第237話 膨大な金の取り扱い
「ゴロウ様」
「は、はい。どうかしましたか?」
金を売った時の余りの額の大きさに放心していたところで、ナイルさんの声を聴き、正気に戻る。
それと共に、これからどうしようか? と、言う考えが浮かんでくる。
「一応、木箱の配置はこんなものでいいでしょうか?」
「そうですね。ナイルさんは、メディーナさんの手伝いに行ってください。あとは、自分がしておきますので」
「分かりました」
ナイルさんがバックヤードから出ていったあと、俺は時計を確認する。
「午前7時半か」
俺は、すぐにカウンターに移動し、電話の子機を取る。
そして、電話をかける。
「目黒だが――、こんな朝早くから何のようだ? 五郎」
「実は、相談に乗ってもらいたい事がありまして――」
「ほう……。それは儲け話か?」
「そう思って頂ければと」
「ふむ。分かった。――で、そちらから来るのか?」
「いえ。出来れば来て頂ければと――」
「……何か深刻そうな声だな」
「……」
「分かった。すぐに行こう」
電話が切れる。
俺は、すぐに村長の携帯電話に電話をかけると――、
「五郎か? どうかしたのか? 何か問題でも起きたのか?」
「実は、ちょっと相談に乗ってもらえませんか?」
目黒さんと同じ内容で話を持ち掛ける。
「…………分かった。すぐに行こう」
数秒の沈黙のあと、田口村長は、そう返してくると電話を切った。
とりあえず、これで今できることは全部か。
俺一人だけだと、出てくる案なんて多くは無い。
――10分ほどすると、軽トラックが店の駐車場に停まる。
「五郎、何かあったのか?」
軽トラックから降りてきた田口村長が話しかけてくる。
その言葉に俺は頷く。
そして、バックヤード側に移動したあと、木箱の蓋を開ける。
「こ、これは――」
しばらく金の装飾品を見ていた田口村長が、俺へと視線を向けてくる。
「まさか、この箱、全てがそうか?」
「はい」
俺は頷く。
「外の駐車場に置かれているパレットを見て、まさかとは思ったが……、ずいぶんと大量の金を辺境伯は渡してくれたものだの」
「俺も、そう思います」
「もしかしたら、五郎が何かをしようとしている事を悟って援助してくれたのかも知れんの」
「たしかに……」
辺境伯は、とても感が良い人間だ。
俺が別の店舗を建てようとしていることを直感で悟って資金援助してくれた可能性も捨てきれない。
何せ魔法という非現実的なモノが存在しているのだから、その可能性は捨てきれない。
「――それでも……」
「過剰すぎる援助――とも言い切れんか」
その村長の言葉に俺は思わず「え?」と思ってしまう。
これだけの金で過剰ではない?
「それはどういう……」
「こんなところにいたのか! 五郎! 急いできてやったぞ!」
村長と会話していたところで、店内からバックヤードに入ってきたのは目黒さん。
「――あ、目黒さん。おはようございます」
「おはようございますじゃない。それよりも朝早く電話してきて相談に乗って欲しいというのは――、なるほど……そういうことか」
俺と村長が見ていた木箱の中身。
大量の装飾品を見て目黒さんは、笑みを浮かべる。
「ここにある木箱、全てがコレか?」
「たぶん、そうだと思いますが――」
「全部は、確認しておらんのか?」
「辺境伯の話だと、全部、金の装飾品が入っていると言っていましたので」
「やれやれ――。五郎! 相手が、商品の対価で払ってきたのがコレなのだろう? だったら全部、確認せんといかんぞ!」
目黒さんから叱咤される。
「そもそも、お前は、一家の大黒柱なのだからな! お前の経済状況が悪化したら家族離散しかねないし、村長の孫娘も困るだろう! 相手が、どんなに信用のある人間だとしても対価はキチンと確認せい!」
「は、はい……」
「まったく――。まぁ、儂らを先に呼んだのは、良案とも言えるがな。――で、村長、どうしますか?」
俺と、目黒さんの話を聞いていた村長に目黒さんが会話を持っていく。
「目黒。お主のところで金は、どこまで処理できる?」
