異世界チートで騎士になる予定だったけど、没落していたのでハーレム傭兵旅団を作ります

宮野アニス

第1話 異世界転生(不注意)

 トラックに轢かれた。

 高校二年生、田中ツネヒコは宙に舞った。まるで魔法のような浮遊感、時間が引き延ばされたような感覚。

 生まれ変わったなら、騎士団長になりたい。沢山の兵を率いて突撃する高揚感が欲しい。

 そんな考えが走馬燈と共に、ツネヒコの頭を駆け巡った。

 いや、ちょうどそんなライトノベルを歩き読みしていたせいなんだけど。というか轢かれた原因なんだけど。影響されやすい自分は、騎士団長になりたい気持ちが強く残った。


◇◆◇



「しゃらんら♪しゃらんら♪」


 暗闇の中から声が聞こえる。ツネヒコが目を開けると、辺りは真っ白な世界だった。足元がおぼつかず、地面には白い霧が立ち込めている。天国だろうか。

 目の前には際どい羽衣を着た、少女が鼻歌まじりにクルクルと踊っていた。金髪に白金のティアラをしていて、まるで女神のようだった。


「あら、こんにちは。私は女神だよ」


 どうやら本当に女神らしい。クルクル踊りを辞めて、彼女はウィンクした。端正な顔立ちで、羽衣から覗く谷間は少し汗ばんで見えた。


「俺は死んだのか」


「残念だけど。でも不幸中の幸いだよ!私のダイエット最中に来た魂には、サービス付けちゃうよ!」


 クルクル回る変な踊りはダイエットらしかった。


「ダイエットって、神も太るのかよ!」


 女神は薄い羽衣から透ける、お腹をつまむ。ぷにっと、肉が盛り上がるが彼女はそんなに太っているようには見えない。胸は大きくて、腰はくびれている。ふとももは

艶めかしくて太い。ムチムチというやつだ。


「ちょっと正月に食べ過ぎちゃって」

「神の世界にも正月あるのか!」

「うん、コタツも餅もあるよ!くつろいでく?」


 女神の庶民的な雰囲気に、ツネヒコは死のショックを忘れかけていた。彼女なりの優しさなのかもしれない。


「いや、結構です……それよりもサービスって何?」

「おっと、忘れちゃうとこだった。君の魂はこれから異世界転生を行うんだけど、その際にチートスキルをあげちゃいます!」

「スキルといっても何がいいんだか困るな」


 ファンタジー小説は良く読んだことはあるが、一体何のスキルが役に立つだろうか。


「君の願いはナニ?異世界でやりたいことは?」


 それならば簡単だ。ツネヒコの願いは決まっていた。


「騎士になりたい。沢山の兵隊を率いて先陣を切る、カッコいい騎士団長に!」

「ならばあなたに指揮官のSランクスキルをあげよう!」


 女神はニッコリと笑って、再び踊り始めた。


「しゃらんら♪しゃらんら♪」


 女神は回り出す。豊満な谷間が脈動して、腰つきがいやらしく左右に揺れる。神の舞い


「うわっ!」


 女神が回るたび、ぼうっとツネヒコの身体が光を放つ。ぬるま湯に浸かったみたいに心地良く、魂だけの肉体に力がみなぎってくる。

 女神はしゃなりと、舞いを止めた。


「終わったよ、ステータスオープンって言ってみて」

「ステータスオープン!」


 ツネヒコの目の端に文字が浮かび上がる。網膜の内側に直接投射されているようだ。


田中・ツネヒコ

職業 転生者

スキル【騎士団長の極意】ランクSSS 複合スキル


「複合スキルって?」

「あなたが求めた騎士に相応しい魔法能力を集めて一つにしたやつ、福袋みたいなもんだと思ってね!」

「胡散臭いな、外れとか入ってないよな?」

「ないない、複合スキルから発動できる魔法は全部で五つ。【音響通信魔法】【鳥瞰

偵察魔法】【隔壁決闘魔法】【征服簒奪魔法】【戦術殲滅魔法】」


 女神は一つ一つの魔法を説明してくれた。


【音響通信魔法】はその名の通り、自身の声をどれだけ離れていても届けるテレパシーみたいなものらしい。

【鳥瞰偵察魔法】、戦略を練るため、戦場を空から眺める千里眼スキルだ。魔法で出来た鷹を飛ばし、視覚情報をリンクさせることが出来る。

【隔壁決闘魔法】騎士とは一対一の戦いを神聖視するもの。横槍を入れられないための結界らしい。沢山の部下を率いるのに、そんな魔法がいるのかとツネヒコが聞くと、女神はこの魔法には色々な使い方があると言われた。

【征服簒奪魔法】倒した相手のスキルを奪い取る魔法。シンプルにチートだ。


「……最後の一つ、【戦術殲滅魔法】なんだけど、これはとても危険だから絶対に使わないで」


 女神は声のトーンを低くして、脅かすような口調だった。


「は?いやいや、使えない魔法を渡されても困るよ! 別のにしてくれ」

「それは出来ないよ、だって福袋だもん」

「やっぱハズレあるじゃん!」

「ちーがーうー! 在庫処分品!」

「魔法に在庫もクソもあるかよ!」


 ツネヒコは一気に不安になってきた。この女神、やってること適当なのでは。


「大丈夫、ちゃんと君が騎士団長になれるようにするから。身体能力も合わせて強化しとくから――じゃあ、頑張って!」


 女神が手を振ると、ツネヒコの視界がぼやけた。魂の肉体が透けていく。一抹の不安を覚えつつも、ツネヒコの意識は溶けるようにどこかへ送られた。

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