頼りになる両親の子供に転生させてくれとは言ったけどリスはねぇだろ~リスに転生した俺の使命はオヤジ越え~

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リスに転生した俺の使命はオヤジ越え

頼りになる両親の子供に転生させてくれとは言ったけどリスはねぇだろ~リスに転生した俺の使命はオヤジ越え~



 キューカララ大陸。ここは人族と魔族、エルフや獣人、様々な種族が暮らす剣と魔法の世界。

 そんな世界に転生させられた少年……いや、リスに転生させられた少年は女神と共に旅に出たのだ。



 異世界キューカララ。ここは女神が作りし聖王と魔王が統治する世界。人族も魔族も二人の王のもと平和に暮らしていたが、ここ100年謎の失踪が続き、世界は滅びに向かっていた。

 そんな世界に転生させられた少年……いや、リスに転生させられた少年は、女神から使命を与えられ、旅に出たのだ。





「ちょっと~? ゴブリンが馬車を襲ってるんだから助けてあげなさいよ~」


 四、五歳ぐらいの水色の髪をした幼女は、前方を指差しながら、2メートルはあるリスの背で毛を引っ張る。


「え……何で俺が……怪我するかもしれないじゃないか!?」


 幼女の問いに、デカくて尻尾の二本あるリスは、図体の割には臆病な事を言い出した。


「はあ!? ヒロに怪我を負わせられるのなんて、伝説級の魔物しかいないわよ。前にも言ったよね? ちゃっちゃと助けなさい!」

「それならサイコが助けたらいいんだ。女神なんだから義務だろ!!」


 二人が口喧嘩していると馬車はゴブリンに横倒しにされてしまい、悲鳴が聞こえて来た。


「フフン。子供が乗っているみたいね」


 サイコと呼ばれた幼女は、勝ち誇ったように背中から飛び降りる。


「ヒロは子供が困ってる姿を見るのは、ほっとけないもんね~?」

「うぅぅ……行けばいいんだろ!!」


 サイコの嫌みな顔に、ヒロと呼ばれた巨大リスは覚悟を決めて走り出した。


「手加減、忘れるんじゃないわよ~」


 四つ足で走るヒロには、サイコの声はすでに聞こえていない。一心不乱にゴブリンに突撃する。

 サイコの言うとおり、伝説級の魔物ぐらいしかヒロを傷付けられないのなら、弱いわけがない。当然スピードもトップクラスなので、あっという間にゴブリン達の前に立っていた。


