第24話 お子様ランチ

 食事も終わり、デザートはイチゴのシャーベットのアイスクリーム。

 これは桜にも和美ちゃんにも好評である。


「こっちに来てアイスクリームなんて初めて食べたよ!」

「根室夫妻は作ってくれないのか?」

「作ってくれないというか買ってくる間に溶けちゃうって言ってたよ」

「たしかに……」


 一番近い小規模のスーパーまで車で一時間はかかる。

 帰り道で溶けてしまうだろう。


「桜、今日は町にいくんだが一緒にいくか?」

「うん! 一緒にいく!」

「私も!」


 どうやら、和美ちゃんも一緒に来たいようだ。

 田舎の生活は飽きたのかもしれないな。


 ――だが! それは出来ない。

 

「和美ちゃん、チャイルドシートが一個しかないから我慢してくれ」

「ええ!?」

「チャイルドシートを付けずに運転していたら道路交通法違反になってしまうから」

「……わかった……」


 本当に渋々と言った様子で、和美ちゃんが頷いてきた。




 和美ちゃんを根室夫妻まで届けてきたあと、桜と一緒に目黒さんの家へと向かう。

 

「五郎です」


 目黒さんの自宅前の庭に車を駐車したあと、玄関で待つ。


「おお、よく来たな。中に入れ」

「その前に、うちの姪っ子の桜です」

「……」


 桜は、俺の後ろに隠れながら頭を下げるだけ。

 やはり初対面の人は苦手のようだ。


 目黒さんの家に上がったあと、囲炉裏の間で待たされる。

 桜は、目の前の囲炉裏に興味深々なのかソワソワしており灰を触っている。


「五郎待たせたな。コレが約束の物になる」


 金属の音と共に袋を渡される。

 中を見ると黄金色のネックレスや、指輪などが入っているが殆どが無地のまま。


「すぐに金が必要だと聞いたからな。無駄な装飾は省いてある。金を売るときは、なるべく大手の店舗で10万円まで売るとよい」

「分かりました。それで、何店か掛けもてば良いという事ですね?」

「うむ。それと金で30%は、加工賃としてもらっておいたからな」

「はい。それでは、これからもよろしくお願いします」

「うむ」


 金のアクセサリーが入った袋を持ち上げ、桜と共に目黒さんの家から出る。


「さて――、町まで行き換金しないとな。それと――、問屋を探さないとな……」

  


 

 ――旧国道の峠道を走ること30分。 

 結城村から、もっとも近くの町に俺と桜は来ていた。


「うーむ」


 思わず唸ってしまう。

 地方信用金庫のATMで記帳したのは良いが、失業手当で入金されたのは17万円ほど。

 現在、銀行にあるお金は70万円弱。


 これでは仕入れなどを含めると、今ある手持ちではとてもじゃないが生活はやっていけない。

 それに来年からは、姪っ子の桜も結城村の分校に通うことになるし……。


 結構、お金が出るな……。

 一人だけで暮らしている時は、何とも思わなかったが世の親は、こんな事を毎日思って家庭を築いていると思うと尊敬してしまう。

 内心、溜息をつきながらATMの横に置かれているお札を入れる封筒を10枚ほど手に取る。


「桜、行くぞ」

「うん」


 信用金庫から出た後、金を買い取りしている中古売買店などを梯子する。

 一店舗あたりの取引額も目黒さんの指示どおり抑える。

 代わりに多くの店舗を回って販売していく。

 お昼を過ぎる頃には、全部の金を換金することが出来た。


 助手席に置かれている封筒。

 その封筒は7つある。

 一封につき一万円札が50枚入っており、全部で350万円。


「とりあえず、これだけあれば予算としては何とかなりそうだな」


 問題は問屋だが、どうしたものか……。

 赤信号で考えていると、「くーっ」と、言うかわいらしい声が聞こえてきた。


 どうやら音は、桜がお腹空いたという合図のようだ。


「お昼にでもするか」

「うん!」

「桜は何か食べたい物とかあるか?」

「はんばーぐ!」

「ハンバーグか」


 そういえば近くに、ハンバーグ専門店があったな。

 近くのハンバーグ専門店に行き車を駐車場に停めたあと、桜と一緒にお店の中に入る。


 店に入ると店員が近寄ってくる。 


「お客様、お二人ですか?」

「はい」

「喫煙席と禁煙席があります。どちらになさいますか?」

「禁煙席でお願いします」

「では、こちらへどうぞ」

 

