第285話 桜の異変(4)
「村長――、と、言うか……、皆さん、何をしに集まってきてるんですか?」
生垣――、洗濯物が干してある場所には、田口村長だけでなく――、
「五郎! 村長に呼ばれてきてやったぞ!」
踝健さんや、
「月山様。何かあったとか聞きましたが?」
踝誠さんに、その他には根室さん老夫婦や、根室恵美さんや和美ちゃんに、目黒さんまでもが来ていた。
「よし、ガスの用意はできたぞ?」
大きな鍋を、庭に持ってきた中村さんは、俺と目が合うと――、
「おお。五郎! 田口から、今日は、お前の家で飲み会をするって聞いてな! それで、とりあえず集まれる奴だけ声をかけて集まったんだ」
「五郎さん!」
俺が戻ってきたことに気が付いた雪音さんが、縁側から降りてきて近寄ってくると耳元で――、
「じつは、お爺ちゃんが、桜ちゃんのことを心配して、今日は飲み会でもしようって、それで集会をするってことで人を集めてしまったみたいなの」
「――と、いうことは……、ここに集まっているのは――」
「はい。桜ちゃんのことを心配して集まってきてくれたみたいです」
「そうですか……」
つまり、みんな桜のことを心配して集まってきてくれたと。
「中村さん。何だか、すいません」
「気にすることは無い。それに――、五郎の妹の娘だろう? だったら、田口も言っていたが、桜ちゃんは、結城村の大事な子供ってことだ! だろう? だったら、困った時に集まって気分を紛らわすくらいのことはしないとな! だろう? 田口」
「ああ。そうじゃな」
「それもしても一言あっても――」
俺の呟きに中村さんが鍋を置くと――、
「言えば五郎のことだ。迷うだろう? こういう時は、儂らみたいな人生経験豊富な年寄のアドバイスを聞くべきだ。それにな、故人ってのは、祭りで見送ってやらんと安心して向こうの世界にいけんだろう?」
その言葉に、俺と雪音さんが思わず目を合わせる。
「いや、まだ死んだと決まったわけではないので――」
「だったら、尚更だ。生きていると仮定して――希望を持って、動かんとな!」
中村さんが自信満々に話してくる。
まぁ、言いたい事はわかるが――、それでも……。
「五郎さん、皆さん、桜ちゃんを心配して集まってきてくれたんです。ですから、今日は、その御厚意に甘えましょう」
「……そうですね」
他人からの好意は素直に受け取らないとな。
村長たちは、バーベキューをするために、機材を色々と持ってきており、それらを設置していく。
田口妙子さんや、雪音さんに恵美さん、そしてメディーナさんは、豚汁を作ると材料を切ると中村さんが持ってきた巨大な寸胴鍋に、村で作った野菜や、根室老夫妻が持ってきた豚肉を切って入れていく。
その様子を横目で見ながら、俺は縁側に座る。
「ゴロウ様」
「どうかしましたか? ナイルさん」
「随分と領民に慕われておりますね」
「まぁ、全て村長と親父の縁ですよ」
「そんな事ありません。ゴロウ様が繋いできた縁が、これだけの人を集めたと、このナイツは思っています」
「そうですか……。それならよかったです」
そう呟いたところで――、「おじちゃん?」と、居間に入ってきた桜が、俺に声をかけてきた。
「起きたのか?」
「……うん」
まだ目が腫れている。
「ゴロウ様。私が治療魔法を施します」
ナイルさんが、小声で俺に魔法を使う事を伝えてくると桜に近寄る。
「サクラ様。少し瞼が腫れているようですので治療魔法を施します。少しだけリラックスしておいてください」
「うん……」
桜が小さく頷く。
そして、ナイルさんが小声で言葉を紡いでいくと、緑色の光がナイルさんの手を被っていき――、
「ヒール」
そう、ナイルさんが呟くと光が消える。
「どうですか? サクラ様」
「おじちゃん、どう?」
「ああ。瞼の腫れは治っているぞ」
初めて回復魔法を直に見たが、本当に回復するんだな。
「あの、おじちゃん」
「どうした?」
「みんなが集まっているけど、今日は、何かあるの?」
桜は聡い子だ。
嘘は良くないだろう。
「みんな、桜のことが心配で集まってくれたんだ」
「桜のことを?」
「ああ。以前に田口村長は言っていただろ? 子供は結城村の宝だって。みんなは桜のことを家族だと思っている。大事に思っているんだ。だから、みんな桜を元気づけようとして集まってきてくれた」
「そう……なの……?」
「ああ。だから、みんなバーベキューをするらしい」
「バーベキュー……。それって、桜のことを心配して――、元気づけようとしてくれているの?」
「そうだな」
「そうなんだ……。桜ね……、お腹空いたの……」
「桜ちゃん! これとか美味しいよ!」
そんな桜の言葉を待っていたかのように話に割って入ってくる和美ちゃん。
その和美ちゃんの手には、串に刺され焼かれた肉や野菜がジュージューと音を立てていた。
「……和美ちゃん?」
いきなりの登場に驚く桜。
それに怯むことなく和美ちゃんは口を開く。
「うちは桜ちゃんが落ち込んでいるのは少し困る……。落ち込んだ時は、お母さんが言っていた! 美味しいモノを一杯食べようって! だから、ほら!」
桜は、和美ちゃんから無理矢理に近い感じで串を受け取ると一口、お肉を口にして――、
「美味しいの……」
と、小さく呟いた。
すると大きな瞳が潤んでいく。
「とって美味しいの……ひっく、ひっく……」
ポロポロと涙を零しながら、桜は串に刺され焼かれた野菜や肉を頬張っていた。
祭りが終わったのは夕方すぎ。
その頃には、桜と和美ちゃんは疲れて、桜の部屋で一緒に寝てしまった。
自然と、祭りの主役が居なくなったこともあり、バーベキューは、誰からともなく片付ける事となった。
バーベキューの片付けた後は、それぞれ解散した。
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