 そして決着もあっという間。


 ヒロは尻尾で叩き潰し、薙ぎ払い、それだけで終わらずに炎を吐いて、ゴブリンの群れを無力化。馬車を残して辺りは焦土と化した……


「ストップ! スト~~~ップ!! もう敵はいないわよ!!」


 サイコの大声を聞いて、「ハッ」として我に返るヒロ。目をつぶって戦っていたらしく、自分のやらかした惨状を見て、いまさらあわあわしている。

 地は割れ、草木は焼け焦げているのだから、走って追い付いて来たサイコも呆れている。


「いい加減、自分の強さを自覚しなさいよ~」


 手を広げてため息を吐くサイコに、ヒロはぐうの音も出ないようだ。

 そんな中、辺りからゴブリンの声が聞こえなくなったと気付いた少年が、倒れた馬車の扉から恐る恐る顔を出した。


「ダメだ! まだ魔物がいる!!」


 そして、中にいる子供に伝えてすぐに頭を引っ込めた。


「あははは。魔物だって~」

「うぅぅ……サイコがこんな体にしたんだろ~」


 笑うサイコに、ヒロはいじけて地面に「の」の字を書き出した。


「も~う。その事は謝ったでしょ? それより、子供たちに安全だと教えてあげるから手伝ってよ」


 サイコに子供の事を言われたヒロは、尻尾にサイコを乗せて、倒れた馬車にゆっくりと上げる。


「んしょ。お~い?」


 そして横倒しの馬車に登ったサイコは、ノックして子供たちに呼び掛ける。すると、窓から覗く少年と目が合った。


「もう大丈夫よ。いま、リスに言って、馬車を元の位地に戻してあげるから、怪我しないようにしておいてね」


 少年は半信半疑であるが、自分より小さい女の子の顔を見て、コクリと頷いた。なのでサイコはヒロの頭に飛び移り、ゆっくりと傾けるように指示を出す。


「オーライ、オーライ……よし! もういいわよ~」


 ズシンと車輪が地に着くと、少年が窓から覗いていたので、サイコはもう大丈夫と言って馬車から降りて来るように勧める。

 少年はどうしたものかと思いながらも、一人で馬車から飛び降りた。


「え、えっと……助けてくれたの?」


 少年の言葉に、ヒロの頭に乗ったサイコは、胸を張って説明する。


「そうよ! このわたしが、君たちを助けたのよ! 感謝しなさい! そして七代崇め奉あがめたてまつりなさ~い!!」


 サイコの言葉に、少年はなんと言っていいかわからずにポカンとしている。そんな顔を見たヒロは、少年を助けようとする。


「あ~。こいつの事は気にしなくていいよ」

「リスが喋った!?」

「喋る魔物は初めてか? けっこう居るから、俺の事も気にするな」

「でも……」

「ちょっと~? いつになったらわたしを崇めてくれるのよ~」


 サイコは一向に崇めてくれないので、ヒロの背中を滑り降りて少年の前に立った。


「お前は何もしてないだろ? 助けたのは俺だ」

「わたしが助けろって言ったんだから、わたしの手柄よ!」

「何もしてない奴の手柄なわけないだろ!」


 ヒロとサイコは喧嘩を始め、少年がオロオロしていると、馬車から子供たちが降りて来る。


「「「リスさんだ~!」」」

「おい! お前たち!!」


 少年が止めるが、子供たちはヒロに抱きついてしまった。


「うが~! わたしが助けたって言ったでしょ~!!」

「ふふん。子供というのは、本能から頼りになる人がわかるもんなんだよ」


 地団駄を踏むサイコに、ヒロは勝ち誇った顔でみるが、子供は正直だ。


「「「モフモフ~」」」

「プッ……毛並みに埋もれてるだけじゃない」

「そんな~」


 そうして毛並みを堪能した子供たちは安心したのか、お腹を鳴らしてサイコとヒロに潤んだ目を送る。


「お腹がすいてるのね! わたしに任せて起きなさい! ヒロ、出してあげなさい!!」

「だから、俺の手柄を取ろうとするな!」


 サイコの態度にブーブー言っていたヒロであったが、子供たちの腹をすかせた顔を見ていられないのか、素直に食事を取り出す。


「「「ええぇぇ……」」」


 子供たちドン引き。それは何故か……


 ヒロが大口を開けて手を突っ込み、布やパン、湯気の上がった鍋を取り出したからだ。口から出てきた食べ物を見て、バッチイ物だと子供たちは受け取ったのだ。

 事実は、ヒロの頬袋は特別製。【アイテムボックス】になっているので、見た目はアレだけど汚いわけではない。入れる時と出す時が若干アレなだけで、便利な頬袋なのだ。


「さあ、お食べ~」

「「「う、うん……」」」


 引かれている事に気付かず笑顔で勧めるヒロに、子供たちは何か言いたげに食事に手を伸ばすのであった。



 取り出した姿はアレだけど、パンとスープはおいしかったようで、子供たちはパクパクと食べ、ヒロとサイコも負けじとバクバクと食べていた。

 そうしてお腹が落ち着くと、子供たちは船を漕ぎ出したので、一番年長である少年が馬車の中へ連れて行く。皆が眠ると、少年はヒロとサイコの前に戻って来て礼を述べる。


「助けてくれただけでなく、美味しい食事まで食べさせてくれて、ありがとうございます!」

「女神として当然の事をしたまでよ~」

「だからサイコは何もしてないだろ!」

「なによ!」


 また二人は喧嘩に勃発しかけたが、少年が割って入って止めていた。喋り方といい、意外と大人な少年だ。


「あの……ずっと女神と言ってますが、あなたたちは何者ですか?」


 助けられたからか、かしこまった口調に変わった少年に、サイコは堂々と答える。


「自己紹介がまだだったわね。わたしはこの世界を作った女神、サイ……うんだらこうだら、ふんだらこうだら……」

「あ~。こいつの名前は長いから、サイコと呼んでおくといいよ。俺はヒロな。よろしく」

「はあ……僕は町長の息子、ヨハンです」


 サイコの長い自己紹介が続く中、ヒロはヨハンに何があったか問いただす。


 その説明では、ヨハンの住む辺境にある小さな町は、毎年決まった量の酒を近くの山にお供えしていたらしい。だが、農民や作り手が王都に駆り出されていて満足な量が作れず、その酒も王都に送ってしまったので、奉納できなかったとのこと。

 すると怒った魔物が押し寄せた。ただし、貢ぎ物の酒を用意すれば襲わないと約束してくれたが、町にそれほど多くの酒は無く、あるだけ出して、次回までに用意をすると言って引き延ばそうとしたそうだ。


 魔物も、作り手がいなければ酒が手に入らないからか、その要求には応えたのだが、酒が手に入らなければ町を滅ぼすと言って去って行ったらしい。

 しかし期日が迫っても魔物の要求した量の酒は半分しか用意できず、悩んだ結果、町長はこの量で交渉する事に決めた。

 もしもそれで納得してもらえないのならば戦うつもりなので、子供たちだけは逃がしておこうと考えて、馬を操れる町長の息子のヨハンに頼んだようだ。


 だが、運悪く、ゴブリンの群れに襲われていたところを、ヒロと出会ったのであった。


「うんたらかんたら、コールシスカよ!」


 と、ヨハンの説明が終わったところで、サイコの自己紹介も終わったようだ。


「ふ~ん……大変そうだな~」

「ちょ、なんの話をしてるのよ!」


 そして二度手間。ヨハンはまた同じ話をして、疲れた顔になっていた。


「なるほどね~。じゃあ、ヒロが助けてあげたらいいじゃない?」

「なんで俺が……」

「たしかあの山なら、キングネズミが居るわよ。目的の十二支なんだから、不名誉な称号も外れるわよ」

「十二支は、四匹だけ倒せばいいんだろ? 無駄に怖い思いしたくない!」

「あんたね~。困ってる人が居るんだから、ちょっとは勇気出しなさいよ! だからいつまで立っても親の【すねかじり】なのよ!!」

「そんなこと言うなら、もう協力しないぞ!!」


 またしても大きなリスと小さな幼女は口喧嘩を始め、子供のヨハンに止められていた。


「いったい二人は何者で、どういう関係なのですか?」

「言いたくない!」

「こいつはね~」


 太郎の質問に、ヒロは拒否するが、サイコはペラペラと喋る。





 サイコの喋る内容とは少し違うが、ヒロとサイコの関係を整理しておこう。


 それはヒロの前に女神と名乗る女性が現れた事から始まった。


 ヒロは元々この世界の住人ではない。異世界、日本に住む中学生だった。しかしその生活は過酷で、生まれてすぐに親の愛情は受けられず、ネグレクト、暴力、盗みの強要。常に体のどこかは痛みがあり、常に空腹を感じて生きていた。

