第36話 フォークリフトの話

「そうでしたか……、うちの娘と同じくらいの年齢ですね」

「藤和さんも、娘さんが?」

「はい。事務をしております妻の穂香との間に出来た子供です」

「なるほど……」


 何となくだが親近感が沸いてしまうが――、ここからは商売の話。

 私情を挟むわけにはいかない。


「藤和さん」

「何でしょうか?」

「フォークリフトや冷蔵冷凍ケースなどを安く購入できる場所は知らないですか? 出来れば即日納品がいいのですが……」

「なるほど……、店舗を始めるにあたりまして冷蔵冷凍ケースが不足していますからね」


 どうやら、以前に藤和さんに店舗の中を見せた時に彼も何かしら感じ取ったようだ。


「それと塩を手作業で下ろすのは大変だと思いまして」

「それでフォークリフトですか」


 藤和さんの言葉に俺は頷く。


「どこか安く仕入れる事が出来て何か問題が発生した時に対応してくれる業者とか無いですか?」

「あることにはありますが……」

「なら、ぜひ!」

「――ですが、即日対応となりますと予算などを含めても……」

「塩の持ち運びだけでも! まずは改善したいと考えていますので中古でもいいのでフォークリフトの販売業者とかないですか?」

「そうですね……。少し待っていてください」


 彼は椅子から立ち上がるとデスクの電話機から何処かに電話を掛けている。

 何回か電話を切って掛けている事を続けているので複数の取り扱い業者に電話をしているのは見ていて伝わってくる。


「月山様、お待たせしました。一応、数日で入荷が可能なフォークリフトが2台あることが分かりました」

「2台ですか?」

「はい。ガソリンで動くフォークリフトと電気を充電することで電気で動くフォークリフトの2種類です。どちらをご希望でしょうか?」

「一度、物を見せてもらう事は可能でしょうか?」


 やはり自分で使うのだ。

 見ずに決める訳にはいかない。


「そうですね。それでは私も御同行させて頂きます」

「――え? 場所さえ教えて頂ければ自分から出向くので大丈夫ですよ? 御仕事もあるでしょうし」


 さすがに、専門外とも言えるフォークリフトに関して、別の仕事もある藤和さんを連れまわす訳にはいかない。

 

「――そ、そうですね……」


 一瞬、戸惑いの表情を見せたあと、藤和さんはデスクに戻りパソコンを操作しプリントアウトした紙を持ってきた。

 受け取った紙には、大手自動車メーカーの下請けをしている会社名が書かれており、此処からは、そんなに遠くはない。


「ありがとうございます」

「あとは冷蔵と冷凍ケースに関してと言う事でしたが――」

「そうですね」


 俺は頷く。

 前に話した内容は、常温で日持ちがする商品と言う事で桜が聞きとり調査をしたノートから選んだ商品を発注した。

 でも、ある程度纏まったお金が入ったのだから、この際――、ある程度設備にお金を投資しておきたい。

 それに購入した冷凍ケースは2個とも、中古品だし……。


「それで、予算はいくらほどで?」

「とりあえず100万円くらいで――」

「――ッ!? 少し待っていてください」


 藤和さんが、デスクのパソコンを打ち込みプリントアウトした店舗敷地内の2D画像を持ってくる。

 よく作られた平面図だが――、よく一取引店舗に過ぎない月山雑貨店のMAPを作るものだと感心してしまう。


「月山様。前回の話の内容ですと基本的に常温メインの製品を置かれるという話でしたので調味料と缶詰をメインとした食品関係。それと――、日用品雑貨を置かれるという方向性で話を纏めましたが……」

「そうですね」


 たしかに前回は、その方向性で話をまとめた。

 だが――、それは予算が無かったからだ。

 村の皆からの要望で多かったのが冷蔵・冷凍食品を置いて欲しいという内容がとても多く、その事に関してはしばらく先ということを考えていた。


「それでは、どのような冷蔵・冷凍ショーケースを購入されますか?」


 そう聞かれると正直、どのくらいの比率で決めていいものかと考えてしまう。

 決めあぐねていると――。


「月山様。差し支えなければ――」

「何でしょうか?」

「月山雑貨店の敷地面積は、日本に存在しているコンビニの平均よりも倍以上は大きいのです。――ですが、スーパーと同じくらいの商品を揃えようとした場合、敷地不足になります」

