第424話 大寒波襲来(5)

「物置でもどうですか?」

「そうですね。ただ、雪が降るそうなので暖房関係を考えると、これからは寒くなりますから、物置では厳しいかもですね……」


 そこまで言ったところで、父親の部屋のことをふと思い出す。

 

「あ――」

「どうかしましたか? 五郎さん」

「今、物置で使っている部屋ありますよね? そこなら、整理すればナイルさんの部屋として利用することも可能だと思ったんですけど」

「たしかに……。――でも、そうしますと荷物の移動をしないといけないですね」

「まぁ、そのへんは物置を買って来てからとして――」

「はい。そうですよね」


 物置部屋となっている父親の部屋については、ナイルさんの部屋にするとして、あとは物置か。

 そのへんは、異世界に測量に行く日取りについて踝さんから連絡があった時に相談すればいいか。


「ゴロウ様。お待たせしました」


 考えていたところで、部屋からメディーナさんと共に出てきたナイルさんが話しかけてきた。

 従業員のアパートの建設とかも考えはしていたが、それは、また今度だな。


「それでは雪音さん行って来ます」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「――では、ナイルさん、メディーナさん、行きましょう」

「はい。それでは、奥方様、行って参ります」

「では行って来ます。雪音様」


 ナイルさんとメディーナさんを供だって、玄関から出る。

 まるで討ち入り前の水戸黄門みたいだなと思いつつ、バックヤード側の扉から店内に入る。

 店内に入れば、異世界の太陽の日差しで店内が明るく照らされている。

 シャッターを開けて異世界に出れば、兵士の皆さんと目が合う。


「――こ、これは! ゴロウ様! おかえりなさいませ!」


 兵士の一人が、俺の姿を見ると同時に声を張り上げて敬礼をしてくる。


「まったく、だらけているようだな」


 続いて店の中から出てきたナイルさんが溜息を共に声を上げる。

 

「副隊長、これだけ開けた場所では仕方ないと思われます。近くに建物が多く存在しているのでしたら、隠れているかも知れない間者や興味本位の人間がいるかも知れないと自然と緊張するものですが……」

「それはそうですね」


 二人の会話を聞きながら――、


「ナイルさん」

「はっ」

「それで魔力の回復には、どのくらい時間が掛かりますか?」

「そうですね。私とメディーナですと、このペースなら2時間ほどで終わると思います」

「思ったよりも早いんですね」

「まぁ正常な状態でしたら、自分の意思で魔力の循環することが可能ですので。ただ魔力が、一度枯渇してしまうと回復までに大幅な時間が掛かってしまいますが……」

「なるほど……」


 それで、メディーナさんは以前にあれだけ回復に時間が掛かったのか。


「そうすると2時間くらい暇になりますね」

「そうですね。ゴロウ様は、ノーマン様と会ってきてもいいのではありませんか?」

「うーん。何度もアポなしで伺うのも迷惑がかかりますから」

「そうですか」

「それよりもナイルさんとメディーナさんは、何か仕事があるような口ぶりですが?」

「ああ。私とメディーナは、一応はゴロウ様の護衛と言う事で異世界に赴いていますので、以前にもお話をしましたが、軍の規律どおり報告書を上げることと勤怠についても報告しなければいけないため、する事が多々あります」

「なるほど……」


 そのへんは異世界も日本も変わらないんだな。


「私は、副隊長として目を通す書類もありますが……」

「私も! 一度、部屋に戻って掃除をしてきます! ずっと放置していますから、いつも埃が――」


 どうやら、ナイルさんもメディーナさんも此方の世界でする事があるらしい。

 そして何もする事がないのは俺だけと……。


「もう! 離して頂戴!」


 異世界に来て何もすることがないなと思いつつ、市場でも散策してみようかと思ったところで、透き通ったような声ではあったが、少し怒ったような口調で、こちらに近づいてくる女性の姿が目に入った。

 その姿は、金髪碧眼の女性でスタイルもよく――、


「そこの! 異世界人!」


 女性は、俺の方を指差して近づいてくる。

 そして目の前で立ち止まると、俺を真っ直ぐに睨みつけてきた。

 そこで俺はある事に気が付く。

 目の前の女性の耳が長いことに。


「――こ、これはディアルーナ様! ど、どうして、このような場所に!?」

「このような場所? 私のことを! ノーマンは呼び出したでしょうに! 異世界と繋がるゲートに手を入れるからって! 連絡をもらったのに! どうなっているのよ!」


 その言葉に、俺とナイルさんは視線を交わす。

 そして思い出す。

 店を守護、ゲートを管理しているエクスカリバーとの契約で、エルフの族長に依頼をかけていたことを。


「あ……、そういえばリーシャさんが全部やってくれたような……」


 そこまで呟いたところで、俺を睨みつけてきていた眼光が更に鋭くなる。


「リーシャ? 異世界人! 貴方、もしかして……。ううん、間違いないわね。それで巫女姫が、結界に変更を加えたというの?」

「あ、はい……」


 あまりの剣幕で話してきたので、俺は引き攣りながら答える。

 


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