第278話 辺境伯との会話(2)

「それでは、ゴロウ様。我々は、馬車で向かうとしましょう」

「そうですね」


 そう答えつつも、俺は、月山雑貨店とか道を挟んだ向かい側の建物へと視線を向ける。

 建物の入り口には兵士が2人立っていた。


「どうかしましたか?」

「――いえ。帰りに2億は持って帰らないといけないなと思いまして――」。

「そういうことですか」


 俺の言葉に頷いたナイルさんが近くの兵士に命令をしてアタッシュケースを2つ、店内に移動しておくようにと指示を出した。

 その間に、馬車が到着し、俺とナイルさんは馬車に乗り込む。

そして、馬車は走り始めた。

馬車は何時も通り市街地を通る。


「それにしても、ルイズ辺境伯領は、まったく気候が変わらない気がしますね」


 馬車から見える並木。

 そして、町を歩く人達の服装は、まったく変化がないように見受けられる。


「ルイズ辺境伯領は、南の大帝国と、セイレーン連邦を隔てているドラゴンピーク山脈かの熱波に晒されていますから」

「ドラゴンピーク?」

「はい。ドラゴンの住まう活火山の略です。そして南には、エルム王国が属しているセイレーン連邦を一国で相手出来るほどの軍事力を持つ大帝国、ヴァルキリア帝国が存在しています」

「ヴァルキリアですか……」

「はい。幸い、ヴァルキリア帝国とセイレーン連邦は地続きではありますが、大山脈が連邦と帝国を隔てている為、直接的に兵を送ることはできません。そのために、互いのテリトリーを犯す事もなく戦争は起きていません」

「なるほど……」


 つまり、日本でいう所のインドと中国を隔てているヒマラマ山脈みたいな感じか。

 関係的にも両国の軍事的衝突を止めている点も似ているな。

 

「何にしても平和な事は良い事ですね。それよりも、ドラゴンピークから熱波が届くということは――」

「はい。活火山です」

「それは、色々と問題ですね」

「ただ、地震はほぼありませんから」

「それなら、いいんですけど……」


 日本で活火山って言うと、熊本の阿蘇山とかが有名だが、年がら年中、地震が起きているイメージがあるというか、何と言うか。

 そんな活火山が領地と隣接していると考えると、心配にならない方が逆におかしい。

 特に、日本人は火山には敏感だからな。

 まぁ、地震に関しては耐震基準が世界一高い事もあるから、そこまで問題視はされてないが――。


「はい。実際にルイズ辺境伯領では、地震が起きたのは200年前とされていますから」


 つい最近じゃないか……。

 ――というより、むしろ地震のサイクルを考えると、そろそろ地震が起きるまであるのでは?

 と、思ったが口にすることはしない。

 そもそも魔法が存在する異世界。

 鉱物さえ変化させることが出来るのだから、何でもありなのでは? と、思ってしまったからだ。


「そうなんですか……」


 曖昧に言葉を返しながら、俺は会話を切るように外を見た。




 馬車は辺境伯邸内に入る。

 そして、伯爵邸内をしばらく走ったところで、馬車はようやく停まり――、


「それでは、いきますか? ゴロウ様」

「そうですね」


 ナイルさんが先に馬車から降りたあと、俺も続いて馬車から降りる。

 異世界は、まだ午前10時頃で朝早いという事もあり、些か肌寒くは感じる。

 ナイルさんと共に辺境伯邸に入ったところで何人かのメイドから視線を向けられるが、その都度、頭を下げられる。

 すると、辺境伯邸の執務室がある方角から歩いてきたアロイスさんが俺の前で足を止めた。


「ゴロウ様、お待ちしていました。メディーナから、話は聞きました。すでにノーマン様が、お待ちです」


 そういうのは執事の仕事なのでは? と、思うが――、毎度のことなので、


「分かりました」


 案内されたのは、やはり予想通り執務室。




 ――コンコン


「アロイスです。ゴロウ様を、お連れしました」

「ご苦労。入りなさい」


 室内から、ノーマン辺境伯の声が聞こえてくる。

 許可を得、俺は扉を開けて執務室内に足を踏み入れる。


「こんな朝早くから、伺ってしまい、ご迷惑をかけます」


 俺は執務室内に足を踏み入れると同時に頭を下げる。


「そんなことは気にしなくてよい。孫が会いに来たのだ。お前達は下がってよいぞ」

「はっ、それでは失礼します」


 頭を下げてアロイスさんが扉を閉める。

 その際にナイルさんも一緒に無言で頭を下げると、下がった。


「――さて……」


 室内に二人だけになったところで、執務椅子から辺境箔が立ち上がる。

 そして、近くのティーポットから紅茶を二人分、ティーカップに注ぐと、執務室内のテーブルの上に置く。


「ゴロウ。まずは、話を聞こうとしようか。座りなさい」

「失礼します」


 俺が急いでコンタクトを取ったことに、辺境伯は何かを感じ取ったのか、席を進めてくる。

 さらに、人払いまで――。


「それで、ゴロウ。今回は、商談で来たわけではないのだろう?」

「わかりますか」

「うむ。今は、ゴロウは、異世界での足固めをしている大事な時期なんじゃろう? だったら、異世界に来る理由は、商談以外と考えられるからのう」



 やはりというか、こちらの事情を察していたらしい。

 ただ、どういったものかまでは……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る