そして私は満たされる

なぎの みや

欠乏

りょうちゃん……」


 生涯で唯一、心の底から愛した人の名を囁く。返事は――無い。


 彼は私の全てだった。彼の為に夢を諦め、彼を追って生活スタイルも変化させ、髪型や服装も彼好みに染まった。私の人生は彼の為に存在していたと言っても過言では無かった。彼も、私の事を愛していると言ってくれた。


 それなのに。


 彼は居なくなってしまった。彼との別れ際に交わした最後の言葉はなんだっただろう。何か酷い事を言われていた様な気がするが、よく憶えていない。とにかく私は、良ちゃんのお嫁さんになる夢を諦めざるを得なかった。


――――…


 遠のこうとしていた意識が、急回転を始めた冷凍庫のモーター音に再び呼び戻される。視界はかすむが、まだ心臓は動いているようだ。少し残念なような、安心したような。時計を確認すると、午前3時14分。仕事に行く時間まではまだ4時間以上ある。眠りにつければ良いが、恐らく無理だろう。空腹が過ぎると、睡眠すらもまともにとれなくなる事を最近知った。


 近日中に、私は自死を選択する。その為にかれこれもう三週間は、水以外口にしていない。


『餓死』


 痛みを極端に嫌う私が、受動的に実行出来る最善の死に方。それにこの方法こそが、私に出来る数少ない彼への手向けだと思ったからだ。


 良ちゃん――

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