第62話 真っ白な毛並み


「かなり汚れていたんだな」


 バスタオルで水気を切ったあと、ドライヤーでフーちゃんの毛並みをブラシを使いながら乾かしていく。


「ほら、動くな」


 何故か知らないが――、ドライヤーの風の方に顔を向けてくるから困ったものだ。

 しばらくドライヤーをして毛を乾かしたあとはブラッシングをしたあと廊下に放す。

 逃げるように、居間の方に駆けていくフーちゃん。


 俺は片付けをしたあと居間に戻ると――、桜がフーちゃんを枕にして寝ていた。


「フーちゃんの毛並みはしゅごいの」

「桜、動物を枕にしたらいけません!」

「はい……」


 渋々といった様子で、俺が普段から使っている枕に頭を乗せたあとコロンと横になったまま、フーちゃんを桜は抱きしめると――、その体に顔を埋めたまま寝息を立ててしまう。

 そんな様子に少しだけ俺は溜息をつきながらノートパソコンを起動する。


「――さて、レジの搬入は良いとして……、問題は藤和さんが持ってくる商品の陳列だな」


 まぁ、陳列に関しては藤和さんがやってくれるから問題はないとして……。

 結城村には、月山雑貨店以外の店がないから――、将来的にはタバコやお酒なども置くようにしたい。


「お酒に関しては所轄税務署長から一般酒類販売業免許を受け取る必要があるのか……」


 インターネットのホームページに取得方法は書いてあるが、結構面倒そうだな。

 だが――、今後のことを考えるとお酒とタバコは嗜好品だから取り扱っておきたい。


「タバコは、結城村の所在地を管轄する財務局長から製造たばこ小売販売業許可証の認可を受ける必要があるのか……」


 どうして管轄が、それぞれ分かれているのか――。

 まったく一つにまとめておいて欲しいものだ。

 

