第190話 ワンチューバー爆誕っ!(2)

「……そうか。よかったな」

「うん! かわいいよね!」


 たしかに頭がアフロなウサギが彫られているが、それは謎のウサミミボンバーというマスコットらしい。

 名前まんまだ。

 それより、魔法少女キングドラゴンって、名前からして突っ込み要素が満載過ぎて、どこから突っ込んでいいのか正直、分からない。


「そうだな」


 ただ、桜は花の咲くような笑顔を見せてくるので、頷いておく。

 そして、桜に渡されたスマートフォンの画面を見ると、動画サイトのようであった。


「『天才犬現る! 過疎村に突如出現したスーパードッグ!』って……、どういう見出しなんだ……」


 俺は、動画タイトルが適当も良い所だと溜息をつくが、コメントが8000を超えており視聴回数が250万回を超えていたので目を見開く。


「フーちゃん、すごいの!」

「これは……」


 俺は、思わず画面を見入る。

 動画を視聴したリスナーのコメント数は、8000を超えて尚、いまも投稿コメントは動いており、『いいね!』も100万を超えていた。


「まさか……」


 俺は、席から立ち上がる。


「おじちゃん?」

「五郎さん、どうかしましたか?」

「いや、ちょっと気になったことがあって――」


 言葉を濁しながら、俺は、居間のパソコンを立ち上げる。

 そしてネットを巡回していくが、どこの動画サイトでも、フーちゃん関連の動画が上っている。

 しかも再生数は軒並み100万回再生を突破しており、それが更に他の色々なサイトに無断転載されており、さらに、幾つかのまとめサイトにも、まとめられていた。


「これは……」

「五郎さん?」

「大変です。フーちゃんが、ネットで大人気みたいです」

「すごいですね。これで、お店の利用客がいっぱいくればいいですね」

「たしかに!」


 まぁ、所詮は犬。

 一過性のモノに過ぎないだろう。

 それでも、もしかしたら売上が伸びるかも知れない。

 そんなことを考えながら朝食を食べつつ、店を開ける30分前になったので、店の前に向かうと、月山雑貨店の駐車場は、満員御礼であった。

 

「……何が起きた?」


 思わず、何時も利用客が居ても多くても3台車が停まっているのが精いっぱいで、通常時は、閑古鳥は当たり前。

 それなのに、いまは乗用車が20台めいいっぱい停まっているどころか道を挟んだ向かいのアスファルトの駐車場にまで車が10台ほど停車していた。

 

「と、とりあえず……、店を開けよう」


 俺は、シャッターを開けて開店の準備を始める。

 すると停車している車から20歳前後の男女が車から降りてくる。


「あのー」

「はい?」


 話しかけてきたのは、20歳くらいの男性。

 肌を黒く焼いていて、ピアスをしていて、まるでサーファーみたいな雰囲気。


「あの、ここで芸が仕込まれている犬を飼っているって聞いたんですけど……」

「まぁ、飼っていますが、それが何か?」

「出来れば動画に撮らせて頂けないかなって……」

「なるほど……。まぁ、構いませんが――、店の営業の迷惑にならなければいいですよ。ただ、散歩はランダムなので」

「――え?」


 どうやら、うちの、俺にはまったく! なつかない! 犬を撮影にきたようだ。

 まぁ、それでも、うちの家族には違いない。

 あまり衆人の目に晒すのは……。


「そ、それじゃ! お店の商品をたくさん買わせて頂きますので!」

「仕方ないですね! それじゃ、少し待っていてください」


 まぁ、売上に貢献するなら、今日はローストビーフを食べることを許してやってもいい。

 というか、いつも食べているイメージしかないが。

 

「おれも!」

「私も!」

「うちの動画でも使わせてもらってもいいですか!」


 俺とサーファーっぽい男性とのやり取りに聞き耳を立てていたのか、次々と冷房が効いていた車から降りてきた若い男女は、フーちゃんの動画を撮りたい! と、俺に申し出てくる。


