第244話 辺境伯との対談

「そうなのかー」

「あっ! おじちゃん、興味無さそうなの!」

「ソンナコトナイゾ」

「五郎さん……、片言に……」


 雪音さんが横からツッコミを入れてくる。


「そういえば、ゴロウ様」

「ん? メディーナさん、どうかしましたか?」

「魔法の杖と言えば、ノーマン様は魔法師達に作らせ――」


 俺は慌てて、メディーナさんの口を手で塞ぐ。


「それは極秘事項なので、こっちの世界で話したら駄目だ」

「むごむご――」


 コクリと頷いたメディーナさんの口から手を離す。

 まったく、桜に聞かれたら、どうするんだ。

 辺境伯と一緒に製作を進めているし、それはサプライズで渡すつもりなんだから。

 俺はチラリと桜の方を見ると、魔法少女のアニメのオープニングテーマソングを桜は歌っていた。

 ノリノリだ。

 どう見ても、俺達の――、メディーナさんとの会話を聞いていたようには見えない。


「セーフ」

「五郎さんって、桜ちゃんには甘いですよね?」

「そんなことないです」


 横で俺とメディーナさんとのやり取りを見ていた雪音さんが、そんな言葉をポツリと呟いてきた。

 夕食を食べたあとは、まず藤和さんへと電話を入れる。


「はい、藤和です」

「すいません。こんな夜分遅くに――」

「いえ。月山様は、色々と抱えておりますから」

「そうですか。実はですね。莫大な紙幣なんですが、保管場所を異世界にしようと思っているんですけど、藤和さんは、どう思いますか?」

「そうですね。当面の運転資金以外、全てを異世界側で保管するというのは良い案だと思います。税務署の方が、税務調査で現地に赴くことは珍しくはありませんから」

「なるほど……」

「それにしても異世界で資産管理ですか……、私も完全に、その概念については失念していました。むしろ異世界側に現物に資産を移動するという事が出来るのでしたら、金を一度に売却する必要もありませんでしたね。異世界側で、管理しておいてもらえれば良かったのですから」

「たしかに……」

「それに、税務署も確固たる証拠――、現物を見つけない限り証拠になりませんからね。今度からは異世界側に倉庫か建物を借りる形にして資産管理をした方がいいですね。これは月山様の特性を利用した裏技みたいなものですね」


 そう藤和さんは口早に提案してくる。


「――では、辺境伯には、異世界側に倉庫か建物を借りる形で話を持っていく方向で大丈夫ですかね?」

「はい。辺境伯様でしたら、こちらの意図を汲んでくれると思いますし、月山様の資産でしたら、警備兵もつけてくれる可能性もありますから」

「そうですか」

 

