第3話 ブロードソードと通信機器

 食事を終えた後、食器を洗う。

 そして雑貨店に向かうために玄関へと向かう。

 もちろん後ろからは姪っ子の桜も付いてくる。


「すぐそこまでいくだけだから、家に居てもいいぞ?」


 問いかけると、さくらは頭を左右にぶんぶんと振る。

 それに合わせて艶のある黒髪――、ツインテールが揺れた。


「そっか、それじゃいくか」


 ――コクコク


 桜が無言で頷いてきた。




 父親が経営していた雑貨店は、実家の敷地内にある。

 裏口の木製の扉を横にスライドさせる。

 そして平屋建ての雑貨店の敷地へと足を踏み入れた。

 まずは駐車場が見える。

 駐車場と言っても砂利が敷いてあるだけ。

 スペースとしては、車を10台止めるくらいはあるだろう。

 あと駐車場には村で唯一の郵便局のポストが置かれている。

 それは生前、父親が簡易郵便局をしていた名残だ。

 結城村は、人口が少ないこともあり銀行も支店を作らない。

 出来れば、簡易郵便局を開設したいと思う。


 ただ簡易郵便局を設置しようにも、純資産が数百万円必要になるからハードルは高い。

 ちなみに現在の手持ちは70万円ほど。

 まぁしばらくは、雑貨店をしながら少しずつ貯蓄して簡易郵便局の申請を日本郵政グループにする方向がいいだろうな。


 建物の外周を、桜を連れながら一周見て回るが、そこまで傷みなどは見られない。

 生前に父親が宮大工に頼んで建ててもらったと自慢していたから、大工の腕がとても良かったのだろう。

 

「これは、草むしりが必要だな」

「……草むしり……、したことあるの」

「桜が?」

「うん……」

「それじゃ今度、一緒にするか」

「……うん」


 あとは店の中の確認だな。

 預かっていた鍵で、正面のシャッターを開けて建物の中に入る。


「棚が無いから広く感じるな」


 月山雑貨店の売り場は、広さ的には、田舎ということもあり100坪ほどある。


「棚とかは、雑貨店をやめたときに売ったんだな」


 できれば残しておいて欲しかったが、まあ、仕方ないな……。

 バックヤードに入りブレーカーを入れてから、各所の電源ブレーカーを入れていく。


「電気工事士の免状を取っておいてよかったな」


 電気設備をチェックしていくが、とくに配線などが駄目になっている部分はなさそうだ。

 これなら、設備を用意出来ればすぐにでも営業を開始できる。

 問題は……、冷凍ケースなどが欲しいが数百万円単位での設備投資が必要になる。

 そうなると、簡易郵便局の設置も遅れる。


 簡易郵便局は、日本郵政グループからの委託範囲によって給料がもらえる。

 最大月30万円近く行くことから、田舎で暮らしていく上で重要な生活費の収入源になる。


「とりあえず、冷やさなくてもいい商品をメインに置いてお金が貯まったら日本郵政グループに簡易郵便局の申請をする方向がいいだろうな。どれだけの時間がかかるか分からないが――」


 考え込んでいたところで服の裾を引っ張られる。


「どうしたんだ?」

「……あれ、へん……」

「――ん?」


 桜が指さしている方へと視線を向ける。


「……ここに何か落ちている」


 桜が指さしているのは、カウンターの下。

 大人では見落としてしまう場所。

 四つん這いになり、カウンターの下を覗くと、たしかに何かが落ちている。


「これは何だ??」


 手を入れて落ちている物を引っ張りだす。

 それは、錆びついていた。

 だが、それはファンタジー世界では有名な武器の一つ――、両刃の80センチほどのブロードソード。

 

 両手で持ち上げると、ズシッと手のひらに重さが伝わってくる。

 どうやら金属で出来ているようだ。


「しかし……、これは――」


 親父は、コスプレの趣味はなかったはず。


 ――ただ、剣道は嗜んでいた。


 もしかしたら西洋風の剣を収集する趣味でもあったのかもしれないな。


「それにしても……、どうして店のカウンターの下に見えないように置いてあるんだ?」


 理由は分からないが、こんな田舎で命の危険に晒されるような事が起きるとは到底思えない。


「とりあえず銃刀法違反になると困るから、これはカウンターの下に戻しておくか」


 引き続き店内を調べていく。


「これは……、店の外のシャッターを開けるボタンか……」

 