「そうですな……。時間は、かかりますが15箱……、いや20箱はいけますか」
「では、目黒に、20箱の処理を任せて、あとの10箱は、五郎が処理するという方向でいいか? 目黒」
村長の提案に目黒さんは頷く。
3分の2を目黒さんが捌いてくれるなら、俺としては言う事ない。
そんな目黒さんは、「任しておけ。ただ手数料はもらうがな」と、俺の方を見てくる。
俺は、そんな目黒さんの言葉に「分かっています」と、言葉を返した。
「うむ。分かっているのならよい。それでは儂は、トラックを持ってくるからな」
すぐに目黒さんは、バックヤードから出ていくと、店内を通り駐車場へ。
乗用車に乗った後は、走り去ってしまう。
本当にアクティブな人というか。
「五郎、他の箱は、いつも通り買取店に売るつもりなのか?」
「その予定です」
「ふむ……」
村長が考え込む。
「それなら雪音と桜ちゃんを連れて行った方がいいかも知れんの。五郎と雪音は、まだ戸籍は一緒ではないからな。雪音は、まだ儂の家が所在地として登録されておる。雪音と五郎、お前達二人でそれぞれ金を売った方がよいだろう?」
「それは――。いいんですか?」
「良いも何も、仕方ないだろう? 外にあれだけパレットがあるという事は、それだけ多くの物資を異世界に持っていったのは明白だ。つまり、それだけ支払いがあるのだろう?」
「それは……はい」
「なら、家族を頼るといい。儂も1箱ほど売るのを手伝ってやるからな」
「ありがとうございます」
「うむ。それでは、五郎」
「何でしょうか?」
「これらの木箱を一箱、軽トラックに積んでおいてくれ」
「無理です。腰がやられますから」
「――それでは、どうやって運んだのだ?」
「ナイルさんに頼みました」
「ほう……」
感心したような声を出しつつ、村長が木箱を掴み持ち上げようとするが微動だにしない。
「重いな」
「ですよね。俺も、頑張って持ち上げようとしましたけど無理でした」
「ということで、少し待っていてください」
店内を通り駐車所へ。
「ナイルさん!」
「どうかしましたか? ゴロウ様」
駐車場で休憩していたナイルさんと、メディーナさん。
ナイルさんに話しかけたところで、メディーナさんも視線を俺に向けてくる。
「木箱を一箱、運ぶのをお願いできますか?」
「分かりました」
立ち上がろうとするナイルさん。
「副隊長は、少し休んでいてください。私が運んでおきます」
「そうですか。――では、お願いします」
「はっ!」
立ち上がり敬礼するメディーナさんは、
「それではゴロウ様。私に、お任せください!」
「――え? で、でも重いですよ?」
「きっと大丈夫です」
「そうですか……」
あまり重いモノを女性に持たせるのは気が引けるが――、
メディーナさんと一緒にバックヤードへ移動する。
「五郎。大丈夫なのか?」
「さあ?」
俺としても、そのへんは良くは分からない。
「ゴロウ様。それでは、こちらの木箱で宜しいのでしょうか?」
「はい。それを一箱、向こうの車の荷台へと木箱の移動をお願いします」
「分かりました」
メディーナさんは、そう言うと、木箱を両手で持ち上げる。
「何と言うか、あれだな……五郎」
「喧嘩したら大変そうですね」
村長と話している間に、何事もなくメディーナさんは木箱を軽トラックの荷台に積んで――、
「ゴロウ様、終わりました」
「ありがとうございます」
「――いえ。お気になさらず」
「メディーナさんや」
「え? えっと……」
田口村長に話しかけられたメディーナさんは一瞬戸惑い、
「ゴロウ様?」
困った表情で俺にどうすればいいのか? と、言う表情を見せてくる。
俺も村長が、どうしてメディーナさんに話しかけたのか謎だったので首を傾げるが――、
「腕相撲とか興味があるのう」
「村長とメディーナさんが腕相撲ですか?」
「五郎と、メディーナさんじゃな」
「俺の腕が折れるので無理です」
まったく、何を言い出したのかと思えば――、そんな危険な提案はしないでほしい。
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