「いいでしょう。ただ、分かっていますよね?」

「「「「「「「「もちろんです!」」」」」」」

 

 まぁ、フーちゃんだけなら、別にいいか。

 犬なら、どんなに人気になっても何か問題が起きるとかそう言う事は無さそうだからな。

 商談という口約束をしたあと、店を開ける。

 そして、フーちゃんを撮りに来た若者達は、飲み物やアイスクリームを含めて、色々と購入していく。

 約束を守るかのように。


 俺は、とりあえず母屋の方へと電話する。

 すぐに子機には雪音さんが出て――、


「雪音さん。フーちゃんを連れてきて貰えますか?」

「え? 何か、あったんですか?」

「じつは、フーちゃんを撮りに来た人がたくさん来ていまして……」

「そうなんですか……桜ちゃん! 五郎さんが、フーちゃんを連れてきてって」


 電話口から、雪音さんが桜に用件を伝えている。

 すると「フーちゃんが!? 桜もいくー!」と、元気な声が聞こえてくる。


 しばらくすると、「おはようございます」と、店内に入ってくる根室恵美さん。

 もちろん、傍らには和美ちゃんも一緒に付いてきている。


「おっさん!」

「お兄さんだ」

「すいません。娘が――」

「気にしないでください」

「それより表の来客の方々は?」


 俺達が店内で話しているのを興味深く見てくる動画を投稿していると言っていた人達に視線を向けて、恵美さんが話しかけてくる。


「フーちゃんが目当てで来ているみたいです」

「フーちゃんを?」

「何か、最近は当たり障りのないペット動画が流行っているってネットで流れているみたいで」

「そういえば、根室家でも、目黒さんに協力してもらって牛の動画とかを出していました」

「そうなんですか」


 目黒さん、色々とやっているな。


「でも、そんなに動画再生数は伸びてなくて、お義父さんは、しょんぼりとしていましたけど……」

「まぁ、牛は大きいですからね」

「そうなんでしょうか」

「たぶん、身近で飼いたいけど、住んでいる建物の事情で飼えないみたいなペットが人気だと思います」

「そうですか」


 何となく納得してくれた恵美さんに向けて、俺は心の中で「……たぶん」と、付け加えておく。


「あっ、それじゃ私は着替えてきますね。和美いくわよ」

「はーい。おっさん、またあとでな!」


 二人を見送ったあと、駐車場で撮影? の、準備をする人達を見ながら俺は見ていた。

 20分ほどが経過した所で、「お待たせしました」と、恵美さんが店に入ってくる。

 その後ろには、桜の服を借りたのか、おめかしをしている桜と和美ちゃんの姿が――、桜はピンク色のリボンで腰まで伸ばしている黒い髪をポニテ―ルに纏めていた。

 そして――、その頭の上にはフーちゃんが寝そべっている。


「おじちゃん! フーちゃん、連れてきたの!」

「ありがとう。それと……その髪は、雪音さんに?」

「うん! そうなの! 似合っている?」

「そうだな」

「むーっ!」


 何か知らないが生返事をしたら桜が頬を膨らませた。


「月山さん、もっと上手く!」


 恵美さんが遠回しに桜をもっと! ちゃんと! 褒めるようにと催促してきた。


「――おほん。すっごく似合っているぞ。もう結婚してあげたいくらいに」

「ほんと! 桜、お嫁さん!?」


 ――ざわっ


 何か知らないが、撮影をしていた連中が俺を軽蔑するような視線を向けてくる。

 中にはカメラを向けてくる奴まで。

 まったく社交辞令という言葉を知らないのか。


「おっさん! うちは!?」

「まぁまぁかな」

「扱いがひどいっ!」


 和美ちゃんが苦情を呈してくるが、日頃から、俺のことを『おっさん』と、言っているから、おあいこみたなモノだ。




 桜がフーちゃんに指示を出し、フーちゃんが、それに応じるようにして曲芸紛いのことをしている。

 そして――、フーちゃんの動画を撮りにきた動画主たちは必死にカメラなどを回していた。






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