ショート・ショート
鮪
第1話 落とし物
「落とし物ですよ」
祐一は前を歩いていた男に声を掛けた。
男は少し歩を緩めながらチラと斜に振り向きざま祐一を怪訝な顔で睨むが、無言ですぐさま雑踏に紛れ消えて行く。掃き清められた小綺麗な歩道の片隅に、先ほど男が落とした小さな煙草の吸い殻が、微かな煙を吐き出している。祐一が近寄り目を落とすと、吸い殻が縮みながら悲鳴を上げた。
「捨てられちまった」
えも言われぬ仄かな香りが祐一を包み込んで離さない。
「可哀想に…」
祐一はその場にしゃがみ込んでそれをつまみ上げ、指で軽く火を揉み消してポケットに仕舞い込む。
「持ち主に返して上げるからね」とやさしくポケットを擦って語りかけ、男の後を追いかけて行った。
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