 電話を切る。


「――さてと……」


 藤和さんも問題ないと考えている以上、早めに行動した方がいい。


「メディーナさん」

「はい。ナイルさんが戻ってきたら異世界に行きましょう」

「分かりました」




 ――それから、2時間が経過し。


 桜と雪音さが風呂に入り、桜が寝て、俺が風呂に入って出たところで玄関の戸が開く。


「今、戻りました」

「ナイルさん、待っていました」


 玄関まで、ナイルさんを迎えにいく。

 するとナイルさんは、懐に――、


「何故に、イノシシを抱えて?」

「イノシシですか?」


 俺の疑問と、初めてイノシシを見たのかメディーナさんが首を傾げる――、そんな様子を見てナイルさんは口を開く。


「帰ってくる途中で畑を荒らしている魔物が居ましたので成敗してきました」

「なるほど……」


 思わず頷く。

田舎では、秋までイノシシの被害は発生する。

ナイルさんは、畑を荒らしていたイノシシに偶然出くわしたのだろう。


「とりあえず怪我が無くて良かったです」

「いえ。この程度の魔物でしたら、素手で対処は騎士団の者でしたら、誰でも行えますので」

「そ、そうですか……」


 とりあえず、明日は役場の方に届け出にいくとしよう。


「そういえば、ゴロウ様」

「はい?」

「先ほど、待っていたと言われましたが?」

「ああ。じつは異世界に行って辺境伯と対談したい事がありまして」

「なるほど。それで、お金の門番を含めて、私が戻ってくるのを待っていたという事ですか」

「そうなります」

「分かりました。それでは、すぐに用意をしてきます」


 ナイルさんは、脇に抱えていたイノシシを持ったまま外へと出ていく。

 何故に? 外に? と、疑問を抱えながらも、俺も後を追う。

 すると、玄関を出たところにイノシシが3匹ほど転がっていた。

 そのイノシシの上に、ナイルさんは、先ほど抱えていたイノシシを置くと、


「それでは、ゴロウ様。先に血抜きをしてしまってもいいですか?」

「え? でも、死んでいるのでは……」

「私は成敗したと言っただけで、殺したとは言っていません。そもそも、この世界の魔物を殺していいのかは領主であるゴロウ様に許可は得ていませんので」

「ああ。なるほど……。ちなみにエルム王国だったら?」


 ニコリと笑みを向けてくるナイルさん。

 それだけで何となく分かる。

 まぁ、とりあえず。


「そうですね。死んでないのなら心臓は動いていると思いますから血抜きが先ですか」

「メディーナ」

「はい。副隊長」

「あとは任せた」

「えー」

「メディーナも出来るだろう?」

「できますけど……」

「あ、メディーナさん」

「何でしょうか? ゴロウ様」

「イノシシの解体の時には、雪音さんにも伝えておいてください。雪音さんも、イノシシは解体できると思いますから」

「奥方様もですか?」


 まぁ、田舎で暮らしていれば、イノシシを捕まえて解体するスキルは基本中の基本だからな。


「では、メディーナ。あとは、任せました」

「分かりました……」


 がっくりと肩を落とすメディーナさんを玄関前で放置して、俺とナイルさんは店に向かう。

 そしてバックヤードを開けたあと店内を通り、異世界側へと出た。

 いつも通りにの日差しが――、店を警護している兵士達の視線が、俺達に向けられてくる。


「副隊長、本日は、随分と軽装のようですが――」

「御託は良い。それよりも馬車を用意しろ」

「はっ」


 店から出るなり、ナイルさんの指示で馬車が用意される。

 俺とナイルさんは馬車に乗り、辺境伯邸へと移動した。




 30分弱で馬車は辺境伯邸のある敷地内に入る。

 そして、しばらく走ったところで馬車は停まる。

 馬車から降りたあとは、俺とナイルさんは、出迎えた執事の人に――、


「それでは、ノーマン様をお呼びいたしますので、こちらの客間でお待ちください」


 そう言って、出入り口のホール近くの客間へと通された。

 メイドが持ってきた紅茶を口にしつつ、


「ナイルさんは座らなくてもいいですか?」

「私は、ゴロウ様の護衛ですから」


 そんな固いセリフを口にしてくるナイルさん。

 しかたなく、俺は、辺境伯が部屋に来るまで待つ。

 5分ほどで、ホール側へと通じる両開きの扉が開く。

 俺は立ち、頭下げる。


「ノーマン辺境伯様。本日は、急遽伺ってしまい――」

「よい。そのような挨拶は――。それよりも、何か理由があって直接来たのであろう?」

 

 テーブルを挟んだ向かい側のソファーに座ったノーマン辺境伯は、一瞬、ナイルさんの方へと視線を向けたあと、俺の方を見てくる。


「はい。じつは、ノーマン辺境伯様より援助頂いた金塊で得た資金について、こちらの世界――、ノーマン辺境伯様の領内にて保管したいと思っていまして」

「ふむ……。節税対策――、違うな。金の売買で、国に嗅ぎ付けられる可能性が出て来たと言ったところかのう。それで資産を此方に移動――、保管し、証拠を隠滅しようとしている。そんなところか」


 何も言わないのに、こちらの行動を、まるで見て来たかのように言い当ててくる辺境伯。



 


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