僕と新太白とお姉さんの冒険

@satojima

読み切り

「ついに来たぞ。鳥取二十世紀梨記念館!!」

学校を休んでまで制服でやって来たマツモトは歯みがきセットをぶら下げたランドセル姿で鳥取県にいた。


「新太白、おいで。ここで待てだから動いちゃダメだ

(俺は果物のなかでは梨が大好きだ。ラ・フランスも食べたけれど、美味しかったのは間違いなく鳥取の梨であった。祖母が言っていた、ご先祖様は鳥取の人であったと、俺は直ぐにググって鳥取について調べた。飼っていた犬の名前もマロンから“新太白”に改名してもらった。理由は松戸覚之助さんが新種の梨に最初につけた名前だからであった)」


サモエドらしき犬種の彼を残してマツモトは館に入っていった。

マツモトの姿を悲しげな目で見ていた。


「そこの赤い帽子の男の子〰️」

入り口をはいってすぐのところで声の綺麗なお姉さんに止められた。


マツモトはゆっくり帽子を脱いだ。

「脱いでもダメだぞ〰️。皆が学校に行っている時間にどうして君はここに居るの?もしかして、ズル休みかな〰️」

すぐに振り返りはしなかったので、お姉さんの不適な笑顔は見られなかった。


「社会見学です……。梨について色々知りたいので」

マツモトはようやくお姉さんの顔を見た。想像通り色の白い綺麗なお姉さんで白い歯が何本か見えていた。


「ひとりじゃ分からないでしょ?

お姉さんが案内してあげよっか。どうする?手を繋ぐ?」

お姉さんはわざとらしくマツモトの前に手をさしだした。


「手は繋がなくてもいいです……。それより梨の試食はできますか?」

マツモトはお姉さんの前にでた。

「うん。こっちだよ。じゃあ案内することで決定ね」


お姉さんは嬉しそうにマツモトの前を歩いた。

不思議な物体を目にしたマツモトは戸惑っていた。


「大きい木でしょ?偽物だけどね。あとでお土産とか買うといいよ」

施設の真ん中には梨の木のオブジェクトが建てられていた。


「僕はもっと大きな木を知っています」

強がった言い方をしたマツモトにお姉さんは優しく笑いかけた。


「はいどーぞ。3種類あるから食べ比べてみて」

マツモトに爪楊枝を渡した。


「いただきます」

マツモトは梨を口に入れた。


「(酸味が強い……これは)」

マツモトの幸せそうな顔にお姉さんは終始笑顔だった。


「はい、お茶〰️」

マツモトに梨ジュースを渡した。


「どうも……」

まだ口のなかに梨の破片が残っていたマツモトはうまく喋ることができなかった。

「梨汁ブシャー状態だ〰️」

ふなっしーの真似をして見せたお姉さん、


2人はパソコンの前にいた。


「君、夢はあるの?」

「夢は死なない程度に生きることです」


お姉さんは子供のようにゲラゲラと笑った。

マツモトはお姉さんの顔をずっと見ていた。


「お姉さんもね、叶えたい夢があるんだよ。秘密だけどね〰️。来週から東京に引っ越すんだ〰️、ずっと挑戦してみたいことがあったから」

マツモトからみたお姉さんは輝いていた。


「僕は、来月から鳥取にある祖母の家で暮らします。今日は東京から来ました」

鳥取クイズに難なく正解していくマツモトを不思議そうに見ていたお姉さん、


「捨てる神あらば拾う神ありってか。君みたいに賢い子が鳥取にいてくれたら嬉しいな〰️」

マツモトの肩をお姉さんはぎゅっと掴んだ。


「案内してくれてありがとうございました。お姉さんが居ないときも僕はここに来ます」

マツモトはお姉さんにお礼を言った。


「はいどうぞ。クイズに夢中になりすぎてお土産のことすっかり忘れてたでしょ?」

お姉さんはマツモトに“なしっこ”の缶バッチを服に着けた。


「あ……りがとうございます」

「じゃあ、暗くなる前に帰るんだよ。バイバ〰️イ」


マツモトは新太白のリードを外した。


「(お姉さんは僕が出入口を出てバスに乗るまで後ろで見送ってくれた。梨を追い求めた僕の夏の冒険が終わった)」

マツモトは家で日記を書いていた。斜線が引かれ、僕と新太白とお姉さんの冒険に書き直した。

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