 何度か開閉テストを行うが、やはり店のシャッターを操作するボタンのようだ。

 カウンター近くの柱についているのがいいな。

 中から開けるのに楽そうだ。


 店の裏の扉は、実家の裏庭の門を通れば、すぐに入ることが出来る。

 雨が降っている日は、店の裏口から店内に入れば、店内のボタン一つでシャッターを開けて営業を開始できる。

 それは、かなりのメリットだ。


「とりあえず商品棚と商品の購入が先か」


 店を再開するにもお金がかかりそうだが、銀行からの融資は厳しいはず。

 田舎すぎて、実家と店の土地合わせて2000坪ほどあるが一坪10円くらいだからな。


 きっと銀行が融資しても2万円くらいだろう。

 それなら余計な手間をかけないで今ある手持ちでやりくりした方がいいか。


「……おじちゃん」


 考えこんでいたところで、桜が俺のズボンをクイクイと引っ張ってくる。


「どうかしたのか? ちなみにお兄さんな」

「あれ……」


 姪っ子の桜は外を指さす。

 外には、東日本の大手通信会社のロゴがドアに描かれている電気工事用高所作業車が見える。


「もしかして――」


 店内から出る。


「失礼いたします。私、東日本SNTの森口と言います。月山 五郎様でお間違いないでしょうか?」

「はい。えっと光ファイバーの工事ですよね?」

「はい。あとは固定電話回線の工事に伺いました。電話線と光ファイバーケーブルの引き込み口の確認をさせてもらえますか?」

「回線自体は、店舗側に引き込んでもらえますか?」

「わかりました。ですが……ご依頼では、ご自宅でも電話を使われると雑記に書かれていますが……」

「電話回線の配線については、自分で行えますので店舗の方に、1次側の回線を繋いでおいてくだされれば大丈夫です」

「分かりました。では、すぐに作業を行います」

「あ、それと光ファイバーケーブルについては、店内のカウンター横まで引き込んでおいて頂けますか?」

「はい」


 工事業者と話が済んだところで――。


「桜、いまからお兄さんは電話が使えるように工事をするから遠くにいかないで待っているんだよ?」

「……うん、部屋にいる」


 桜と一緒に家に戻る。

 そして、100メートルまで電波が届く遠距離無線式ルーターとノートパソコン、無線式の電話機の親機と子機を持って雑貨店に戻る。

 店内に入り、カウンターの上に持ってきた物を置き――、ブレーカーの電源を入れる。

 

 カウンター近くのコンセントに遠距離無線式ルーターを設置した後、ノートパソコンで内部設定を行う。

 設定が終わったころに、光ファイバーケーブルの工事がほぼ終わり光発信テストも済んだようで、カウンター近くにONU(終端装置)が設置される。

 そこに有線ケーブルを差し込み遠距離無線式ルーターに差し込む。


「よし、これでネットの設定は完了だな」


 ホームページが表示されるのを確認したあと、電話回線工事も終わったようで無線の親機にケーブルを接続。

 設定を終え子機は実家の方で使うことにした。

 これで電話とインターネットのインフラが整った。


「それでは作業は終わりましたので、これで帰ります」

「お疲れ様です」


 作業員が出してきた用紙にサインを行ったあと、彼らを見送った。

 長距離無線ルーターや、電話機の親機の電源があるため電源ブレーカーを入れたまま、店のシャッターを閉める。

 そして、ノートパソコンと電話機の子機を2個持ったまま月山雑貨店の裏側を通り実家の裏庭へと戻った。


 実家の中に入り、電話の子機で『117』を入力し発信。

 電子音が流れたあと、「午後5時、丁度をお知らせします」と、言う電子音声が流れてくる。

 

「電話回線の方は問題ないな」


 パソコンの方も、別のホームページを開くことが出来る。

 閲覧も問題なく出来ることからインターネットの方も特に問題はないな。


 デスクトップパソコンについては、あとで無線設定をしておくとしよう。


 電話機の子機は2個あるから姪っ子の部屋に一個。

 居間に1個置いておけばいい。

 居間に電話機の子機を1個置いたあと、姪っ子の桜の部屋へと向かう。

 部屋のドアをノックする。


「桜、入るぞ」


 3度ノックしたところで返事がないことから、そのまま部屋の中に入る。

 すると姪っ子は、一生懸命テレビゲームをしていた。

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