愛別離苦
狐火
プロローグ
深い眠りから目覚めた美しい少女の瞳には、綺麗な天井であった過去を持つ、薄汚れた天井が映った。
わずかな塵でさえも一瞬触れただけで白水のような少女を、雨の後の濁流のような色へと変えてしまうのではないか、そう思わせる程に少女には潔浄で移ろいやすい純粋さがあった。
少女の視界に一匹の少年が偲び込む。少女の焦点は天井からその少年へと動いた。二人は何も言わず、二人の間に存在する何かをじっと見つめていた。そして真っ白の皿に無造作に置かれたサクランボの様な少女の唇がかすかに動いた。
「あなたはとっても苦いわ」
楕円を描いた唇が、今度は固く一直線に結ばれた。
そして少女の目線は天井に戻る。
「なぜ苦いのか、知っているかい?」
少年は未だに二人の間に存在する何かから目を逸らせずに言った。
少女はその問いには答えず、もう何も聞こえていないようなそぶりをしていた。
少女は自分を見ることに飽きたのだ、と悟った少年はつい先ほどから自分に違和感を与える自分の小指に目を移した。数分前に爪を噛んだせいで甘皮からほんのり血が出ていた。
「恋を、しているからだよ」
少年は鉄の味を感じながら、静かに言った。
未だに少女は、少年を見ようとはしなかった。
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