第23話-敵の正体は……?
「ん……」
なぜかリンと二人で眠っていたあの客間のベッドで目を覚ました。
私はボーっとする頭で室内を見回すが誰の姿もなかった。
(……ちゃんと着地出来たのかな……覚えていないけれど)
両手を確認して、足を触ったり捻ったりしてみるが特に痛みは感じられなかった。そのままお腹や肩を触ってみるが痛みを感じるようなところは何もなかった。
――カチャリ
その時、前触れもなく扉が開く。
マルさんかと思い、焦って捲りあげていた服をバッと戻してシーツを引っ張り上げたが、部屋に入ってきたのはリンとお母様だった。
二人は私と目が合うと目を潤ませ、バッと抱きついてくる。
「カリス!」
「目を覚ましたのね……よかった」
「リン、その腕と首どうしたの!?」
リンは右腕の肩から指先までと、首に白い布がまるで包帯のように巻かれていた。幸いどこにも血などの跡はなさそうだが、見た目がかなり痛々しい。
「これ? 大丈夫よ〜何でもないから〜」
「だって、そんなグルグル巻きで! もしかして誰かにやられて……」
あの時の騒ぎで誰かに怪我をさせられたのだろうかと思い、焦った私は立ち上がろうとするが、お母様が静かに肩を押さえ、横になっていなさいと止められた。
「クリス……リンさんは落ちてくるあなたを受け止めてくれたの」
「あはは、間に合ってよかったよ〜。怪我はお母ちゃんが治してくれたからすぐに全快するよ〜」
お母様が私を嗜めるようにいうと、リンはいつもの調子で笑顔を見せる。リンが言うように傷はすっかり回復しているようだったのだが、念の為とミケさんに巻かれたそうだ。
「そんな……リン、ごめん……」
「謝らないでよ〜カリスはこの村を救ってくれたんだし〜凄かったね〜あの魔法」
私を気遣ってか、のほほんと話をするリン。
リンの包帯のことですっかり忘れていたが、私が空中から落ちてしまった後、村はどうなったのだろうか。
「カリスの魔法で全員逃げ出したよ〜偉そうなやつを三十人ほど捕まえたんだけどね〜」
リンの話によると、村人に怪我人は一人も居なかったそうだ。
また敵の戦死者は千人を超えたらしい。
(千人も私がこの手で……)
――そう思いはするが、不思議と罪悪感は感じられなかった。
幸いにも攻撃を逃れて生き残った兵たちは散り散りに逃げ出したそうだ。
「そっか、でもよかった……」
「クリス……どうしてあんな無茶を……」
「ごめんなさい。お父様が怪我をして頭が真っ白になっちゃって……」
「あはは〜それ私もたまになるなる〜」
どうやら、あの恐ろしいリンの豹変ぶりはこんな感じらしい。
それから、リンがお父様とマルさんを呼んできて、四人が集まったところで、私は改めて頭を下げた。
「危険な真似をしてごめんなさい……」
けれど、お父様は私の頭にポンと手を置き「よくやった」とだけ言ってくれた。
「正直、国の正規軍なら我々の首が危なかったですが、やはり全てホド男爵が集めた私兵でした。いま陛下の元へウチのものを向かわせています」
マルさんが苦笑いをしながらそうはいうが、確かに国の正規軍だったら今頃私達が反逆罪で全員死罪になるところだ。
その事実に血が引く思いがする。あれはいくら頭に血が上っていたからといって、危険すぎる行動だったということを思い知らされた。
けれどマルさんもお父様もそれを咎めようとはしない。結果論とは言え全員が無傷で敵兵を追い返したことを何度も褒めてくれたのだった。
「陛下から返事があるまでは、待たなければならないからな。クリスは特に体力がもとに戻るまでゆっくりと眠るんだぞ」
マルさんが言うには、私は魔力をすべて使い果たしており、少し危ない状態だったそうだ。
実際リンが落ちた私を抱きとめて、この部屋に寝かせてもらってから丸々二日も眠っていたそうだ。
「ほんと、カリスはたまに無茶するよね〜」
「うぅ……ごめん」
「まぁ〜そのおかげで助かったんだし〜ありがと〜」
(でも、私の魔力量って一体どれぐらいあるんだろう……)
魔力量を調べる機械とかあるならちょっと試してみたいけれど、生憎聞いたことがない。
「それはそうと、この後ホド男爵がどう出てくるかが問題ですね」
私がそんな事を考えていると、マルさんが腕を組みお父様と相談を始める。
二人の話を私はお母様が淹れてくれたお茶を飲みながら、まだ少しぼけっとした頭で耳を傾ける。
「この村を偽装兵で襲ったことだけで十分反逆罪になると思うが……」
「いま、撤退した兵士の後を追ってホド男爵を捜索しておりますが、見当たらないらしく」
「どこかに隠れているということか」
「国外に逃げている可能性もあり得るかと」
「そうなると逮捕は厳しいかもしれんな」
「お父ちゃん、あいつらどうしてこの村を襲ったのかな〜」
「……普通に考えれば伯爵とクリス嬢を亡き者にしようとしているのだろうな」
「…………」
マルさんが言うとおりだと思う。
このタイミングで村に兵が差し向けられるとなれば、彼らの目標は私たちの誰か。もしくは三人なのだろう。
「じゃあ〜それが失敗したなら次は〜?」
「…………暗殺だろうな」
誰かがゴクリと喉を鳴らした。
正面からダメなら……と言うことだ。
お母様が私の手をぎゅっと握る。
「これだけ堂々と攻めてきては、相手も後には引けないでしょう。なんとしても目的を達成しようとするはずです」
「マル、村には迷惑をかける……すまん」
「お気になさらないでください。普段から伯爵にはお世話になっておりますゆえ、こういう時ぐらいは頼ってください」
「でも〜この村に侵入して暗殺とか現実的なの〜?」
「一応この国にも暗殺や誘拐を請け負う集団がいる」
「マル……まさかそいつらがクリスを?」
「わかりません。可能性の一つとして考えられるだけです」
暗殺や誘拐を専門に請け負う……ちょっとかっこいいと思ってしまったのは内緒だけれど、魔法のあるこの世界ではどのような手口で攻撃されるのか想像もつかない。
「お父ちゃん、それってどんな奴らなの〜」
「ティエラ教会の執行部とよばれるやつらだ」
「えっ? 教会の人たちがそんな事をしているのですか?」
私は思わず口を挟んで聞き返してしまった。
ティエラ教会というのはこの国だけではなく、この世界の様々な国で信仰を集めている大きな教会で信者の数は数十万とも数百万とも言われている。
品行方正なティエラ教会が裏で暗殺や誘拐をやっているなど、到底信じられない話だった。
「それってどう言う事〜?」
「表には出てこない部隊で、その正体はよく分かっていない」
「あぁ。だが、どんな組織にでも自分たちの不都合に対処する部署はあるものだ」
マルさんの説明に納得したのか、リンも「教会が……」と渋い顔をする。
私もマルさんとお父様の話に納得したが、暗殺者なんて本当に来るのだろうか?
「ともかく、伯爵ご家族の周囲は我々で固めます。しかし敵がこの先どういう手段で来るかわかりません」
「あぁ、私も武器は持っておこう。クリスもいざと言うときは頼んでいいか?」
「――はい!」
私はお父様のその言葉に、私はシーツの下でぎゅっと拳を握りしめた。
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