 パソコンで、店舗開店後の構想を練っていたところ、玄関の戸がガラガラと開く音が聞こえてきた。


「誰だ?」

「おーい。五郎、いるか?」

「踝さんか……」


 一応、チャイムはあるんだが……。

 まぁ、いまは桜もフーちゃんのお腹に顔を埋めて寝ているからな。

 呼び鈴は逆に鳴らされなくて良かったまである。


「さて――、どうかしたんですか?」

「なんだか不機嫌そうだな?」

「いえ、別に――」


 とくに不機嫌ではない。

 ただ、暑いからクーラーのある部屋から出たくないだけだ。


「ちょっといいか?」

「別に構いませんが? 何かあったんですか?」

「前に話していた完全独立型トイレの件あっただろう?」

「ああ、そういえばそんな話がありましたね」


 相槌を打ちながらサンダルを履き玄関から外に出る。

 まだ昼間を少し過ぎたあたりなので盆地でもある結城村への直射日光はかなりのものがある。


「まだ暑いですね」

「年々、暑くなっているからなー。そういえば、お前のところでアイスクリームとか置く予定とかはあるのか?」

「まぁ、一応は――」

「ほー。どんなアイスを置く予定なんだ?」

「さあ?」

「ずいぶんと他人ごとだな」

「他人ごとというか、問屋さんに任せてあるので……、素人の俺がアレコレするよりかは売れ筋のデータとかを問屋は持っていると思うので――」

「たしかにな……」

「それでも――、その内には仕入れる物について考えていかないととは思っていますけど……」


 二人で会話をしながら、バックヤード側からでなく外をグルっと回って雑貨店の前まで 向かったところで――。


「ずいぶんと大きいですね」

「とりあえず、五郎もスペックとかは確認したんだろう?」

「まあ、パンフレットでは……」


 パンフレットには、縦横奥行きがそれぞれ3メートルを書かれていたが、実際に見るのとでは大きな違いがある。

 これだと駐車場に置いておくと圧迫感がありそうだ。


「それにしても、これだと20台は停められる駐車場でも、邪魔になりそうですね。とくに商品の搬入でフォークリフトを使う時とかは……」

「雨ざらしでも問題はないようだからな。目の前の使っていない土地に置いてみたらどうだ?」

「そうですね……」


 たしかに、踝さんの言葉にも一理ある。

 目の前の畑は、母親が趣味で畑をしていたが、母が他界してからは更地のままで畑として活用しようにも一度は掘り起こして土の中に空気を取り込む必要が出てくる。


 その手間は、結構かかるので考えないようにしてきたが――。


「まぁ、コイツの重量は2トン近いからな。それなりに整地しないと休眠状態だったとしても元は畑だったからな。置いたら、まず沈む」

「そうですか」


 俺は畑をした事がないから何とも判断がつかないが踝さんは、田舎にずっと住んでいて畑もしているから言っていることは間違ってはいないだろう。


「そうなると、整地が必要ですか」

「そうなるな」


 肯定してくる踝さん。


「いくらくらいかかりますか?」

「そうだな……。整地をする上で慣らしてから重量ある物を置くとすると、アスファルトかコンクリートで覆うのが一般的なんだが――」

「アスファルトは初期費用が安い反面、コンクリートよりもメンテナンス費用が掛かる。あと、固まるまでに時間を要するというのも問題だな」

「なるほど……」


 初期費用がアスファルトの場合は安いというのは魅力だが――、メンテナンス費用が掛かるのは……。


「あと、アスファルトよりもコンクリートの方が雑草は生えにくい。何せ、アスファルトとは違って水捌けが悪い分、水を通しにくいからな。水を通しにくいってことは、雑草が隙間から生えにくいってことだ。――ただ、アスファルトは音を吸収するがコンクリートは音を吸収し難いってのが難点だな」  

「そうなるとコンクリートの方が優れているという事ですか?」

「いや――、一概にもそうは言えないんだよな。コンクリートは、アスファルトと違って熱膨張率に弱いから罅が入りやすい。特に300坪の土地をコンクリート化する場合は、色々とな」

「そうなると、どちらとも言えないんですね」

「そうなるな。ああ、あと――、コンクリートだと内部まで乾くのに一か月はかかる」

「それじゃ、アスファルト択一じゃないですか」

「一応、両方のメリットとデメリットを話しておいた方がいいだろう?」

「まぁ、そうですけど……。――で、価格としては幾らくらいなんですか?」

「そうだな……、この広さだと一坪で1万2千円くらいだとして……、300万円から450万円と言ったところか」


 結構、高いな……。

 もう自分で工事しようかな。

 ホームセンターに行けば材料とか売っているだろうし……。


「結構するんですね」

「そうだな。一応、ホームセンターでも材料を買う事は出来るが――、基本的には業者を手配して作業してもらった方が安いぞ?」

「そうなんですか?」


 人が――、物が動けば必ずお金というのは動く。

 それは経済論理として自明の理のはずだが……、業者を頼んだ方が安く済むというのは些か腑に落ちない。

 

「一度に大量に仕入れるからな。業者価格というのと――、個人仕入れ価格というのがある。それに、何より業者に作業をさせた方が綺麗に仕上げてくれる。機械も、それなりの物を使うし個人だと時間も掛かるからな」

「たしかに……」


 言っていることは的を射ているように思われる。

 塩も業者価格と個人価格の2種類あったからな。

 そうなるとアスファルトの価格も一概に一緒とは言い切れない。


「あとは、そうだな……。畑だからある程度掘ったあとにローラーで転圧しないといけないからな」

「踝さん、業者には当ては?」

「俺の弟の工務店でやっているぞ!」

「…………」


 なるほど……、どうりで営業熱心なはずだ。

 ただ――、今後のことを考えるとお金のある内に依頼を掛けるのはベストか。

 無駄金ではなく先行投資になるからな。


「それでは、アスファルトの設置作業の方の依頼をお願いできますか?」

「――いいのか? 価格としては安くはないぞ?」

「必要経費なので」

「分かった。少し待っていてくれ」


 踝さんが電話をしている間に、俺は更地となっている元・畑を感慨深くみる。

 自分の母親が存命だった時は、トマトやナスにキュウリ、とうもろこしなどの野菜を作っていた畑であったが、今は見る影もない。


「五郎、いま弟がこちらに来る。その時に見積もりを出すらしいから少し待っていてくれ」

「そういえば、踝さんの弟とは会ったことがないですよね」

「ああ、母親が再婚した相手――、父親の連れ子だからな」

「なるほど……」


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