第4話 お見舞い

 その後、俺も実は作家を目指してラノベを書いていること、実はフォロワーが100人を超えていることを告げると、目を丸して驚き、そして一緒に、お互いに入院するきっかけになった「毒」を題材にしたラノベを書けると面白いね、と盛り上がった。


 その夜は、慣れない病室で、隣のベッドに一目惚れしてしまった同い年の女子高生が寝ているというシチュエーションに興奮してしまい、深夜までなかなか寝付けなかったのだが……。


 翌日、複数の女性の話し声で目を覚ました。

 時計を見ると、朝の八時半を回っている。


 今日は月曜日、学校のみんな、俺が入院したと知って、どんな反応してるのだろうな……。

 そんな事を考えていると、


「あ、おにーちゃん、起きてたっ!」

 との元気な声。


 ひなちゃん、昨日はパジャマを着ていたのに、今日は普通の洋服だ。

 瞳も起きており、ベッドに腰掛けているが……こちらはパジャマだ。

 それと、初めて見る、二十歳ぐらいのお姉さんと、三十歳ぐらいの女性。


「おはようございます……娘のひなが、お世話になりました」

 と言って、三十歳ぐらいの女性が頭をさげる。ひなちゃんの母親だ。


「あ、いえ、こちらこそ……まあ、昨日会ったばかりですが……」

 と寝ぼけ眼で言うと、その場のみんながちょっと笑った。


 どうやらひなちゃん、退院するらしい。

 よく考えたら喉にアメ玉を詰まらせただけなので、取れてしまえばすぐに良くなったというわけだ。


 しばらく談笑した後、バスの時間が迫ったみたいで、

「またねーっ!」

 と明るく手をふりながら、母親と一緒にひなちゃんは元気に退院していった。


 ……後に残った、二十歳ぐらいの女性。

 すらっとしていて、とても美人だ。

 ちょっと困ったような顔をしながら俺の方を見て、瞳と小声で話し込んでいる。


「……どうして男の子がいるの?」

「えっと……なんか、病室が空いていないらしくて……一応、二人とも子供って扱いで、一緒の病室になったみたいなの」


 ……彼女、瞳の身内みたいだ。

 で、当然この状況をいぶかしがってるわけで……まあ、普通はそうだろうな……。


「でも、もう瞳も高校生でしょ? ひなちゃんも居なくなって、二人だけになっちゃうじゃない」

「うん……でも、二、三日だけだと思うし……」


「それでも、ゆっくり寝られないでしょう? ちょっと先生か看護師さんに話してみるわ」

「あ、だめ、お姉ちゃんっ、このままの方がいいのっ!」


 出口の方に歩き出していた女性は、瞳のその声に足を止め、ゆっくりと振り向いた。

 そして、きょとんとしている俺と、ちょっと赤くなっている瞳の顔を交互に見つめ……なぜかニヤっと笑った。


「……なーるほど、そういうことか……」

「えっ、そういうって、どういう……」

 瞳が明らかに焦っている。


「えっと……君、名前教えてもらっていいかな?」

「僕ですか? 加賀和也です」


「加賀和也君……覚えやすい名前ね……私、瞳の姉の泪です。よろしく」

 なぜか満面の笑みのお姉さん。


「あ、はい、よろしくお願いします」

「和也君、中学生? 高校生?」

「高校一年生です」

「へぇー、瞳と同じね。どこの高校?」

「えっと……帝大付属高校です」

「帝大付属!? すごいじゃない、頭いいのね」

 うーん、やっぱり世間じゃそう見られるのか。


「なんか、可愛い顔してるし……お似合いかも。瞳、ずっと女子校だったから、あんまり男の子とお付き合いとかしたことないけど、よろしくね」

「え、あ、はい……」

「もう、お姉ちゃんっ! そんなんじゃないからっ!」

 瞳が真っ赤になって否定する。


「はいはい……でも、本人同士がいいっていうなら、まあ、同室でも問題ないかな……邪魔者は退散するとしますか」

「あ、おねえちゃんっ! 違うからねっ!」

 ……お姉さん、後ろ向きで手を振りながら帰って行ってしまった……。


「……どうしよう……誤解されちゃったかも……」

 誤解……誤解なんだ……。

 なんか、ちょっと残念な気がした。


 ほんのちょっと、気まずい空気が流れたけど……またどちらともなくラノベの話題が出て、シナリオの続き、一緒に考え始めていた。

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