなには室内遊具を作ることにした。

 この世界には前世と同様にトランプがあると、ルイスたち獣人たちから聞いた。

 ならばと、厚めの紙を使ってケイは錬金術でトランプを作成しておいた。

 紙のことだが、島には小さいが竹藪がある。

 竹から紙を作れるということを知っていたケイは、それを材料に錬金術を試してみた。

 そうしたら、肌触り的には荒めだが、れっきとした紙が作成された。

 この紙を使い、子供たちには算数などの学問を教えたりしている。


“ゴゴゴゴ…………”


「まただっ!!」


「ぐっ!?」


 昼食をみんなで食べ、子供たちがトランプで遊ぶ中、ケイがルイスと話し合っている最中にまたも地面が揺れ始めた。


「今までより強い!?」


「子供を避難させろ!!」


 これまでとは段違いの振動に、みんな慌て始めた。

 そんな中、ケイは落ち着いて指示を出す。

 言われた大人の女性たちは、みんな子供を連れて洞窟の奥へと入って行った。


“ズドーンッ!!”


「とうとう噴火したか!?」


 魔力を目に集め、視力を強化してケイが山の方を見てみると、モクモクと煙が上空へ登っていく様が見えたのだった。


「…………良かった」


 魔力を目に集めて視力を強化し、噴火した山の方を見てケイは安堵の声を漏らした。

 遠くに見えるケイが作った巨大な壁からこちら側には、溶岩が流れてきている様子がない。

 噴火した時のために細工してきたことは、どうやら役に立っているようだ。


「大きな噴石も飛んで来ていないようだし、これなら大丈夫そうだな……」


 この星の自転の影響なのか、噴火した煙はこちらに向かって来ているようだ。

 つまり、火山灰もこちらに流れてくるだろう。 


「レイ! この周辺に薄く魔力の壁を張るんだ!」


「分かった!」


 噴火したことで沸き上がった小さな噴石が、ようやくケイたちの所にもパラパラと落ちてきた。

 ただ、この調子なら薄い魔力障壁で十分だ。

 まだ噴火したばかりなので、ケイは異変が起きた時のために、念のため魔力は温存しておきたい。

 なので、ケイは息子のレイナルドに、みんなの住宅を含めた範囲に魔力の障壁を張らせた。 

 山に作った壁のように、この周辺に土魔法で天井を作ろうかとも考えたのだが、積もった火山灰の重さで崩れ落ちようものなら、二次被害になりそうなのでやめておいた。


「どれだけ持つ?」


「……これくらいの規模なら半日近くかな?」


 弱いと言っても範囲が広いため、まあまあの魔力を消費する。

 それを普通に半日使えると言えるのだから、レイナルドの魔力もとんでもない量をしているのが分かる。

 レイナルドの弟のカルロスも、同じように魔力の量がとんでもないので、自分も洞窟の外で手伝うと言っていたのだが、もうすぐ結婚を控えている身なので、外よりも中を守るようにケイたちが言いつけた。


「余裕を残して10時間ってところか…………ん?」


【しゅじん! キュウたち! てつだう!】


 ケイとレイが交代で障壁を張れば大丈夫そうだが、疲労の蓄積を考えると2人だけだと少々不安が残る。

 そんなケイの下に、従魔のキュウたちが近寄ってきた。


「そうか……じゃあ、みんなにも手伝ってもらおう」


【うん!】


 キュウを筆頭に、魔法特化とは言ってもケイの従魔たちは強くなっている。

 魔力も地道に増えていて、美花よりも魔力量だけなら上かもしれない。


「キュウ2時間、マル1時間、ガンとドンは2匹で1時間頼む」


【うん!】


 キュウたちの魔力量を考えると、魔力障壁を張っていられるのは4匹で4時間くらいだろう。

 それだけでもケイたちが休めるのであれば十分だ。


「レイが8時間で、残りは俺がやる」


「分かった」


 噴火がどれくらいの期間続くか分からないので、全員の余裕を持った時間を考えると、これぐらいがちょうどいいだろう。

 ケイが半日請け負うが、レイナルドとケイの魔力量の差を考えれば、当然といったところだ。


「「「「…………」」」」


 キュウたちに協力してもらうようになると、子供のケセランパサランたちもケイの側にやってきた。

 期待した目は、自分たちにも手伝わせてほしいといったところだろうか。


「……お前たちはみんなと中に入ってな」


““““……コクッ!””””


 はっきり言って、彼らたちでは実力的に手伝ってもらう訳にはいかない。

 なので、洞窟内に帰って貰った。

 素直に頷いていたが、役に立てないと分かると悲しそうな表情をして洞窟に入って行った。






◆◆◆◆◆


「いつまで続くんだ……」


「だね……」


 噴火が起こって1週間が経った。

 キュウたちの協力で、余裕をとった時間割にしたのだが、動けずにじっとしているのは精神的に疲労が溜まる。

 ジワジワ噴火の威力が治まっていっているようだが、小さい余震が続いているのを考えると、まだ予断は許さない状況だ。

 洞窟内のみんなは何の問題もないようなので、それに関しては気が楽になる。


“ゴゴゴゴ…………”


「っ!? 余震か!?」


「何だっ!? 強いぞ!?」


 地面が揺れ出したので、いつも通りの余震だと思っていたが、いつも以上の揺れに、ケイとレイナルドは慌てたような声を出した。

 揺れの大きさからいったら、噴火した時と同じくらいの揺れをしているのだから仕方がない。


“ドカーーン!!”


「なっ!?」


「おいおい! まじかよ!?」


 山の方を見て、ケイとレイナルドは驚愕の表情をした。

 これまで煙が出ていた場所とは違うところから、噴火が起こったからだ。

 しかも、その噴火した場所が最悪なことに、ケイが作った壁のこちら側だ。

 視力を強化しなくても、赤い液体が噴き出しているのが分かる。


「レイ! 家や畑はもういい! 洞窟周辺だけにしろ」


「わ、分かった!」


 最悪なのは溶岩だけじゃない。

 噴き出した岩や火山灰が、火砕流としてこちらに一直線に向かって来ているのが見える。

 遠いのでゆっくりに見えるが、恐らくはかなりの速度で向かって来ているだろう。

 こうなったら、火砕流、溶岩流、さらに巨大岩石の落石にと、全部に注意を向けなくてはならなくなる。

 落石を防ぐだけでも、これまで以上の魔力が必要になる。

 周辺の建物や畑を守るのは諦めるしかない。

 ケイはレイナルドに、すぐに小規模で強固な魔力障壁に変えるように言う。

 レイナルドもそのことを理解し、強固な障壁に作り変えた。 


「ぐっ!? ヤバい! 岩石の量がきつい」


「レイ! 代われ!」


 元々、障壁の役を、レイナルドからキュウたちに代わる時間帯だ。

 これまでの疲労で、連続して落ちてくる巨大な岩石に、レイナルドは苦し気な声を漏らす。

 このままではレイナルドも危険な状況なので、急遽ケイはレイナルドと障壁を張るのを交代した。


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