 そんな生活を送っていた十二歳のある日の事、いつものように父親に言われて万引きをしていたヒロは、店員に捕まった。


 親の名を出すなと言われていたヒロは警察に連れて行かれ、そこで優しく接してくれた警察のお姉さんに全てを話すと、生活は一辺。父親は逮捕され、ヒロは児童養護施設に入所する事となった。

 そこは痛みも空腹も無い世界。最初は警戒していたヒロも、職員の温かさに触れ、初めての幸福感に浸っていた。

 その時、同じ境遇の子供がこんなにも多く居ると知ったヒロは、職員のように、年長のお兄さんやお姉さんのように、年下の子供には優しく接しようと心に誓った。

 しかしその幸福は長くは続かなかった。


 14歳の誕生日に、父親が現れたのだ。


 ヒロは父親の顔を見て恐怖に震え、声も出せずに車に乗せられてしまった。その行き先は、父親の借金先。男たちに囲まれたヒロは、父親の借金のかたにされて体を切り売りされ、最後には心臓までも……



 無惨にも殺されたヒロは、暗闇の中で声を聞いた。


『次の世では何を願う』


 ヒロはわけもわからず、こう願った。


「頼れる優しい両親の元に生まれたい」


 その願いは聞き届けられて……


『え? それだけ? もうちょっと具体的に言ってくれないかな?』


 声の主は思っていた答えと違ったらしく、いくつか質問するが、ヒロはそれ以外の答えはせずに、新しい体に魂が宿る事となった。


「確かに頼れる優しい両親って言ったけど、リスはないだろ~~~!!」


 そして生まれてすぐに後悔した。



 それから百年、リス夫婦に守られてぬくぬくと育ったヒロの前に、女神と名乗る女が菓子折りを持って現れた。


『絶対王者よ。その大樹の元に居られては、こちらとしては都合が悪いのだ。引越ししてくれないか? 頼む』


 女神は、ヒロの父親に住み処を退去してくれるように頼んだが、父親は聞く耳持たず。


 食べた。


 当然、ヒロはその現場を目撃して驚いていたが、女神がそんな簡単に食べられるわけないかと思い、偽者と割り切って眠りに就いた。

 だがその深夜、女の子のすすり泣く声が聞こえて起きたヒロは、恐る恐る家族のトイレに向かう。そこでは、汚物まみれの幼女がしくしくと悲しそうに泣いていた。


「わたしは女神なのに~……うんことして出された~……え~ん」


 さすがにそんな状況を見たヒロは……そおっと逃げた。関わり合いたくなかったようだ。


「見~~~た~~~な~~~」


 しかし声を掛けずに逃げようとしたヒロは、凄い形相で走る幼女に捕まった。いちおう汚いと言って振り払おうとしたが、大泣きする幼女に負けて事情を聞く事となった。


「つまり、わたしが女神なのよ! てか、あんた。わたしが転生させてやったんだから、力を取り戻す協力しなさ~い!!」


 どうやら、リス父親の持つスキル【馬鹿食い】で、力をほぼ吸い取られてしまったらしい。父親の能力を熟知しているヒロは、五体満足で生き残って出涸らしとなった幼女を、女神だと信用した。

 しかし協力はする気がまったく無いので断ったのだが……


「あんた、人間になりたくない? わたしの力が戻ったら、ハーレムとか作らせてあげるわよ?」


 女神らしからぬ悪い顔で協力を求めるサイコに、ヒロはもちろん……断った。


「待って! 待ってよ! 人間になれば、美味しい物だっていっぱい食べれるのよ! ケーキにすき焼き、食べたいでしょ??」


 ランクの落ちた説得に、ヒロはもちろん……揺らいだ。不遇な暮らしをしていたヒロには、女よりも食い気が勝ったのだ。

 それからすったもんだあって、両親を説得したヒロとサイコは大樹の森を旅立ったのであった。


 そこからは魔物に出会っては逃げ回り、滅多に戦わないまま人の住む領域まで走り抜けたヒロとサイコは、様々な人と出会いながら旅を続けている。





「えっと……だから?」


 ヒロが転生者という事とサイコがうんこになった事を省いて二人の馴れ初めを聞いたヨハンは、納得がいかないので質問した。


「だからヒロに任せれば、キングネズミなんて簡単に蹴散らせるって話よ!」

「ほんとに??」


 先ほどの話の中に、ヒロの強さが含まれていなかったのでやはり納得がいかないヨハン。


「無理に決まってるだろ! 伝説級なんて、親父以外見た事が……ない」


 さらに拒否するヒロ。だが、そんなヒロに噛み付くサイコ。


「大樹の森にはS級がゴロゴロいるのに簡単に抜けたんだから、ヒロなら大丈夫よ! それにヒロの父親は、この世界に存在しないはずの神級よ。弱いわけが無いって、何回言わせるのよ!」


 神級……女神のおふざけで作ったクラス。この世界で最弱、進化するまでレベルアップ不可能の魔物に与えられた権利。そもそもリスは魔物設定してあるが、女神の目の保養に作られただけの魔物で、初期設定がスライムより十倍も弱いのだ。

