第96話 資料作成依頼
トタトタトタと歩いてきた桜――。
そして、その足元には、フーちゃんが付いてきている。
「ちょっと、フォークリフトのエンジンを掛けてもらえないか?」
「分かったの!」
桜を連れて母屋の敷地内に停めてあるフォークリフトのエンジンを掛ける。
そのあとは、フォークリフトを店舗前まで移動。
運転手にパレットを降ろす際に使ってくれるように説明したあと――、
「月山様、ありがとうございます。それでは――」
藤和さんが、差し出してきた伝票の山。
それを受け取りながら流し読みしていく。
「今回は、この内容になりますが大丈夫でしょうか?」
「はい。概ね発注内容と同じです。それよりも、よくこれだけの商品をすぐに用意できましたね」
「いえいえ、月山様からは、当社に月山雑貨店の全ての商品の仕入れを任せて頂いておりますので――、それに開店してから2日目ですから配慮するのは当然です。これからも、末永く取引の方をお願い致します」
「こちらこそ、お願いします」
「それでは、品出しの方を手伝いますので――、それでは品出しをしてくれ!」
藤和さんが合図をすると、見た事がある顔ぶれが近寄ってくる。
「――えっと、藤和さん……」
「ああ、彼らはスポットのアルバイトですので今日は品出しが大変かと思いお願いしておいたのです」
「ずいぶんと手際が――」
「このくらいは、想定していますから。普通ですよ」
「そうですか」
「はい」
人手が増えたことは素直に喜ぶことだろう。
それにしても、想定していたとか問屋にとっては普通なのか……。
「今回のスポットのアルバイト料は、私持ちですので気にしないでください」
「分かりました」
ずいぶんとサービスがいいよな。
他にも取引がある店があるというのに――、何というか取引先を藤和さんにして正解だったな。
――全部の商品チェックが終わったのは開店してから1時間後。
棚に並べる作業は、藤和さんが連れてきてくれたスポットの派遣も手伝ってくれている事から、お昼前には終わるはず……。
「こんなところでしょうか。それでは金銭も含めて母屋の方で詳しい話などしたいと思いますが――」
「分かりました。それでは――」
藤和さんが、そう頷くと運転手と派遣に指示しに離れる。
俺もその間――、店の中に戻る。
「雪音さん」
「はい、どうかしましたか?」
お客は、まだ来ていない。
その為なのかレジには現在、雪音さん一人だけ。
「母屋の方で、藤和さんと話をしていきますのでお店の方をお願いできますか?」
「分かりました」
店から出て運転手達と話がついた藤和さんと合流し母屋に向かう。
母屋の戸を開けて、何時ものように客間として使っている居間に藤和さんを通したあと――、台所の冷蔵庫に麦茶を取りにいったところで、和美ちゃんと桜が縁側で寝ている姿が目に入る。
そして――、そんな二人の間にはフーちゃんが横になっていた。
何をしていたのか分からないが疲れて寝ているようだから、そっとしておく。
「どうもお待たせしました」
「いえいえ」
コップに麦茶を注ぎながら座る。
「えっと全部の金額は――」
「こちらになります」
最後の伝票に金額が記載されている。
さすがにかなりの納品の量があったから金額はいったと思っていたが、さすがに7ケタ近くとは思わなかったが――、
「分かりました。少し、お待ちください」
寝泊まりしている居間に戻り箪笥からお金が入っている封筒を取り出す。
まだ1千万円以上はあるが、今後のことを考えるともう少し予算を増やしておきたい。
封筒から紙幣を取り出し、支払金額を確認しつつお金を纏めてから封筒に入れる。
「お待たせしました」
居間に戻ったあとは、テーブルを挟んで封筒を藤和さんに渡す。
「ところで月山様」
「何でしょうか?」
「法人名義の口座などは、お作りになられましたか?」
「いえ、まだ作っては――」
「そうですか。法人名義の口座は、確定申告や税理士などの相談、お金の管理などが楽になりますので作っておいた方がいいかと思います」
「そうですよね……」
それは、そうなんだが――、問題は俺の資金は異世界からの流用がメインなんだよな。
その辺を考えると法人名義口座というのは、資金の動きが分かりやすくなってしまうので、デメリットになる可能性もある。
「当社としては、現金でも問題ないので良いのですが――」
「そうですか。それでは、しばらくは現金でお願いします」
「分かりました。それでは、そのように致します」
「そういえば、藤和さん」
「何でしょうか?」
「実は、お酒、雑誌の販売を考えているのですが――」
「――!」
一瞬、藤和さんの目が光った気がするが眼鏡をかけているから気のせいだろう。
「月山様は、酒類販売免許は御持ちでは?」
「いえ、ありませんが――」
以前に、ネットで調べたことはあったが――、詳細はよく分かっていないというのが実情なところだ。
「分かりました。それでは簡単に説明させて頂きます。まずは――」
――2時間後。
「月山さん、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
藤和さんのレクチャーを2時間近く聞いて、すでに俺はグロッキー状態。
お酒の免許だけでも幾つもあり、さらに取得方法や超えないといけないハードルも幾つもあり、しばらくお酒の販売はやめようと思ったくらいだ。
ただ、村長の話だとお酒を置いて欲しいという要望もあるので検討もしないといけない。
品出しが終わり藤和さん達を乗せて去っていくトレーラーを見ながら俺は大事なことを思い出した。
そういえば塩を頼むのを忘れていた。
空は澄み渡り、雲一つ無い晴天の下――。
唸り声を上げて塩をトレーラーから下ろすフォークリフト。
そんなフォークリフトが動く音を聞きながら、
「何かすいません。無理を言ってしまって――」
「いえいえ、こちらこそ確認を怠っておりました。毎月、塩が10トン必要と伺っていましたのに。それよりも前回の塩を含めて何か新しい産業でも?」
「まだまだ試作段階ですので――」
「そうでしたか。それと、ちょうど良かったです。酒販に関してですが、資料の取りまとめを行っておりますので、もうしばらくお待ち頂ければと思います」
「ありがとうございます」
そこまで力を入れなくてもいいのに……。
お酒などは村長などを含めた一部の人だけに置いて欲しいと頼まれているだけなのだから。
そういえば、タバコに関しても置いて欲しいと言われていたな。
「そういえば、藤和さん」
「何でしょうか?」
「タバコを販売に関しても資格が必要なんですよね?」
「はい。そちらに関しても資料と申込用紙を纏めておきましょうか?」
「よろしくお願いします」
「分かりました。あとは、商品在庫に関してですが――」
藤和さんが、チラリと店舗の方を見る。
その表情は、何かしら考えているように見えるが真意が見えてこない。
――ただ考えていることは何となく、言いたいことは分かる。
それは店舗の売り上げに関してだ。
月山雑貨店が開店してから、今日で3日目だから売り上げは右肩下がり。
つまり、在庫が殆ど減っていない状況に陥っている。
まぁ、初日に売れるだけ売れたから、その反動というのもあるのだろう。
問題は、それは赤字だったから――、売れる価格で売ったから売れたというのが大きい。
「冷凍食品や、ヨーグルトを含む加工食品の売り上げはいいんですけどね」
まぁ、それでも売上は芳しくない。
人件費や光熱費を含めれば開店初日ほどではないとしても2日目、3日目と共に赤字だろう。
その点に関しては雪音さんにも指摘されていて、改善方法を模索しているところだが――、現時点では黒字化する目途が立っていない。
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