「たしかに……」

「そこで、陳列棚を増設中の今でしたら可能である事から、コンビニとスーパーの中間を目指す方向性で店内のケース配置を行うのは如何でしょうか?」


 それはつまり、コンビニでもスーパーでもない新しい業務形態ということになる。

 問題は、そんな冒険をしてしまっていいのか? という点だが……。


「おじちゃん」


 迷っていると桜が服の袖を引っ張ってくる。


「どうした? お腹でも空いたか?」

「桜! そんなに食っちゃ寝じゃないもん! ――うんとね……、村の人たちがね……、えーてぃえむが欲しいって言っていたの」

「ATM……」


 そう言えば、結城村には郵便局は存在していない。

 俺の親父が月山雑貨店をしていた頃には簡易郵便局をしていたらしいが……。

 すっかりその事が頭から抜けていた。

 

「藤和さん」

「分かっています。ATMの配置を含めて冷蔵・冷凍ケースの購入する数と商品を取り決めていきましょう」

「そういえば、冷蔵・冷凍ケースのパンフレットがあるのは?」

「月山様のお店の商品に関しては一括で任されましたので……」

「なるほど……」


 つまり将来性を見込んで冷凍・冷蔵ケースのパンフレットを取り寄せていたということか。


「おじちゃん」

「――ん?」

「アイスクリーム」

「アイスクリーム?」

「うん! 村のみんな……、アイスクリーム欲しがってたの」

「――だそうです」

「分かりました。平置きの冷凍ケースを最優先で発注する方向で持っていきましょう」

「ちなみに冷凍ケースですが、どれがいいんでしょうか?」

「そうですね……、月山様のお店にありましたのは冷凍ショーケースでしたね」

「はい」

「それでしたら、アイスクリームですとクローズド型の冷凍ショーケースが良いかも知れません」

「よくコンビニにあるようなすぐに取り出せる平型の冷凍ケースは?」

「あれは、都内だからこそ提供できる方法ですね」

「――と、言いますと?」

「月山様の結城村は人口が300人ほどですので、どんなに売れてもアイスクリームの稼働率はそんなに高くは無いと思うのです。そうなると――、常時開放型で冷やしておくのは冷気が外に漏れだすという観点から、あまり宜しいとは言えません。何せ――、電気代がかかりますからね」

「ああ、なるほど……」


 普通にコンビニに置かれているケース感覚で選ぼうとしていたが――、そこまで頭が回らなかった。


「たしかに光熱費などを考えてケースを選ばないといけないですね」

「はい。私と致しましては無風冷凍ショーケースがオススメです。容量的には300リットルほど入りますし、マイナス25度まで冷やすことが可能です。しかも無風ですので霜にもなりにくいですから」

「なるほど……」


 説明をしてくれているが良く分からない。

 そもそも、どうして無風なら霜になりにくいのか……。


「レンタルとかもあるみたいですか?」

「そうですね……」


 藤和さんが渋い表情を見せる。

 冷蔵・冷凍ケースについて何かしらレンタルだと問題があるのだろうか?


「たとえば、この無風の冷凍ショーケースですが新品ですと価格は20万円ほどです」

「結構高いですね。やはりレンタルの方が――」

「ですが、レンタルだと一ヵ月2万円ほどなのです」

「2万円……」


 つまり購入すれば10か月で元が取れるという計算か……。


「気が付かれましたか?」

「はい。つまり購入すれば10か月で元が取れると――、そういうことですね?」

「そうなります。故障した場合でも保障はある程度はありますので、普通に購入された方がよろしいかと――」

「そういうことですか……」

「ちなみに、月山様」

「何でしょうか?」

「月山雑貨店に設置されておりました冷凍ショーケースですが、型番から言ってこれですよね?」


 藤和さんが指さした冷凍ショーケースのカタログを見る。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る