2.IQの数値の意味 ―比率IQと偏差IQ― 

2.IQの数値の意味 ―比率IQと偏差IQ― 

 次はIQの数値の意味です。IQ100が平均というのはよく聞くと思います。

後で詳述しますが、知能検査は子どもの発達に遅れがあるかどうかを診断するために開発されました(後の大人にも流用されます)。要は、一般的な人と比べて、知的な発達が遅れているかどうかを示すための検査であり、IQはその度合いを示す数値です。すなわち、相対的な値なのです。

 気をつけるべきは、IQの算出法は2種類あり、数字の意味が大きく異なるのです。


(1)比率IQ(古いIQ)

 1つ目、古い考え方が比率IQです。これは精神年齢(mental age)÷実年齢(chronological age)×100で計算されます。

 「精神年齢」という言葉から、大人びているのかどうかに思えてしまいますが、落ち着きとかいう話ではなく、ここでは知能検査の結果から見た年齢です。つまり、その年齢の人が一般的に出す結果を出せば、精神年齢と実年齢が一致し、IQ100となります。

 6才が3才並みの結果を出すと、3÷6×100でIQ50、同じ6才が12才並みの結果を出すと12÷6×100でIQ200です。


 しかし、この式では高齢になればなるほど知能が高い前提がありますが、人の成長は次第に緩やかになりやがて止まります。14才くらいまでしか有効な値が出ず、また、先ほどのIQ200など極端な値が出るなど様々な問題があり、現在、この方式はほとんど用いられていません。


(2)偏差IQ(現在のIQ)

 そこで2種類目が出てきます。2つ目、偏差IQ(DIQ:Deviation IQ)は同じ年齢の人々の知能検査結果と比較した「偏差値」です。現在、知能テストではほとんどこちらが使われます。

平 均値100の正規分布で、標準偏差(SD)はテストにより15や16、24等となります。テストで同じ結果でも、SD15でIQ120なら、SD24ではIQ132となります。(正規分布というのは、ざっくりいうと平均値を頂点にした左右対称な山です。標準偏差が変わると、山の高さが変わります。)


 例えば、SD15の場合、85~115の間に約68%の人が収まり、70~130の間に約95%の人が収まることになります。

 偏差IQでは、IQ130(SD15)を超える人は全体の約2.5%、逆にIQ70(SD15)を下回る人も全体の約2.5%ほどしかいない、ということになります。 


 比率IQとは数字の持つ意味が全然違いますね。偏差IQの場合、多くの知能検査は大体IQ160を測定の上限、IQ40を下限しています。極端な値は測りようがないのです。

 平均と分布が出せるのは、知能検査の開発時に1000人とか2000人とかテスターが実施したデータに基づいているからです(知能検査開発については、例えば、田中ビネーについて中村・大川(2003)が詳しい)。実際に、地球上の全員が受験して順位付けすることはしていません。(現在技術的には可能かもしれませんが、体制を整えるコストは膨大でしょう。)

 例えばIQ200(SD15)となると、764億人に1人となります。テスターはおろか、IQテスト受験者総数全体を超えてしまいます。


(3)混同されるIQ

 でも、IQ200とか聞いたことあります、という方も多いでしょう。

 多くの場合、160を超えるIQ値は比率IQを用いています。比率IQと偏差IQが示すものは違いますが、安易に混同される例が少なくありません。


 それに、同じ偏差IQでも、SD15とSD24では「見栄え」が随分違います。かつてキャッテル式という形式ではSD24が使われておりIQを高く見せたい人に人気だったとか。現在はキャッテル式もSD15で出ますが、過去のIQデータにはSD24のIQも混ざっているということです。


 そもそも、違うテスト間では内容も違いますし、比較できません。それに、自分がどの年齢の知能にあるかという比率IQも、同一年齢集団と比較した位置を示す偏差IQも、年齢が違えば比較できません。比率IQか偏差IQかが違えば当然ですし、時代でテスト改訂されますから、過去の人物とはなおさら比較できないということです。


 では、IQ高い偉人ランキングとか沢山あるのは何なのでしょうか。まあ、少なくとも知能検査が生まれる以前の人物は、推定です。そのあたりは、歴史のところで見ていきます。


(3.IQの利用のされ方 に続く)

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