9-1 僕は嘘をつき通す
「ねえ、ラス。お兄ちゃんを助ける事ってできる?」
『あるわよ。一つだけ。穴あけでリングを突くのよ。
「わかった。え?」
突然剣を抜いてツエルさん、ううん、お兄ちゃんが僕に向かって走って来る。そして、モンスターを召喚した!
「悪いなぁ。妖精の加護付きは処分って決まっているんだ」
カリルが言った。
「決まってるって……何それ」
『フライ。妖精の加護があるものには、妖精が傍にいると知っている者がいるんでしょうね。彼はクラウンのマスターだけど、どこかの組織の一員なんでしょう。さっきの二人の会話からはそう読み取れたわ』
僕は、宙に浮いて難を逃れたけど。
うん? え!
「やばい。アーズラッド達だ!」
森の中を走ってこっちへ向かっているのが見える。なんで森に入ったんだ。
『紅葉かしらね。あの子も感知あるから自分を追ってきてないって教えたんでしょう』
そうか。狙いが僕だとわかって助けに来たって事?
来ても何も出来ないだろうに!
『まずいわね。召喚したモンスターに見つかったわ』
「とりあえず三人を浮かせて!」
『了解』
「ツエル行け!」
「おい。どうなってるんだ!?」
アーズラッド達も宙に浮いて僕達の方へ来た。
「ごめん、それ後。ラス、魔力大丈夫?」
『今の所はね。ただ……戦いづらいわ。一か所に居てもらいましょう。リアカーを浮かせるからそこに三人を待機させて』
「わかった。三人共……え!?」
お兄ちゃんが浮いて来た!
『さすが、マグドーラ様のご子息ね。妖精を召喚して浮いて来たわ』
「え!?」
「まじかよ……ツエルさんも浮けるなんて」
『乗せて!』
「アーズラッド! レンカ! サツナ! リアカーに乗って!」
「はぁ? お前がどうにか出来るのかよ!」
「うん。するしかない! 助けないと」
「助ける?」
「いいから早く! ラス……どうしたらいい?」
『そうね。実戦がないものね。兎に角懐に入って、左腕のリングを壊さないとどうにもならないわ。向こうが浮けるのは、妖精を召喚している十分ぐらいの間よ』
「え? 十分?」
『そうよ。普通はそれぐらい。それより剣を抜いて!』
「剣って、ロングナイフ?」
『それしかないでしょう? 50%で!』
「50%!」
僕は言われるまま剣を構えた。
『相手に悟られたらダメなのよ。とくにカリルには。あなたが、ツエルの正体に気づいていないと思わせないとね。攻撃をする必要はないわ。攻撃を受け止めて!』
「え!?」
それすら難しいんだけど!
「うわぁ!」
剣を振って来たので、慌てて受け止める。斬られたくないから構えたって感じだけど、そのまま吹っ飛ばされた。
「おい、大丈夫かよ」
アーズラッドがリアカーの上から叫ぶ。
「うん。お願いだからそこに居て」
腕がジンジンしている。きっと、冒険者としても訓練受けてるよね……。
って、来た!
お兄ちゃんが剣を振り上げて襲って来る。それを僕は剣で受け止めた。
ラスの意図がわかったよ。そういう事ね!
剣を振り向かって来るが、それを僕は受け止める。いや受け止めている様に見せている。実際は、ラスがタイミングよく、弾いているだけだ。
そりゃそうだ。訓練も何も受けてない僕が、そう何度も受け止められるはずがない。
カキン!
え? 何? 僕の腕が勝手に後ろに動いた。
見ると、剣が落下していく。
どうやらカリルが投げた剣らしい。ナイフじゃなくて、剣を投げて来るなんて!
ラスが防いでくれたみたい。助かった。けど僕は体制を崩している。
「うわぁ」
ちょっとわざとらしいけど、落下して見せた。
落ちる場所はカリルから見えない所。お兄ちゃんも追って向かってきた。
僕がふわりと地面に着地すると、目の前にお兄ちゃんも降り剣を振り下ろす。その剣は、僕を避ける様に振り下ろされた。
お兄ちゃんは、驚いた顔を僕に向ける。
「ごめんね」
左腕に装着しているリング目掛けて、隠し持っていた穴あけを突きさす!