 なのに、ヒロの父親はその苦難を乗り越え、ツインテールシマリスに進化し、サイコは喜んだのだが、しばらく見ていなかったら大慌て。世界のバランスを崩してしまい、慌てて止めに行ったのだが、返り討ちにされたのだ。


「でもな~」


 ヒロも神級に進化したのに戦う事に消極的なので、サイコは説得する。


「【すねかじり】という称号で本来の実力は無いけど、それでも伝説級の力はあるんだから、十二支で最弱のキングネズミぐらい余裕よ! それにヒロには、【生前贈与】があるじゃない? スキルも多才なんだから、勝てないわけがないじゃない!」


 【すねかじり】……親に守られて百年ぬくぬく暮らしている者に贈られる称号。本来の実力より、ワンランク下のランクになってしまう。

 【生前贈与】……親の持つスキルの下位互換を覚えられるスキル。【アイテムボックス】も、父親の【無制限収納】というぶっ壊れスキルの下位互換で、入れられる大きさが口の大きさに限られている。

 ちなみにヒロは曖昧な転生条件だったため、悩んだサイコから【相続】というスキルが与えられ、父親が死んだ場合は全てのスキルを無条件で受け継ぐ事となっている。


 二人の言い合いを黙って聞いていたヨハンは、目を輝かせてヒロに詰め寄る。


「お願いします! 父を……町のみんなを助けてください!!」


 子供からのお願いに弱いヒロは、戦いたくはないのだが、渋々了承するのであっ……


「この女神様に任せておきなさい!!」

「それ、俺のセリフ……」


 見せ場を取られたヒロは、またしてもサイコと喧嘩するのであった。





 今日はもう日暮れ間近という事で、ここで夜営。魔物は明日の昼に来ると聞いたので、無理して夜に移動する必要がないからだ。

 ヒロは【夜目】というスキルを持っているから関係ないので、サイコにブーブー言われていたが、無視して眠っていた。

 ただし、ヨハンはゴブリンの襲撃があったからか、ヒロのつけた焚き火を眺めて寝ずの番をするようだ。


 馬車の回りをウロウロしていたサイコは、そんなヨハンに気付いて声を掛ける。


「あれ? 何してるの?」

「また魔物が出るかもしれないから、見張りをしています」

「あ~……結界を張ったから、君も寝ていいわよ」

「結界ですか?」

「フフン。これよ!」


 サイコはヨハンに、自慢するように御札を見せる。


「読めないです」

「これは神界文字よ。人間には読めないし、書く事もできないのよ~。これを四隅に置いたから、伝説級の魔物でも、一度の攻撃を防いでくれるわ。下級の魔物は絶対破れないから安心しなさい!」


 胸を張るサイコに、ヨハンは悩む。


「……本当ですか?」


 どうやら神界文字は、ヨハンにはぐちゃぐちゃに見えて信用できないようだ。


「なんで信じてくれないのよ~! ……まさか、まだ私が女神だと信じてないの!?」

「えっと……」

「もういいわよ! 力が戻ったら、七代たたってやるからね! おやすみ!!」


 サイコはそれだけ言うとぷりぷりしながらヒロの腹に埋もれて、すぐに「スピー」と眠ってしまった。


 残されたヨハンはと言うと……


「女神っていうより、邪神なのでは?」


 七代祟ると言われて、サイコを邪神認定するのであった。



 翌朝……


 ヨハンが心配した夜の襲撃は無く、無事、朝を向かえる。子供たちが目覚めると、引っくり返って寝ているヒロの腹に飛び込み、ポヨンポヨンと跳ねて楽しそうにしていたが、そこで寝ていたサイコまで宙を舞って怒らせていた。

