第431話 大寒波襲来(12)
「はい。それよりも、そろそろ戻った方がいいのでは?」
「そうですね……」
俺は頷きつつも、ターナさんの事については少々思うところはあった。
ナイルさんの補佐官だと言うのなら、変な感情を向けられるのも、あとあと問題になりそうだし。
「ナイルさん」
「はい」
「少し、自分はターナさんと話をしたいと思っているんですが、時間をとってもらってもいいですか?」
「え? ゴロウ様のお手を煩わすのは……」
「ターナさんが走り去ったのは、自分にも原因がありますから」
「…………分かりました。それでは、ゴロウ様はお部屋でお待ちください。探してきますので」
「お願いします。それとメディーナさんの件ですが」
「そちらに関しては、私の方で遅れるという事を手配しておきますので」
「伝達とかは?」
以前に風の魔法で通信が出来るような事を言っていたが……。
ナイルさんは首を振る。
「こちらの世界には、現在は竜の加護はありませんから」
「そうですか」
どうやらこちらの世界では竜の加護はないと。
だが、逆に地球では竜の加護があるというのはおかしな点だよな。
まるで地球に竜がいるような――、そんなことないよな? そんなファンタジーな事があるなんてありえない。
「――では、ゴロウ様。少し待っていてください。ターナを呼んでまいりますので」
「分かりました。お願いします」
ナイルさんと別れて部屋の中で待っていると、ドアがノックされる。
「ゴロウ様。ナイルです。ターナを連れて来ました」
「あっ、はい。どうぞ――」
こんな風に待たされて来られる事の経験は少ないから何と反応していいのか困るが、これでいいだろう。
ドアが開くと、そこにはナイルさんとターナさんの二人が立っている。
「ターナ、ゴロウ様が話があるとのことです。私は、外で待っていますから」
そのナイルさんの言葉に、顔を強張らせるターナさん。
「副隊長~」
「私よりも、まずはゴロウ様と話しをしなさい。それでは、ゴロウ様。あとは、よろしくお願いします」
――バタン
ターナさんを部屋に押し込むようにして部屋からナイルさんが出ていき、俺とターナさんの二人が残された。
ターナさんに椅子に座るように勧める。
彼女は、俺に勧められるまま、素直に応じると椅子に座る。
テーブルを挟んで座る形になり、ターナさんが少し考えたかと思うと口を開く。
「それで、ゴロウ様。私と直接会話をしたいという事でしたが、それって……、先ほどの私の失礼な物言いに関しての事でしょうか?」
「失礼な物言いというか、余計なことを口走ったことですね」
「――え? 私の素行――、ゴロウ様への暴言についてのことで話をしたいという訳では……」
「いえいえ。そんな事を俺は気にしてないので」
「……き、気にして……いない? ルイズ辺境伯領を将来は治める方なのに? 貴族なのに?」
そうは言われても俺は地球では一般人として生きてきたから、貴族としての考えとかプライドは一切ないから、暴言とかはまったく気にならない。
そんなに大きく目を見開いて驚かれても逆に困る。
「まぁ、俺はこちらの世界の貴族ではないので――、それにターナさんが言っていた事に関しても一理ありますから」
「一理ある?」
そこで俺は頷く。
「そもそもナイルさんは首都ブランデンの――、ルイズ辺境伯領の辺境伯軍の副隊長ですよね? そんな立場の人が異世界で俺の護衛についているのは、軍を動かす上で色々と不都合が出てくるのは分かるので」
「……」
無言になるターナさんは、青い瞳で真っ直ぐに俺を見てくる。
「本当に、そう思っておられますか?」
思っているから、そう言ったんだが……。
「そのくらいは分からないとだめでしょう?」
「……はい。それでは、ゴロウ様は何のために私と話がしたいといったのでしょうか?」
「ターナさんが、ナイルさんに好意を抱いていると言ったことに対してです」
「――あ、そちらのことだったのですね……」
「まぁ、そうですね」
「てっきり、私はゴロウ様を護衛しているナイル副隊長の任務について口出ししたことに対してのことだと思っていました……」
「なるほど……」
たしかに、貴族の権力が強い異世界なら、ターナさんが考えたように暴言に関しての対話になるだろう。
「はい。ゴロウ様の世界の貴族の方は、民の立場になって物事を考える事が普通なのですか?」
「それは、どうでしょう?」
そもそも俺は貴族ではないし。
「つまりゴロウ様は特別ということですか?」
「まぁ、俺のことはいいので。とりあえずナイルさんの前でターナさんがナイルさんのことを好きなのでは? と、言ったことに対して謝罪をしておきます」
「――い、いえ! 貴族の方が、平民出身の一兵士に謝罪をするなど――、そんなことはしてはいけません!」
「どうしてですか?」
俺は首を傾げる。
「ど、どうしてって……」
「人は誰しも言われたくないことを抱えているはずです。それを口にすることは他人の権利を侵害することです。他人の人権を侵害することは、自身の人権をも捨てる事と同じです。他人を尊重するからこと他人からも尊重されます」
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