『躊躇してはダメよ。貫通しないとダメだから!』
本当は、刺したくない。でも、これしか方法ないから!
ザク!
「うわ~!」
木に刺すのとは違って、抵抗があった。
左腕を押えながらお兄ちゃんは倒れ込んだ。
「お、お兄ちゃん……」
穴あけを握る僕の手は、震えていた。
『大丈夫よ。気を失っただけ。今のうちに治療を』
僕は頷いて、お兄ちゃんの左腕から壊れたリングを外す。
よかった。ちゃんと壊れた。
血だらけになっている左腕に、錬金術師協会に持って行くはずだった万能薬をかけた。
スプーン一杯分だけど、傷口さえ閉じれば……。
「くそう。どこ行きやがった!」
声に振り向くと、目の前にカリルがいた!
まずい。見つかった!
『大丈夫よ。見えない様にしてあるから』
「っち。結界か? だったら……」
そう言ったカリルは、見えないはずなのに僕達の方を向いて剣を振り上げ構えた。
『なるほど。その剣はそういう剣ですか』
「っく……」
「な、何?」
振り下ろすかと思ったが、剣を振り上げたままカリルは動こうとしない。
『そっちに移動するわよ』
「え?」
カリルから死角になる場所へ移動すると、カリルが剣を振り下ろす。
「……逃げやがったか」
何がどうなったと、ラスを見て目で訴える。
『あの剣を見てみて』
********************************
破壊の剣【追尾の剣:Sランク】
【ターゲット:リュゼラ】
【製作者:アラーダルダ】
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うん? 何あの剣。追尾? それってお兄ちゃんを追えるって事? だから目の前に……。
『どうやらツエル共々始末するつもりだったようね。剣を投げて来るなんておかしいと思ったのよ。上に投げるのだから普通届かないでしょう?』
でもあの剣ならお兄ちゃんを追うから……あの時僕はカリルに背を向けていた。僕ごとお兄ちゃんも串刺しにするつもりだったって事?
『いざという時は、あの剣で始末するようになっているって事ね。隠れて逃げる事は不可能。奴隷リングを外したとしてもね』
「どうするの?」
『もう手は打ってあるわ。後はあれをこうするだけよ』
あれって何? こうするって何をしたんだ?
ベチ!
ひ~~~!!!
危なく、ぎゃ~っと声を上げる所だった!
『またひとがきちゃよ』
僕の頭の上で、紅葉が言った。
心臓に悪いから僕の頭の上に着地するのやめてくれないかな。
『ありがとう。戦闘に集中する為に、紅葉に周りの感知をお願いしておいたのよ』
あ、そう……。
カリルは、なぜかジーッと地面を見つめている。
地面には、外した奴隷リングが倒れた大木のちょっと突き出た枝に引っかかり、その辺りが血で汚れていた。
『彼には、あの大木がツエルに見えているはずよ』
いつのまに。ラスってめちゃ優秀だよ。
うん? ガサガサと人が来る音が聞こえたと思ったら二人の男が現れた。一人は見覚えがある。この前、アーズラッドと一緒にいたごつい人だ。もう一人は、暗い赤髪の男。
「スラゼには逃げられたが、リュゼラは始末した」
チラッと二人を見たカリルが、剣を掲げながら言った。
「スラゼには、彼が兄だとばれたのか?」
なぜかその剣を知らない男の方が、受け取りながら聞いた。
「いや、バレてはいないだろう。だから殺して逃げたのだから」
「ほう。彼を殺したのは、スラゼか」
ザン!
「な、なぜだ……ラミュ……ラン」
驚く事にラミュランという男が、受け取った剣でカリルを背中から一突きした!
ひ~~。何この人達。仲間を平然と……。
「自分の仕事も出来ない奴はいらないんだよ、カリル」
右足でカリルを踏みつけ、剣をラミュランは引き抜きながら言った。
「どうします?」
「クラウンを解散させる。で、お前がマスターで立ち上げろ。マスターとサブマスターが山火事で死亡だからな!」
っぼ!
そう言いつつラミュランは、火をつけた!
『離れましょう』
「でも、火を……」
『消せば、ここに居た事がバレるわよ』
僕達は、浮いてリアカーに向かった。
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