 それでも寝ているヒロに、サイコは八つ当たりでヒゲを引っ張って起こしていた。


 目覚めたヒロに、子供たちがお腹すいたとすり寄り、昨日と同じメニューで腹を満たす。


 朝食が終わると、さっそく出発。


「俺は馬じゃないんだけど……」

「はいよ~。シルバー!」

「俺の名前はヒロなんだけど……」


 ゴブリンの襲撃で馬は逃げてしまっていたので、馬車はヒロが引くしかない。なのでヒロに縄を巻いたのだが、御者台に座るサイコにブツブツと言っていた。


「お尻が痛い……」


 何故かサイコもブツブツ言い出し、ヒロの背中に移っていた。馬車よりヒロのほうが、よっぽど乗り心地がいいのだろう。

 そうして馬より速く走るヒロは、お昼よりかなり前に町へと到着するのであった。



「魔物が攻めて来たぞ~~~!!」


 当然、巨大なリスを見た町の者は騒ぎ出し、弓を構えて応戦しようとするが、御者台で叫ぶヨハンの姿を見て思い留まる。

 ヒロは止まろうかと悩んだが、少年に言われるままに町の門に馬車を横付けするのであった。


「ヨハン! どうして戻って来たんだ!!」

「お父さん……」


 騒ぎを聞き付けた町長は、馬から飛び降りてヨハンに走り寄る。そこでヨハンから事情を聞いた町長は、縄をほどいているヒロの元へとやって来た。


「息子を助けてくれて、有り難う御座います」


 深々と頭を下げる町長に、ヒロは頭を掻きながら答え……


「女神として、当然の事をしたまでよ~。七代わたしを崇め奉りなさ~い」


 いや、サイコがしゃしゃり出て、セリフは取られた。


「女神??」

「ちょっと事故にあって、力を失ったのよ。でも、わたしの下僕があなた達を助けてあげるわ!」

「いつから俺はサイコの下僕になったんだよ!」


 それから二人は喧嘩を始めるが、ここで話すのもなんだからと町の中へ通される事で喧嘩は止められていた。


「ま、話はヨハンから聞いてるから大丈夫よ。ヒロ、例の物だして」

「……例の物って?」

「御札よ。御札! それで町を守るんだから、わかるでしょ!!」

「いや、言ってくれないと……」

「がるるぅぅ!!」


 サイコの剣幕に負けて、素直に口に手を突っ込むヒロ。紙の束を口から出すと、サイコに手渡す。


「この町の規模なら……20枚でいいかしら? はい、これを外壁に、等間隔に張りなさい」

「これは?」

「結界よ。時間が無いんでしょ? 急ぎなさい! がるるぅぅ!!」


 幼女のサイコに噛まれかけた町長は、わけもわからず兵士を使って御札を張らせるのであった。



 それから昼になる前に、ヒロとサイコが腹に物を詰めていると、外壁の上に立つ者が騒がしくなる。


 伝説級、十二支のキングネズミが攻めて来たのだ。「ドドドド」と響き渡る音に気付いた町の者は、押し寄せる巨大なネズミの大群に恐怖する。


「来たみたいね」


 町の者とは違い、サイコは悪い顔をする。


「なっ……一匹じゃないのか!?」


 サイコとは違い、ヒロは町の者と同じく恐怖する。


「ザコよ。ザコ。ゴブリンと変わらないんだから、さっさと行きなさ~い!」


 ヒロがなかなか門に向かおうとしないのでサイコは後ろから押すが、まったく進まない。なので、町の子供を呼び寄せて、説得させていた。

 ここはヨハンに任せ、サイコはダッシュで外壁を駆け上がり、町長の隣に立つ。


 その時……


『チューーー! 貢ぎ物は用意できたか~!!』


 5メートルを超える化け物ネズミ、キングネズミの声が大音量で響き渡った。その声に、町長は拡声器を持って返答する。


『ん、んん~。ネズミ様、実は……な、何をする! 返せ……』


 領主の声が小さくなる中、幼女の甲高い声が聞こえる。


『あんたに払う酒なんてないわよ!』


 サイコだ。サイコが拡声器を奪って勝手に叫んだ。


『なんだと~~~!!』

『それと、お前はもうすぐ死ぬ!』

『ふ、ふざけやがって……』

『我が下僕ヒロよ。やっておしまい! ……あれ?』


 調子に乗ってあおっていたサイコだが、ようやくヒロがまだ外に出ていない事に気付いたようだ。


『お前たち……あのガキを俺の前に引きずって来~~~い!!』

「「「「「チューーー!」」」」」


 キングネズミの命令に、ザコネズミは敬礼して一斉に走り出した。その数、一万……辺境の町を襲うには多すぎる数だ。


「ちょっとヒロ! 早く出なさ~い!!」


 サイコが叫んだ瞬間、大きな影がサイコを通り過ぎ、外壁の外で「ズシン」と音が鳴った。


「いや~。町の人が危険だからって、門を開けてくれなかったんだ」


 ヒロだ。ヒロが外壁を飛び越え、颯爽さっそうと登場したのだ。


「わかったから後ろ後ろ! 来てるわよ!!」

「う、うわ~~~」


 いや……。颯爽と登場したのだが、サイコに言われて振り向いたら、情けない声を出した。


「……ん? あのデカイの、俺とキャラ被ってね?」

「同じ齧歯類げっしるいなんだから当然でしょ! だからさっさとやっつけなさ~い!!」

「あ、ああ。それじゃあ、灼熱……」

「待った!!」


 暢気のんきな声で自身の最強ブレスを吐こうとしたヒロであったが、サイコに止められてしまった。


「ぜったいこっちに向けないでよ! あんたの攻撃なんて喰らったら、一発で結界が消し飛ぶんだからね!!」

「じゃあ、どうやって……」

「大きな魔法は使わないこと! わかった!?」

「え……それじゃあ怪我をしてしまう……」

「あんたなら大丈夫よ! ちなみに、さっきからザコに噛まれてるわよ?」

「へ?? ぎゃ~~~!!」


 痛くもないくせに、大げさに騒ぐヒロ。サイコと喋っている間もザコネズは押し寄せ、大群でヒロをカリカリしていたから驚いたようだ。

 なので、慌てて二本の尻尾を振り回す。ぶっとい尻尾を喰らったザコネズミは簡単に吹き飛び、仲間のザコネズミにぶつかって沈黙する。

 その攻撃だけで、ヒロから半径5メートルの範囲は、きれいさっぱりザコネズミは居なくなった。


「や、やった……」

「まだまだいるんだからサボッてんじゃないわよ! 次は10時の方角に【炎爆】よ!!」

「お、おう……【炎爆】!!」


 ヒロが放つは大きな炎の玉。口から吐き出した炎の玉は、ザコネズミを消し炭にしながら一直線に進み、地面と接触すると半円状に爆発。ザコネズミを多数巻き込んで吹き飛ばした。