 店員に案内された席に座る。

 すると桜も俺の横に座ってきた。


「では、こちらがメニュー表になります」


 渡されたメニューを開き桜と一緒に料理の写真が描かれているメニュー表に目を通していく。


「桜は、どれがいい?」

「これ!」


 桜が選んだのは、旗が立っているお子様ランチ。

 一つのプレートの上に乗っているのは――、


 チキンライスオムライス――。

 もちろんオムライスのオムレツの部分には猫がケチャップで描かれている。

 次にデミグラスハンバーグ。

 そして一口で食べられる大きさのエビフライ。

 あとはアップルジュースに桃のゼリーと言った具合だ。 

 

「すみません」

「はい。お決まりでしょうか?」

「お子様ランチと日替わりハンバーグ定食をお願いします」

「畏まりました」


 料理の注文が終わった事もあり、周囲を見渡すとお客は、俺と桜を含めると10名程。

 さすが地方都市。

 昼時間でも人がいない。


 しばらくして料理が届き桜と一緒に食事を摂ったあとは、スマートフォンで購入した物を届けてくれるサービスをしている店を選ぶ。

 一応、お金はあるのだ。

 この際、贅沢は言っていられない。


 何件か当たるが、やはり見つからない。


「とりあえず、これが最後の一件だな」

「店の名前は、藤和か」


 以前に、似たような名前の会社に電話した時があったが馬鹿にされてお断りされたことがあったな。

 思わず嫌な記憶が想い起こされる。

 とりあえず、電話番号も違うようだし駄目元で電話を掛けるだけ掛けてみるとしよう。


 数度コールが鳴る。


「はい、問屋の藤和です」

「インターネットで拝見したのですが、購入した商品を配達してくれると書かれていたのですが……」

「はい。行っております。県内の方ですか?」

「いえ、結城村まで配達をしてもらいたいのですが――」

「結城村ですと10万円以上の購入の方に限られてしまいますが……」

「それは、一回の購入取引で10万円以上という事で宜しいでしょうか?」

「はい。そうなりますが……」


 どうやら、配達してくれるようだ。


「すぐに伺いたいと思うのですが宜しいでしょうか?」

「はい。場所は、お分かりでしょうか?」

「インターネットで確認いたしましたので」


 電話を切る。

 どうやら、結城村まで配達してくれる業者のようだ。

 すぐに、会計を済ませる。

 そして、10分ほど車を走らせ目的地近くの駐車場に車を停めたあと、桜と二人で問屋に向かう。


 そして到着した俺と桜の視線の先には、月山雑貨店よりも一回り小さい問屋が存在していた。

 桜が、「小さいの……」と、ボソッと呟いていたが俺も同意見だ。


「おじちゃん、あれ大きいの」


 桜が指さしている方角には、株式会社 藤和と書かれた大きな倉庫を幾つも敷地内に持った巨大な建物が見える。

 こんな近くに同じ藤和と言う会社が二つもあるのは、すごい偶然だなと思う。


「藤和一成と言います。先ほど、電話を下さった方ですか?」


 店前で佇んでいた俺と桜に話かけてきたのは50代ほどの男。

 頬が幾分か痩せこけているようにも見える。


「はい。月山と言います。あの、向こうの大きな会社は?」


 少し疑問に思った事を口にすると、藤和一成と自己紹介してきた男の表情が陰る。


「じつは――。いえ、何でもありません」


 言いかけていた言葉を藤和一成という人物は飲み込んだ。

 何かあるのかと思ったが、深く聞くような仲ではない。


「それでは藤和さん。仕入れに関してお話をしたいのですが――」

「はい。それでは、こちらへ」


 自動ドアを抜け店内に案内される。

 店というよりも事務所と言った雰囲気で、特に何か商材が置いてあると言った感じは見受けられない。

 事務所の広さは、月山雑貨店の半分もないだろう。

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