呪いのビデオに告白を!

ノンレム睡眠

怨霊と霊能と告白

第0話 初めてのキスの味

灯りのない部屋に二人の男女が、へたり込んで見つめ合う。

互いの姿が辛うじて見える暗闇の中、その存在だけを頼りに、強く抱きしめ合った。

涙を伴う感動的な一幕。


……ではない。


男は表情を悲壮に染め、虚ろな少女は力なく男に体重を乗せていた。


耐えきれず、男の腕にぐったりと倒れこむ少女。

男は咄嗟に受け止める。


――さ、


少女の名を呼ぶ男の声は、そこで固まった。


少女の身体は、あまりにも冷たかった。そして、軽い。存在さえ疑うほど、軽い。その軽い体に燈る重いが、男の腕に圧し掛かった。


男の脳裏に、【死】の一文字がくっきりと浮かぶ。

今まで何度も触れてきた感触が、今では本当の終焉を表していた。


――待ってくれ……


室内に、消えそうな声が響く。魂の綱を引き戻そうとするには余りにも弱弱しく、小さな声。しかしそれに答えるべく、女はまぶたを僅かに開く。


――キ…し……だ…い


振るわぬ声を振り絞り、女は口を動かす。その瞳には涙を溜め込み、僅かに震える唇は消えそうな声で、確かにそう告げた。


男は顔を歪めて渋った。

さすれば訪れるであろう完全なる死。

その願いを叶えずにいれば、消え逝く魂の灯を、永遠に留めることができるのではないかと考えた。


――わかった


しかし覚悟を決めた。

眼前に、邪悪な笑みを浮かべながら控える死神を幻視し、女の最後の願いに答える。



触れ合う二つの唇。

雲の隙間から顔を出した月が、静かに二人を照らした。







――ファーストキスは、死の味がした。

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