「やった! 次は……」


 サイコの指示を受け、移動式大砲となったヒロによってザコネズミの大群は炭と化す。そうしてザコネズミの数が半分を切った頃、キングネズミが動いた。


『そいつは俺がヤル! お前たちは町を襲え~~~!!』


 ヒロを避けて進むザコネズミ。ヒロも追い掛けようとしたが、サイコから指示が飛ぶ。


『こっちはいいわ! 先にボスをやっちゃって!』

「で、でも……」


 ヒロは町を心配して足が出な……


「あいつ俺よりデカイし、強そう……」


 いや、キングネズミの姿にビビッて足が出ない。


『あんたがやらなきゃ子供たちが死ぬのよ! それでいいの!?』

「い、嫌だ!」

『じゃあ、やりなさい! 12時の方向にダッシュ~~~!!』

「う、うおおぉぉ!!」


 子供たちをサイコに人質に取られ、雄叫びをあげてキングネズミに突っ込むヒロであった。


 そのヒロの後ろ姿を見送ったサイコは、小さく呟く。


「まったく、世話のかかるやっちゃ」


 そして大きな声で叫ぶ。


『こっちも応戦よ! あんたたち、武器を取りなさい!!』

「「「「「おおおお!!」」」」」


 町に張られた結界に弾かれるザコネズミを見ていた兵士たちは、これなら勝てると感じ、サイコの叱咤に応えるのであった。

 ただし、見せ場を取られた町長は複雑な思いを抱いていたのは言うまでもない。





 町に群がるザコネズミはサイコの張った結界に弾かれ、そこに町の兵士、男や女、年寄りまで加わって、弓矢や石、投擲とうてき武器になり得る物が降り注ぐ。

 町の住人の総力戦のおかげで、着実にザコネズミの数が減っていくのであった。


 そんな中、巨大リスのヒロは四つ足で駆け、自身の五倍はあるキングネズミに突っ込む。

 キングネズミは二本足で立ち上がり、ヒロを睨み付けながら、長い長い尻尾を地面に叩き付けて叫ぶ。


「よくも我輩のかわいい同胞を殺しまくってくれたな! この罪は、貴様の命で払ってもらう。覚悟し……ヂューーー!」


 残念。キングネズミの名文句は、終わり際にヒロの頭突きを喰らって止められた。

 目をつぶって走っていたヒロは、キングネズミの名文句を聞く気がなく、ただただ真っ直ぐ走っただけ。ただし、ヒロの走る速度はこの世界のトップクラスなので衝撃は大きく、キングネズミは体をクの字に折って飛んでった。


