第260話 暖房器具を買いに行こう
「そうですか。分かりました」
「いえいえ。また、何かありましたら宜しくお願いします」
そこで神田自動車の社長さんとの電話が切れる。
「月山さん、休憩終わりました。あれ? どこかに電話していたんですか?」
「ええ。じつは――」
俺は、自身がパリ・ダカールラリーを連覇した事については伏せながら、フォークリフトがパワーアップした事だけを伝え、他の人は乗らないように徹底周知という事で根室恵美さんと、ナイルさんに説明をした。
「そうですか。分かりました。それでは納品業者の方が、来られたときには月山さんを呼んだ方がいいですね」
「そうですね」
まぁ、どっちにしても姪っ子の桜がエンジンを起動しない限りは、どうしてなのかウンともスンとも言わないから問題ないと思うが。
「ゴロウ様。お客様が――」
そんなフォークリフトについての業務連絡をしていたら、丁度、利用客が店の駐車場に入って来た。
俺はナイルさんと、根室さんに店舗の管理を任せて店の外へと出る。
そして母屋に行き、外付け用の石油タンクを確認する。
もちろん、タンクの中は灯油で満タン。
「そういえば、もうすぐ冬なんだよな……」
そう思うと、俺は大事なことを想い出す。
灯油は用意したが、それ以外の家電製品がないことを。
俺は庭の中を通り縁側から家の中へと入る。
そして、台所でフーちゃんの頭を撫でている雪音さんに声をかけた。
「どうかしましたか?」
「じつは、もうすぐ冬ですよね?」
「そうですね」
「暖房器具が無い事に今さながら気が付いたんですけど、買い物に行きませんか?」
「あら?」
首を傾げる雪音さん。
そして、一瞬考えたあと――、
「そういえば、ありませんでしたね」
――と、のほほんと呟く。
「ですよね。それで買い物に行きませんか? 丁度、店の方にはナイルさんと根室さんがいますから」
「そうですね。フーちゃんもいく?」
「わんっ!」
「話は聞かせてもらったの! 桜も行くの!」
「うちもいくで!」
いつの間にかギャラリーが増えていた。
桜だけでなく、和美ちゃんやフーちゃんも同行するらしい。
「じゃ、皆でいくか」
「わーい!」
「よっしゃー!」
「わんっわんっ! ガツガツガツ」
一瞬にしてローストポークの皿を空にするフーちゃん。
そして、雪音さんと言えば、エプロンを外し財布を持つ。
「それでは、行きましょうか」
「そうですね。それじゃ、俺は、根室さんに和美ちゃんを連れて行っていいのか確認してきます」
「はい」
すぐに俺は店に向かい、和美ちゃんの母親の恵美さんに暖房器具を購入する為に家を空けること、それと和美ちゃんを一緒に連れて行っていいのかを確認する。
「はい。構いませんよ? 娘も、桜ちゃんと一緒に居た方が楽しめると思いますから。娘を宜しくお願いします」
「分かりました」
簡単に許可が下りた。
俺はすぐに母屋へと戻る。
車に既に雪音さん、桜、和美ちゃん、そして、フーちゃんが乗っていた。
「許可が下りるって分かっていたんですね」
俺は運転席側のドアを開け、シートに座り、シートベルトをしながら雪音さんに語り掛ける。
「はい。家には誰も居なくなりますから。それなら、私達と一緒の方が良いと恵美さんも判断したと思います。それにナイルさんと二人きりになれますから」
「え?」
「いえいえ、何でもありません。それよりも急ぎましょう!」
「そうですね」
車を走らせる。
目的地は、大館市のホームセンター。
国道105号線に出たあとは、真っ直ぐに来たへと向かって運転する。
「おっさん、どこに向かってんの?」
「秋田市の地元企業が経営しているホームセンターだな」
「ホームセンターって、土とか売っているところ?」
「まぁ、そんなところだな」
聞いて来た和美ちゃんの声に応じながら、俺は運転を続ける。
場所は、冷蔵・冷凍ケースの展覧会をしていた駐車場を貸していたホームセンター。
1時間以上、運転したところで、国道285号線と交わるところを右折する。
そして、しばらく走ったところで秋田自動車道に乗り換えたあと北上を続け――、そして到着した駐車場に車を停める。
「ビック・グリーン?」
少し寂れたホームセンター。
その入口上に掲げられていた看板を見あげながら、姪っ子の桜が呟く。
「ほら。中に入るぞ」
桜の頭を撫で――、店の中へ入る。
もちろん、フーちゃんは車の中で待機だが――、
ホームセンター内は、来る冬に備えて暖房家具フェアをしている。
「丁度いい時期にきましたね。五郎さん」
「そうですね」
俺は、雪音さんの声に返事しながら、ホームセンターの一角に作られている――、暖房フェア。
その暖房フェアに並べられている商品を見ていく。
「おじちゃん! これって何!?」
「それは、なまはげセットだな」
どうして、暖房フェア中なのに、コスプレ商品が置かれているのか甚だ疑問だが――、
「へー。すごーい。和美ちゃん、見て見て!」
「ちょ、やめろって!」
二人が遊んでいる様子を横目で見る。
「五郎さん。コレとは、良くないですか?」
「コタツですか……」
「はい。かなり大きめのコタツですので――」
「たしかにコタツは良いですよね……」
一応、母屋にもテーブルやちゃぶ台はあるが、コタツはない。
これから、冬でも人が集まって話し合うことが多いからな。
大きめのコタツがあって悪い事はないだろう。
「――では、客間に2個と、居間に1個ということで3個買っていきますか」
「はい。あとは、ストーブも必要ですよね。セントラルヒーリングみたいなモノはありませんから」
「あれって、やばいくらい電気代かかりますよね。俺、以前に海外で生活していた事ありますけど、年間で40万円くらい電気代掛かっていますよ?」
「そんなにですか?」
「はい。それに初期費用も相当かかりますから」
一応、海外で仕事もしていた事があるから、そのへんの事情には詳しい。
とにかく家全体を温めるセントラルヒーリングは、家の中全体を快適に住めるようにしてくれるが、電気代というコストはヤバイことになる。
「そうですか。でも、初期費用というのは?」
「循環パイプや各部屋にパネルヒーター設置もしないといけないので、あとはボイラーの設置も必要ですから。初期費用は100万円前後ですけど、それって新築工事の場合で、リフォームだと、どれくらいの予算がかかるか――、それどころか工事中は……」
「そうですよね……間借りする家もありませんからね」
「はい。――ですので、とりあえずは、コタツとヒーターだけ石油ファンヒーターか、ストーブを購入しましょう」
「そうですね」
雪音さんと話し合いながら、購入する石油を使った暖房器具を選んでいく。
そして、俺達が買い物をしている間、桜と和美ちゃんは時計コーナーで、ガラスケースに入っている高そうな腕時計や宝石を見て目を輝かせていた。
「宝石が好きなのは子供の頃からなんですね」
「そうですね。五郎さん、この石油ファンヒーターなどは、どうですか?」
「どれどれ」
買い物時間は1時間ほどだったが、お会計を済ます。
購入したのは石油ファンヒーターを5台と、コタツを3台。
とてもじゃないがワゴンRに載せることはできない。
俺は、自宅まで送ってもらえるようにと手続きをしてお金を払ったあと、桜や和美ちゃんと共に車に戻る。
そして、車の鍵を開けると、フーちゃんは後部座席にふてくされたまま座っていた。
「おじちゃん、フーちゃんが、激おこなの」
「仕方ないだろ。ペットを店の中に連れていくわけにはいかないんだから」
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