9-2
しーんと静まり返った夕食。
森の中だが、フロラドル領内だ。旧アーラグドラ領になる。
いつも通りシールドを張り、アーズラッドが増えたけど静まり返っていた。
浮いていたリアカーは、見えない様にシールドを張っていてくれたお蔭で、後から来た二人には見えてないだろうとラスは言った。
あの二人の会話からもお兄ちゃんは死んだ事になっているはず。
問題は、アーズラッドだ。囮に使ったのを知っているなら僕と一緒に逃げている事になる。
夕食後、いつもは、レンカとサツナはリアカーの中で寝ていたけど、今はお兄ちゃんが横になっている。まだ目を覚まさない。なので二人は、シートを地面に敷いて寝てくれている。僕達も、シートを敷いてそこに座った。
「なんか久しぶりだな、こういうの」
「そう? 僕達は移動中はこうだったけど?」
「はぁ? 森の中?」
「うん……」
「強くなったな、お前」
そうかな? ラスがシールド張ってくれているから安心なんだ。
「昔は、暗くて怖いってべそかいてたのに」
「う。それ言わないでよ、二人には……」
「はいはい。で、あのリアカーを借りれたのか? 凄いな」
ジーッと元の原型がないリアカーを見つめ、アーズラッドが言った。
「あれは、ちょっと改造してホロとかつけたんだ」
「もしかして普通のリアカーを借りて改造したのか?」
そうだと僕は頷く。
「お前なぁ。あれはちょっとじゃないだろう? 返すんだろう?」
「うん。けど、ラスは大丈夫だろうって」
「ラスって妖精だろうが……」
「あははは」
僕は笑ってごまかした。
「ごめんな。俺が巻き込んだんだよな」
「え? 何言ってるの? 僕の方に来たんだから狙いは僕でしょう」
「本当にお前なのか? 理由は?」
「……妖精持ちだからみたい」
嘘じゃない。そう言われたのだから。でも僕がおにいちゃんの弟だからだと思う。逃がした子供。生かしておけば、何かしらしてくるかもしれないと思ったんだ。
そして、ツエルさんがお兄ちゃんだと知れたら厄介だからと一緒に始末しようとした。きっと変わりは沢山いるのかもしれない。しかも冒険者の中に……。
「ごめん。結局俺が巻き込んだ……」
「それは、違う!」
嘘をついて、連れ回した罰が当たったんだ。
「ごめん……僕自身のせいだから」
「何を言ってるんだ。妖精持ちだからって狙うなんて! 俺がツエルさんと出会ってなければ……でもなんで、それだけでお前を」
「お兄ちゃんなんだ……」
「お兄ちゃん? 待てよ。兄が生きていたって事なのか? 本当に兄か? 名前が同じだったのか?」
「ううん。名前は違う。けど、ラスがそう言った。浮けたのは、妖精を召喚したからみたいなんだ」
本当は、ラスが見せてくれた情報でわかったんだけどね。
「召喚? 召喚して妖精って出せるのか? じゃお前も?」
僕は首を横に振った。
「ラスを召喚したのは、お父さんなんだって」
「もしかして、お父さんの命令でお前を守っているのか?」
「うん。そんなところ……」
「そっか。早く目を覚ますといいな」
「うん……」
「アーズ? ここはどこだ?」
「ツエルさん!」
リアカーから起き上がりふらついてはいるが、こっちに向かって来る。
「あの……起きて大丈夫ですか?」
「あぁ……え?」
お兄ちゃんは、左腕を見て驚いている。
『スラゼ。ツエルと二人でまず話しましょう。アーズラッドに聞かせる話ではないわ』
「うん。わかった」
僕はそっと頷く。
「ツエルさん。ちょっと僕と二人でお話しませんか?」
僕を見たお兄ちゃんは、ハッとしたような顔つきになり、頷いた。
「あ、じゃ、俺は寝るわ」
「うん。じゃ、このシートと毛布使って」
「ありがとう」
ベチ。
僕の頭に紅葉が着陸した。
『どこかいきゅのか?』
「ちょっと二人でお話してくるから皆の事お願いね」
『うん。まかちぇて』
まあシールドがあるから出なければ大丈夫だし。
僕はランプを持って、ちょっとだけ皆から離れた。もちろん、僕達にもラスがシールドを張ってくれた。
「すまない。あれから俺はどうした?」
「記憶ないの?」
驚いた。命令を強制的に聞かされた時の記憶はないみたい。
「……何をした? リングはどうして外れているんだ? 君なんだろう?」
「ねえツエルさん。僕の事覚えてない?」
「うん?」
「もしかして、小さい頃の記憶ってない!?」
ふとそう思った。そう言えば、僕の方は名前は変わっていないんだ。僕がお兄ちゃんの名前を憶えているのに、僕より年上なのに覚えていない事はまずないはず。消されている?