「つつつ……」


 大質量の物体にぶつかったヒロは、足を滑らして、ゴロゴロと転がってから止まる。そして立ち上がって周りを見渡すと、遠くに仰向けに倒れるキングネズミが目に入った。


「や……やった~!」


 浮かれるヒロは、もう勝った気でいる。もちろんキングネズミは生きている。ヒロが視線を外して喜んでいる隙に立ち上がって走り出した。


「まだ我輩が喋っていただろう!」


 そして怒りのビンタ。


「ぐほっ」


 顔を殴られたヒロは回転しながら吹っ飛び、遠くの岩にぶつかって止まった。


「なんだ、この程度で吹っ飛ぶなんて……まぁまだ生きてるだろう。存分にいたぶって同胞の恨みを晴らしてやる! チューーー!!」


 キングネズミは気合いを入れて、のしのしと歩くのであった。


 その頃ヒロは……


「痛い痛い痛い……怖い怖い怖い……パパ、ママ……助けて~~~」


 元の世界で受けた父親の暴力を思い出し、体を丸くして震えていた。この世界の父と母に助けを求めるが、助けてくれる者はいない。近付く者は、キングネズミと、ただ一人……


「本当に痛いの?」

「痛い痛い痛い……」

「死ぬほど痛いの?」

「痛い痛い痛い……」

「血なんて出てないわよ?」

「な、内出血……」


 女の子の声を聞きながらヒロは震えていたが、血が出ていない事に気付いて少し冷静になる。


「まったく……わたしがついてないと、ホントヘタレね~」

「サイコ??」


 ようやく話し掛けていたサイコの顔を見たヒロ。


「どうする? そんなに怖かったら、逃げてもいいのよ?」

「いいのか!?」

「いいわよ。優しくて強いお父さんとお母さんに守られて、一生暮らしなさい」

「うん!」

「でもね……」


 嬉しそうに即答するヒロに、優しく語り掛けるサイコ。


「親はいつか死ぬわ。ヒロはそれ以降も生き続けなくちゃいけないの」

「え……」

「それが自然の摂理よ。誰もあらがえないの」

「………」


 現実を聞かされて言葉を無くすヒロ。そんなヒロに、サイコは優しくて鼻を撫でる。


「ヒロはそのための準備をしなくちゃいけないの。強くなって、お父さんやお母さんに心配かけないようにしなくちゃいけないの。わかる?」

「……うん」

「じゃあ、やる事はひとつでしょ?」

「うん……」

「立ちなさい! ヒロ!!」

「うん!!」


 自信無さげに返事をしていたヒロは、大きな声を出して立ち上がる。すると、サイコは頭にしがみついていたようで、定位置にスタンバイした。


「乗ってていいのか?」

「ヒロが死んだら私も神界に戻れない。一蓮托生だからね……。さあ、来たわよ。一発、どデカイ攻撃をぶちかましてあげなさ~い!」

「おう!!」


 ヒロは両手を斜め45度に上げ、尻尾を地面と平行にし、大きく息を吸う。


「我、絶対王者の血を引くヒロが命ずる……」


 ヒロが詠唱を始めると、両手、両尻尾、口に魔力が集まる。すると、五ヵ所に雷が発生し、徐々に発射口である口に集まった。

 その魔力の集約に気付いたキングネズミも詠唱を始め、口元に魔力の塊が作り上げられる。


「喰らえ~! チューーー!!」


 あとから魔法を使ったにも関わらず、先に魔法が完成したのはキングネズミ。巨大なエネルギー波が放たれた。


「……全てを焼き尽くせ、【極楽稲妻】」


 ヒロが遅れて放つは雷の詰まった球状。スピードも無く、フラフラと飛ぶ球体は、凄い速度のエネルギー波とぶつかった。

 その衝突を見ていたほとんどの者は、球体が押し負けると思っていたが、意外な事が起こる。


 エネルギー波は球体を避けるように放射状に散らばり、ヒロを避けた。その中を、球体はゆっくりと進み、徐々にスピードを上げ、キングネズミに向かう。


 ひょいっ。


 そして避けられた。


「あ……外れた……」

「馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!!」


 スピードが上がったのだが、それでもキングネズミのほうが速かったため、避けられた事に驚くヒロと、避けらると思っていた怒るサイコ。


「だって強い攻撃をしろってサイコが言ったんだろ?」

「言ったけど、当たる攻撃をすると思うじゃない! 何よ、あのトロイま…ほう……」


 言い訳をするヒロの頭をポコポコしながら怒鳴るサイコは、声が小さくなった。


 球体がキングネズミを通り過ぎてすぐに、「ドコーーーン!!」と、破裂したと同時に円形に広がって、衝撃は空に向かったからだ。その衝撃は大きく、キングネズミも射程範囲だったので、左の手足を巻き込まれてしまった。

 その中は、まさに極楽。考える暇も時間もなく、巻き込まれた者は何も感じる事もなく、天に召された。


「ぐが~~~!!」


 ヒロの攻撃を喰らったキングネズミは、転がりながら天に向かって立つ光の柱から離れる。


「な、なんちゅう攻撃をするねん!」


 ヒロの最強魔法を見たサイコは驚きのあまり関西弁になる。


「サイコがデカイ攻撃しろって言ったんだろ~」


 最後にヒロは、責任転嫁して愚痴る。その他の者は、空を見上げて声も出ないので割愛。


「これで実力の半分って……」


 さらに、サイコはヒロとてつもないポテンシャルに驚いているが、頭をプルプル振って気を取り直す。


「ま、まぁ結果オーライ! キングネズミがのたうち回っている内にやっちゃいな!!」

「あ、そうだな! いまなら勝てる!!」

「いやいやいやいや……」


 サイコはツッコんでいるが、ヒロはトドメに移行しよう走り出す。その頭に乗るサイコは、「普通にやっても勝てるだろ」と、ブツブツ言っている。

 光の柱が消え行く中、ヒロは転がっているキングネズミにサッカーボールキック。追い掛けてさらにキックキック。戦闘の素人なので、上手くダメージを与えられずに、転がしているだけだ。


「ちっがーう! 馬乗りになって、ボコボコ殴るのよ!!」

「お、おう……わかった!」


 見かねたサイコの的確な指示。ヒロはキングネズミの腹に飛び乗ってパンチパンチ。それでも足りないと、サイコは尻尾も使えと言って、よっつのパンチで顔や胸を殴り続ける。

 これで終わり……と、ヒロは思ったのだが、そうは上手くいかない。


「この程度で……なめるな~!!」


 キングネズミの反撃、長い尻尾をヒロの首に巻き付け、体をのけぞらせたかと思ったら、そのまま持ち上げて、地面と直角に頭から落とす。


「ぐふっ」


 そして遠くに投げ捨てた。


「いたた……」

「そんなに効いてないでしょ? すぐに立ち上がる!!」

「お、おう!」


 サイコを心配するでなく、自分の心配をするヒロ。サイコは結界を張ってなんとか耐えたので、指示を出せたようだ。


「やっぱり持ってるわね……」


 キングネズミは【自己再生】を使って、失った腕と足を生やす。


「でも、かなり疲れるみたい」


 サイコの言う通り、傷が大きすぎてキングネズミは肩で息をしている。


「化け物……」

「ヒロだってできるんだから、怖がる必要はないわ。それより、まずは厄介な尻尾を引きちぎってあげなさい」

「う、うん……」

「あ、必要ないと思うけど、肉体強化魔法を使ったら? それでダメージを減らせるわよ」

「確かに!」


 いまさら思い出したヒロは、身体能力を跳ね上げて駆ける。すると、キングネズミは遠距離から長い尻尾で応戦。ムチのように振り、ヒロを近付けさせない。


「ガード! 顔だけ守ってジリジリ前進!!」


 顔にムチ打たれて涙目になったヒロに、すかさず指示を出すサイコ。ヒロも素直に聞き、ゆっくりとキングネズミに近付く。


「どう痛くないでしょ?」

「痛い気がする……」

「気のせいよ。それより、スピードに慣れて来たら、尻尾を掴むのよ?」

「できるかな?」

「できる! 女神様の予言は絶対よ!!」


 ヒロは「このちびっこが女神?」と思ったが、口に出している暇は無く、キングネズミの尻尾に集中する。

 すると、スキル【瞬間遅延】が発動し、キングネズミの尻尾の軌道が見え、楽々と両手で掴んだ。


「引きちぎれ~!!」

「うおおぉぉ!!」


 力いっぱい引っ張ったヒロは、キングネズミの尻尾を引きちぎる事に成功。


「いまよ! 再生される前にぶん殴れ!!」

「おう!!」


 ヒロは痛みに視線を外したキングネズミに突撃。ジャンブし、振りかぶった拳を顔にぶつける。その攻撃で、キングネズミは地面に張り付けとなり、ヒロは両手、両尻尾で殴りまくる。


