第8話 見た事のない光景
――翌日
――2時間後。
引っ越しの作業は順調に終わり、月山雑貨店に向かう前に姪っ子の――、桜の部屋に寄る。
「桜居るか?」
「……」
ドアを開け「――コンコン」と軽く叩きながら話しかけるが無言。
テレビの前で、女の子座りしたままジッとゲームをしている。
「ふむ……」
後ろからそっと画面を覗き込む。
やはり、「それゆけ! コンビニ」のゲームをしている。
ただ、以前はオプションだけを選択して業界用語を勉強していたが、今回は普通にゲームをしていた。
「どれどれ――」
まあ、5歳だからな。
経営というのは、そんなに簡単にうまくいくものじゃない。
とりあえず、アドバイスでもするか。
画面を確認する。
「……2年目で資本金5000万円から6億まで増えて……、店舗も4店舗経営!?」
おかしい……。
このゲームは、一店舗目の運営を軌道に乗せるまで最低1年は掛かるとWIKIで書いてあったはず。
それを2年目で資本金を12倍にして、店舗を4つまで増やすなんてありえない。
「――あ、おじちゃん……。どうかしたの?」
ようやく俺が来たことに気が付いたようだ。
「桜は、このゲームはやりこんでいたのか?」
「……ううん」
桜は頭を振って否定してくる。
「……ここに来て初めてやったの! 時間帯ごとにね販売する商品を変えたり、季節限定の商品の棚を奥まったところに配置して、売りたい商品の棚を近くに配置して購入してもらったりするの。あとね価格の末尾を8とかにするとたくさん売れるの! あとね来店するお客キャラに合わせてね、時間ごとに配置する商品とか変えると売れるの。あとブランド品とか作ってね、わざと価格を高く設定すると安い時より高い方が売れるの」
「……そ、そうか。と、とりあえず――、テレビからは3メートル以上離れてゲームをするんだぞ?」
「……うん」
「良い返事だ」
姪っ子の頭を撫でたあと、部屋から出る。
そのあと、裏口を通り隣の月山雑貨店の敷地に足を踏み入れる。
すると、白の軽トラックが一台増えていた。
「リフォーム踝か」
トラックのドアの所に、踝が社長を務める会社のステッカーが貼ってある。
店の中を見ると20代前半らしき男と、30代に差し掛かったくらいの年齢の男が、社長である踝に指示を受けて木材を加工し、棚を作っていた。
どうやら、踝のところの社員のようだ。
「五郎、暇そうだな」
俺が、突っ立っていたのに気が付いたのか踝が話しかけてきた。
ちなみに暇そうに見えるが暇ではない。
ただ、やる事がないだけだ。
「踝さんの所の社員ですか?」
「そんなところだ」
「なるほど……」
「それで引っ越しの方は終わったのか?」
「一応、一通りは――」
デスクトップパソコンの無線LAN設定は済んでないが夜にすればいいだろう。
「そうか。こっちの方は数日で作業が終わるから、それに合わせて商品を仕入れておくといいと思うぞ」
「そうですね」
曖昧に答える。
ただ、しばらくは業務用スーパーと大手の大規模ホームセンターでの仕入れがメインになるだろう。
問屋との取引なんて一朝一夕で決まる訳ないと思うし。
「お! あれじゃないのか?」
踝の言葉に後ろを振り返る。
すると4トントラックが月山雑貨店の駐車場の真ん中に停まった。
「失礼します。ナカミヤ冷機の柚本と言いますが、月山 五郎様で宜しいでしょうか?」
柚本の言葉に頷きながらも、俺は店内に置かれると作業の邪魔になると思い外に下ろしてもらおうと思ったのだが……。
「五郎、一部の作業は終わっているからショーウィンドウだけでもカウンター傍に運んでもらったらどうだ?」
「そうですね……」
内装業者の踝が作業の邪魔になると言う事だったら、外に置いて帰ってもらう事も考えたが、OKを出すなら中に移動してもらった方がいいだろう。
「柚本さん。それではカウンター傍の壁際に設置してもらっていいですか?」
「分かりました」