「すまない。小さい頃に出会っていたか? だからなのか……」
やっぱり消されていた。そうだよな。弟だとわかった行動ではなかったと思う。
「うん? だからって?」
「クラウンに連絡を来た時に受けたのは俺なんだ。本来は、知らない相手から呼び出しが来た場合は呼び出された者に聞くんだが、なぜか君の名前が気になって直接俺が聞きに行ったんだ」
『記憶は消されているとは思ったけど、完全には記憶は消えてなかったって事ね』
そっかラスは、記憶が消されている事に気づいていたんだ。
「ごめん。俺が勝手に行動して事によって君に迷惑をかけた……」
「迷惑だなんて……」
「俺をかくまっていると、君も命を狙われる」
「……あのねツエルさん。ツエルさんは、死んだ事になっています」
「え?」
ハッとして、左腕を見た。
「そうだ。どうやって外した?」
「……それは」
腕を刺したなんて言いづらい。
『スラゼ。そう言えば、今後どうするつもり? 死んだ事になっている彼は、冒険者登録できないわよ?』
「どうしようか……」
そんな事考えているわけないじゃないか。
「ごめん。それでも追われるんだ」
『剣に追われない事も教えてあげて』
そうだった。追尾の剣の存在か。
「追尾の剣の事なら心配ないよ」
「え? 君って何者? どうしてそれまで知っているの?」
「僕は妖精の加護を受けているからね。なんでもお見通しなの」
「そっか。じゃ君を殺そうとした事もわかっていて助けたってわけ?」
「それ違うよね? 言い争っていたよね?」
お兄ちゃんは俯いたまま、首を横に振った。
「勝手に行動した事があの人にバレて、君の事を話した。そうしたら君をクラウンに引き抜けって言われて。でも普通に言っても無理だろうからって、モンスターに襲わせて助けて出す様に言われたんだ。でも君をクラウンに誘いたくなかった。あの人は、裏で何かをしているんだ……」
「な、何かって?」
「そこまでは知らない。けど、俺は抗えないから言われた通りモンスターを召喚していた」
そっか。モンスターを召喚するのがお兄ちゃんの役目だったんだ。
「で、今回も強制的にモンスターを召喚させられた。ハッと気づいたら君達は宙に浮いていて、モンスターで襲った事がばれたから処分するって言われて……君をクラウンに引き込む事で命だけはって頼んだら承諾してくれた」
あの時、言い争っていたのってその事だったんだ。たぶん最初から僕達を生かしておく気なんてなかった。
「ねえ、ラミュランって言う人知っている?」
「……知っているけど、近づかない方がいい」
やっぱり知っている人なんだ。そいつも悪い奴だと言う事もわかってるって事か。
「じゃ、アラーダルダは?」
「アラーダルダ? いや、知らないな」
なるほど。直接は会ってないって事か。
「君はもう、手遅れかもね」
「え?」
「よくわからないけど、色々知り過ぎている。俺は死んだ事になっているけど、君は生きている事になっているんでしょう? 狙われる」
そうなんだよね。冒険者の僕は、死んだとしても不審に思われない。モンスターに殺された事にすればいいからね。
今さらだけど、どうしよう……。
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