第253話 ガソリンスタンドの建築の話(3)

「それは、まだ言えません。ただ――」

「ただ?」


 踝さんが、早く続きを言えとばかりに急かしてくるが――、


「少し待っていてください」


 居間に行き、ノートパソコンを取り、客間に戻ってくる。

 そして、スマートフォンで調べたガソリンスタンドのURLを打ち込んでから、表示された画面を、客間にいる3人に見せる。


「これは……大型トラック専用の給油所ですか?」


 踝さんが、引き攣った表情をする。

 それは、そのはずだ。

 計画の大元を知らなければ、大型トラック用の給油所の設置なんて無駄だと考えるから。

 だが、俺は何となく思っていたことがある。

大型トラックにとって、ガソリンスタンドでの給油は思っていたよりもずっと大変なのでは? と――。

理由は簡単で、普通の乗用車と違い大型トラックは図体がでかいし小回りがきかない。

そんなことを、アルバイトをしていた時から俺は思っていたのだから、トラックの運転手だって思っているはずだ。

だったら、新しく給油所を作るのなら、大型トラック専用の給油システムも作っておいた方が絶対にいいはずだ。


「そうなります」

「ちょっと待ってください。これだけの2000坪のガソリンスタンドなんて……国内では1位、2位を争う事に……」

「それは、別にどうでもいいことです」

「……これだけの規模のガソリンスタンドを運営するおつもりですか? 月山さん」

「はい」

「…………分かりました。ですが、さすがにコレだけの規模の建設となると、うちだけでは手が回らないというか――、そもそも店の建設予定もありますし……」

「そこに関しては、踝さんに一任します」

「いやはや、これは、随分と大がかりな仕事になりそうですね。村長」

「五郎」

「はい。これだけの規模の工事をするのなら、それだけの資金を表立って動かす必要が出てくる事は分かっているな?」

「分かっています」


 俺は頷く。

 そして、銀行とは俺は繋がりがない。

 それに、いきなり銀行に、これだけの大事業をするからと融資を受ける事もできない。

 だが、俺には切り札がある。


「菱王マテリアルから、お金を引っ張ってきます。その為に、目黒さんにお願いして、後日、話し合いの場を持ちたいと考えています」

「――な!? ひ、菱王マテリアル!? あの大財閥の中核を似合う御三家の一つの菱王マテリアルと!?」


 思わず立ち会がり、村長の方を見た踝誠さんの瞳は村長に説明責任を求めていた。


「落ち着け。踝のじゃりんこ」


 答えたのは村長ではなく中村さん。


「目黒は、ああ見えても菱王マテリアルの遠縁だからな。アイツを介して本家と話をつければ何とかなる――、そう思っているんだろう? 五郎は。問題は、何を手土産として相手を交渉のテーブルに着かせるかだが……。ふむ……、その辺も考えておるようだな」


 その中村さんの言葉に俺は頷く。


「勝算はあると思っています」


 俺はハッキリと答える。

 ノーマン辺境伯が、鉱石を金に変質させた山は、鉄鉱石なら、それなりに採取できる。

 そして調べて分かったことだが、鉱石1トンあたりに含まれる金鉱石の含有率は、通常は60グラム程度。

たが、鉄鉱石なら鉱石の大半を鉄が占めている。

さらに言えば、ノーマン辺境伯は、その鉱石全てを金に変えたのだ。

それが、それだけ凄い事なのか少し考えただけで分かる。


「勝算って言われてもな……、相手は戦前からの大財閥、菱王グループの一角を担う菱王マテリアルですよ! そこを納得させる材料なんて……」

「あります」

「だから――」

「踝」

「村長……」

「儂が大丈夫と言っているのだから大丈夫だ。そのうち、分かる。そうだろう? 五郎」

「はい。いずれ説明したいと思います」

「……分かりました。わかりました。やります。ただ踝建設だけでは、さすがに無理がありますから、少し時間を頂きたいです」


 踝誠さんの方から折れてくれた。

 村長が味方につくと強いな。


「それでは現地調査と測量を行ってからの図面を作ります」

「宜しくお願いします」

「頑張らせて頂きます」


 立ち上がり部屋から電話をしながら出ていく踝さん。

 どうやら、明日の朝一番に測量に入るようだ。

 新規店舗の隣に併設するという形だから何とかなるだろう。


「はぁ――、それにしても、随分と思い切った手を打つ事を決めたな? 五郎」

「今後のことを考えると、このまま過疎化させてはいけないと思いましたので――」

「それは雪音のことを想ってか? それとも――」

「俺が守りたい人達のことを考えて最良の手を打つ事を決めました」

「そうか……。なら良い。――で、だ。五郎」

「何でしょうか?」


 村長が、和風のテーブルの上に地図を広げる。


「中村、お前には聞いてもらいたい」

「やっぱり何か重要なことを隠していたんだな? 田口」

「ああ。今回の件は、物事が外に出ると不味い案件だからの」

「つまり、結城村の存続に関わる問題ということか?」

「――いや、国の存続にも関わってくる可能性がある」

「また大げさ――と、言う訳ではないんだな?」


 真面目な表情をしたままの村長を見て、中村さんも真剣な表情をする。


「じつは異世界とのゲートが開いた」

「まじか!? 誰が開いたんだ? ――って、コイツしかいないよな……」

「はははっ」

「笑いごとじゃないだろ。それよも田口、異世界とのゲートが開いたのは、どれだけの人間が知っているんだ?」

「儂の家族と、五郎の家族、あとは目黒に、卸問屋と都筑と健と言ったところか」

「まだ少ないんだな」

「ああ。結城村でも知っているのは限られておる」

「……なるほど。だが、菱王マテリアルに言うんはマズイだろう?」

「分かっておる。だから菱王マテリアルには、金鉱山で取引をすることにした」

「金鉱山だと!? どこに、あるんだ? そんな話、聞いた事ないぞ?」

「あるわけなかろう。作ったんだからな」

「――つ、作った!? 金って、作れるものじゃないだろ!」


 そこで、ハッ! と、したような表情を中村さんがしたあと、俺の方を見てくる。

 すかさず俺は頭を左右に動かし否定。


「それなら異世界人に作らせたってことか?」

「そうだ。だから金鉱山がある。それを餌に菱王マテリアルからお金を引っ張ってくる。そうだろう? 五郎」

「その通りです」


 さすが村長、俺が考えていたことはお見通しということか。


「まったく――。それなら、最初から、そうだと言ってくれれば文句を言わなかったってのに」

「踝のせがれがいたからの」

「誠には異世界のことは言ってないのか?」


 その中村さんの言葉に俺は頷く。

 今までは、少額とは言えないものの、それなりに額を誠さんには払っていた。

だが、それは銀行からの融資だと言えば騙せる範疇の金額だった。

だが、今度からは、そうもいかない。

だからこそ、誠さんも資金の出所を――、金についての話も詳しく聞いて来たんだろう。


「そうか。だが、早めに言っておいた方がいいぞ。こちらの見方に付けた方がいいからな。土木業は」

「分かっています」

「理解しているのならいい。それより田口。金鉱山のことが本当なら、水源を含めた土地は、ある程度のお金がかかっても買い占めておいた方がいい」

「分かっている。すでに、そのことに関しては動いている」

「なるほど……。――なら、あとは結城村周辺地域も買い占めた方がいいな。絶対に、土地が上がるだろうし」

「ですよね……」


 そこは、商売人気質なんだな。


「五郎も、そのつもりなんだろう?」



 





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