第310話 山狩り(3)

「37体? そんなに熊の死体が転がっていたという事ですか?」

「はい。どうやら、そのようです」

「現場を見せてもらっても?」

「分かりました」


 ナイルさんは、そう答えながら頷いてきた。

 案内されて到着した場所は、田口村長の果実園。

 その山の裏手。

 メディーナさんが、素手で熊を倒した場所から少し離れた斜面であった。

 

「こんな近くに……」


 桜たちを迎えにきた場所からは、100メートルも離れていない。

俺が迎えにきた時に立っていた場所からは死角になっていた場所に、熊の死体が無数に横たわっていたのが確認できた。

それと同時に――、もしかして、あの時に、これだけの熊に襲われたと思うとゾッとする。


「ナイルさん」

「はい」

「兵士達に、この山、周辺の熊を間引きするように伝えることは可能ですか?」

「分かりました。狩猟をしていた者や討伐系の任務を受けていた冒険者も騎士として採用しておりますので、その感覚で間引きをしてもよろしいでしょうか?」

「お願いします。殲滅や絶滅は避けてください」

「ハッ」


 俺は、横たわっている熊の大量の死体を見て思わず溜息が出た。

 これだけの熊の死体を処理するのは骨が折れると――。

 だが、解体して何とかしないと大事になることは目に見えている。


「ナイルさん、間引きをした熊は、全て持ち帰るように兵士に伝えてください。後々、他の組織の人間が熊の死体を発見した際に大事になるのは避けたいですから」

「分かりました」


 ナイルさんが、すぐに魔法を使って指示を出していく。

 しばらくすると、兵士達が討伐した熊が次々と山から運ばれてくる。

 その中には鹿やイノシシも含まれていて――、日が昇るころには、熊の死体の数は50匹を超え、イノシシや鹿も合わせて100匹近くが積み上げられていた。


「思ったより豊かな山なのですね。ゴロウ様」

「そうですね……」


 最近は、温暖化の影響でイノシシや鹿の被害が看過できないレベルに達しているとニュースで見た事があったが、相当酷い事になっているようだ。

 ただ、俺が指示しなくても、適切に森の動物を処理してくれたのは、素直に感心する。

 既に騎士達は、全員、戻ってきていて全員無傷。


「ナイルさん」

「はい」

「とりあえず、収穫したリンゴのカゴがコレなんですが、これを兵士達に車が停めてある場所まで持って行ってもらえるように指示してもらえますか?」

「分かりました」


 ナイルさんが、兵士達に収穫したリンゴが入ったカゴの輸送を指示している間に、俺は、村長へと電話する。

 すでに日が昇っているので問題はないだろう。

 数コール鳴り――、電話を取る音が聞こえてくる。


「五郎か!? どうかしたのか?」

「いえ。山狩りの方は無事に終わりました。今は、収穫したリンゴの入っているカゴを、駐車場まで兵士の方々に運んでもらっているところです」

「そうか……。怪我人は?」

「特に出ていません。それと、山の中で、かなりの獣を狩ってきましたので、その解体の方が大変だと思います」

「具体的には、どれだけ狩ってきたのじゃ?」

「熊が52体、鹿が88匹、イノシシが20匹と言ったところです」

「秋口と言い、ずいぶんと生息しておったのう」

「一応、殲滅ではなく間引きですので、生態系には影響はないと猟師の経験のある騎士は言っていたそうです」

「それなら、良いが……。一応、猟友会の人間は昼には到着するらしいからの。それまでには、間引きした獲物の処理はしなくてはいかんの」

「そうですね。とりあえず異世界に持っていこうかと」

「ふむ。それが妥当と言ったところだの。儂は、今から軽トラックで、そっちに向かう」

「分かりました。それでは、狩った獲物に関しては、月山雑貨店の駐車場まで運んでもらっておきます」

「そうじゃな。それじゃ、猟友会の集合場所は寄り合い所にしておいた方がよいのう」

「そうですね。あとのことはお願いします」

「うむ」


 電話を切る。


「ゴロウ様。今、話を聞いておりましたが、獲物は全てゴロウ様の店前に運ぶという方向で?」

「そうですね。お願いできますか?」

「お任せください」

「それでは、俺はホースの設置とかしておくので、先に帰ります」

「分かりました」


 頷いたナイルさんは的確に兵士達に指示を出していく。

 その様子を確認したあと、俺は車を停めた場所まで戻る。

 車を停めた場所に戻ったところで、俺は足を止める。

 簡易的な駐車場には、収穫したリンゴが入ったカゴが大量に積み重ねられていた。

 思ったよりも昨日は収穫が出来ていたようだ。




 月山雑貨店の駐車場に到着したあとは、道路を挟んだ反対側――、手洗いがある場所に水道ホースを引っ張っていく。

 動物の解体の際には、付着した泥だけでなく、血を洗い流すために大量の水が必要になるからだ。 

 解体場所に、ブルーシートを何枚も敷いていく。

 一匹ずつ解体していたら終わらないという考えからであった。

 全ての用意が済んだところで、兵士達が熊やイノシシ、鹿などを抱えて戻ってきた。









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