「剣……斬撃はないの? 爪でもなんでもいいから、切り裂け~!!」

「えっと……あった!」


 サイコの指示に、ヒロは尻尾を落とした後、両手を広げる。


「【星十字爪せいじゅうじそう】!!」


 尻尾を引いて、両手を閉じると同時に十本の斬撃が飛び、地面に深い亀裂が入る。


「チュ、チューーー! 好き放題やりやがって~!!」


 ヒロの一瞬の隙。その瞬間に、キングネズミは息を吹き返す……


「お前は、もう、死んでいる……」


 そしてサイコの決め台詞。


「な、なんらほ~……はれ?」


 キングネズミは喋ろうとしたが、切り刻まれた顔が崩れ、疑問の声を残して息絶えるのであっ……


「なあ? こういう時って、倒した人が、決め台詞を言うんじゃないのか?」

「もう~。勝ったんだから、いいでしょ~」


 決め台詞を取られて、納得のいかないヒロの声を残して決着したのであった。



 それから、キングネズミが死んだと知ったザコネズミは散り散りに山に逃げ帰り、町に戻ったヒロとサイコは住民の前に立つ。

 そこで町長が感謝の言葉を送り、宴をするからと、ヒロとサイコを誘って全員にネズミ肉が振る舞われる。ただし、キングネズミはサイコの指示で、ヒロの口に入る大きさに切り刻まれて、アイテムボックス行きとなっていた。

 サイコが「これを売れば大きな町で豪遊できる」と悪い顔で笑っていたので、町の者は助けてもらったけど、「こいつ本当に女神か?」と疑っていた。


 そうして領主の屋敷で一泊したヒロとサイコは、町の外で皆に見送られる。


「ヒロ様、サイコ様。町を救っていただき、ありがとうございました」


 代表して町長が挨拶をし、深々と頭を下げる。


「いいのよ~。女神として、当然の事をしたまでよ~。オホホホ。もっと崇め奉りなさ~い。オホホホホホホ」


 サイコ、絶好調。高笑いが止まらない。


「だから俺が倒したんだろ? はぁ……」


 ヒロは頭の上で騒ぐサイコを揺すって落とそうとし、落ちかけたサイコは文句タラタラだった。


「それじゃあ、わたしたちは行くわね!」

「「「「「リスさんありがと~~~」」」」」


 手を振る子供たちに、二人も手を振って別れを告げ……


「そこは女神様でしょ!!」

「あはは。子供はわかってるな~」

「ちょ! 走るな~~~!!」


 ……て、うるさいサイコの言葉を無視してヒロは走り出したのであった。





 町から離れると、ヒロの頭の上でブーブー言ってたサイコも静かになり、ゴロンとしながらヒロに話し掛ける。


「そういえばさ、【すねかじり】のスキルレベルは下がったの?」

「それがさ~。あんだけ苦労したのに、いっこも下がってないんだ」

「えっ……それはおかしいわね。私が見てあげるわ。【女神の目】発動!!」


 【女神の目】……鑑定眼より遥か上位のスキルで、小さな虫歯すら見逃さないスキルだ。もちろん、生き物のレベルからスキルレベルまで、事細かに見られる。


「プッ……0、5げんって、どゆこと?」

「0、5!? 1ずつって行くんじゃないのか!?」

「それだけ協力な呪いって事ね」

「呪い言うな! サイコが作ったスキルだろ!!」

「あはは。ネタで作ったスキルだから、設定ミスっていたかも??」

「お~い……ミス多すぎだろ? 女神のくせに……」

「多くないわよ! 普通、手に入らないスキルなんだからね。百年も親の元を離れないあんたが悪いのよ。このニート!!」

「あ~! 俺の言われたくないこと言った~。もう実家に帰ろっかな~??」


 サイコの辛辣な言葉に、ヒロは足を止めてしまう。


「またヘソ曲げて~。そんなので、千年後どうするのよ? 両親は死んじゃうのよ?」

「千年……??」

「あ、ヤベ……」


 サイコの失言。絶対王者となったツインテールシマリスの寿命は、サイコのミスでかなり長寿になっているのだ。


「そんなに生きるなら、もう五百年、パパとママに甘えよっと~」


 ヒロは嬉しそうに、実家に向けて走り出すのであった。


「待って! 待って! ヒロにお父さんを倒してもらわないと、聖王も魔王も死んじゃうからやめて~~~!!」


 そう。ヒロには女神から与えられた使命がある。父親が不法占拠する場所に、眠っている宝を奪いに来る聖王と魔王を守ること。言わば、宝の守護者を適正レベルに落とすことだ。

 そのためには父親を倒し、力尽くで引っ越しをさせないといけないのだ。


 さあ、女神の願いを叶えるため、ヒロよ。親父越えをするのだ!


「じゃあ、四百年ぐらい……」

「急いでるんだって~~~!!」


 こうしてヒロは、サイコに泣き付かれ、次なる強敵と戦わされるのであったとさ。



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 この作品は読み切り用に書いた作品ですが、人気があるならちゃんとした版を書く予定です。

 ですので、気になる方は評価等していただけると有難いです。


 宜しくお願いいたします。

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頼りになる両親の子供に転生させてくれとは言ったけどリスはねぇだろ~リスに転生した俺の使命はオヤジ越え~ @ma-no

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