話が纏まると、柚本と一緒に来ていた2人の若者が業務用ショーウィンドウ型の冷凍・冷蔵ショーケースを下ろし始める。
柚本を加えた3人でも移動が困難だったこともあり俺も手伝う。
最終的には、踝リフォームの社員にも手伝ってもらい30分ほどで、設定が終わる。
「業務用の冷凍ショーケースの方の稼働は問題ないですね」
「そうですね」
「ショーウィンドウの方は――」
「そちらは自分がやりますので……」
「分かりました。それでは、また何かありましたら、よろしくお願いします」
ナカミヤ冷機のトラックを見送ったあと、自宅に戻り電気工具を取ってくる。
テスタで回路の電圧を確認したところ、異常箇所がすぐに見つかったので配線を繋ぎなおす。
基板が壊れていたら取り寄せになっていたかも知れないが、特に問題なく通電する。
冷媒は抜けていたので、フロンを入れ再度起動。
「とくに問題なく動くようでよかった」
3万円が無駄にならなくて本当によかった。
これで冷凍食品関係を入れることが出来るようになった
「ショーウィンドウのケースを直したのか?」
「まあ、一応は――」
伊達に第2種電気工事士免状は持っていない。
一軒家の配線もしたことあるし、電気科の学校では基板を1から作る科目もあるしCADで基板や設計図、機械の設計まで授業に組み込まれている。
だから配線などは基礎中の基礎。
エアコンの取り付けなどは学校では教えないので、個人の電気屋で少し学ぶ必要があるが……。
「なるほど、五郎は電気店も兼任したらどうだ? 村には電気店とかないからな」
「いや、電気関係はちょっと……」
俺は口を濁す。
そもそも電気配線というのは壁の中に配線を通す仕事だ。
つまり、何か問題が起きても目で見ることが出来ない。
本当に問題が大ごとになって――、たとえば漏電で火事になって初めて分かるレベルなのだ。
そんな面倒な仕事をしたくない。
「そうか……、それは残念だ」
本当の事を言う前に折れてくれてよかった。
「それじゃ自分は家に戻って問屋でも探してきます」
「分かった。こっちは作業が終わったら報告しにいくからな」
踝と別れて家に戻る。
そして父親が取引をしていた問屋で、連絡が通じそうな会社をピックアップしていたら夕方になっていた。
「五郎いるか?」
「いますよ」
玄関まで行く。
すると汗だくの踝が立っていた。
「明日も来るからな。これ鍵返しておく。シャッターは閉めておいたからな」
鍵を預かり、踝と別れる。
そのあとは桜と共に食事を摂り風呂に入り、妹の部屋のベッドで姪っ子を寝かせた。
きっと、夜にまた起きてくるだろう。
「さて――23時か……」
とりあえずデスクトップパソコンの設定でもするか。
パソコンの電源を入れ、無線設定をしようとしたところで俺は、指先を止める。
「しまった……、無線LANルーターのSSIDとMACアドレス認証を控えるの忘れてた……。仕方ない、ちょっと行ってくるか」
玄関から外に出る。
そして裏口を通り、月山雑貨店のバックヤード側裏口のドアノブに手をかけて、ドアノブを回す。
すると「――リン!」と澄んだ音が鳴り響くが気にせずバックヤードに入る。 しかし、やけに明るい。
「なんだ? 店内の方から明かりが差してきているのか?」
もしかしたら、踝は店内のライトをつけたまま帰ってしまったのかもしれない。
バックヤード側から店内に足を踏み入れる。
「違う。ライトがついているんじゃない。まさか――」
シャッターの方――、月山雑貨店の正面に近寄る。
外がやけに明るい。
まるで昼間のように明るい。
何が起きたのか? とガラス窓を通して外を凝視する。
すると、ガラス窓を通して信じられない光景が目に入ってきた。
それは、まるで中世の――。
いや……、魔法使い風な恰好をした人物や大剣を背負った人物が歩いていることから、その様子は、まるで中世ファンタジーの世界を彷彿とさせる。
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