7-3

 これって僕が来る前から三協会で打ち合わせ済みって事だよね。袋の事は目を瞑るからって……。


 『仕方ないわね。復唱して! それはおかなしな話ですね。錬金術でないのであれば、そちらには関係ない事ではないですか? 私と商業協会との間の話です』


 「そ、それはおかなしな話ですね。錬金術でないのであれば、そちらには関係ない事ではないですか? 私と商業協会との間の話です」


 僕が、ラスに言われた通り復唱すると全員驚いた顔をした。なぜそこまで驚くんだ。


 「それもそうだな。だが錬金術の一番大切な仕事は、ポーション作りだ。何か薬を作れれば、許可しよう。どうだ?」


 薬? それって僕に作れるの?

 チラッとラスを見ると、大丈夫だと頷いた。


 「わかりました。何か作ります」


 「では、誓約書にサインを……」


 「え!?」


 スッと、用紙を渡された。


 「それにサインをすれば、チャンスをやろう」


 『もしそれでも食いついたらって、策を練っていたのね。こっちも囲い込みね……』


 囲い込み!?


 『錬金術だと認められる物を作成出来なかった場合は、錬金術ではなくとも似た行為で商売は致しませんという、文句が書かれているわ』


 「あの、もしこれにサインしなかったらどうなりますか?」


 「おや? 作れるのだろう? だったら問題ないと思うが?」


 それ答えになってないんだけど!


 『大丈夫よ。薬が作れれば錬金術師にはなれるわ』


 「何をためらっている? 一つ問うが錬金術師にならなくても作れると思っているのならなぜわざわざ申請した? 必要だと思ったからだろう? 信頼が欲しかったのだろう? それとも箔をつけたかったか? どちらにしても錬金術の真似事としてやるのならこちらも無視出来ないという事だ。皆ルールを守っているのだからな」


 「……はい」


 仕方がない。もし無理だったら自分用に活用するだけにしよう。ハンドメイド製作者になったんだけどなぁ……。


 僕は、誓約書にサインをした。

 なんでこうなったんだろう。


 「これをやろう。錬金術師になった時の契約書だ。契約内容を熟読しておくように」


 「え……」


 どういう意味? 錬金術師にはさせないって事ではないの?

 アルロダスさんは、部屋を出て行った。


 「君も運が悪かったね。この街でなかったらすんなり錬金術師になれたものを」


 え? そうなの?


 商業協会の人が、ぼそっと僕にそう言って去って行く。


 『どうやらこの街では、申請者の身辺調査みたいなのを行っていたようね。それで袋の事がわかってこうなった。とにかく、ここを出ましょう』


 「うん……」


 なんでこう、うまく行かないんだろう。大きい街だからって選んだだけなのに。はぁ……。


 僕は、錬金術師協会の建物の外に出た。今は入った時のワクワク感なんてどこかへ吹っ飛んでいた。


 「それで何を作る気なの?」


 『万能薬よ。これだったら絶対に文句は言われないわ』


 「そうかもしれないけど、それ僕が作るって事だよね? 製作者をチェックされるんだから」


 『そうよ。大丈夫よ。材料と道具があればスラゼなら作れるわ。言ったでしょ。才能だけど誰でも出来る事だって』


 「それって加護を使わずに本当に錬金術をするって事?」


 『そうなりそうね。でも道具は私が加護を与えるから大丈夫よ』


 「あ、なるほど。それなら出来そうな気がする。どこに行くの?」


 『そうね。まずは冒険者協会ね』


 「え?」


 なぜそこに?


 『言っておくけど、作り方を知っていても作った事はないのよ。だから採取した事もない。知識としてあるだけ。どこに材料があるかも知らないの。だからその情報を入手しに、冒険者協会へ行くのよ。依頼を見て、場所を特定しようと思ってね』


 「あぁ、なるほど。そう言う事か。ラス頭いい!」


 『ありがとう。隣行っちゃう?』


 「隣!? も、戻って端の冒険者協会でいいかな?」


 『やっぱり? じゃ行きましょう』


 もうわかっていて聞くんだから。

 僕は、馬車に乗り冒険者協会を目指した。



 ないなぁ。ねじり樹の樹液の依頼。

 あ、もしかして、別な呼び名があったりして。

 買いはしたけど、ちゃんと読んでいなかった錬金術師の素材本を鞄から出した。


 えーと、あった。万能薬の材料。

 ……一方、ねじり樹の樹液は自分で手に入れるのは難しい。錬金術師協会で発見したねじり樹から樹液を採取し、錬金術師にだけ販売している。その為、錬金術師にならないとこの材料は手に入らない。

 ねじり樹は、高山の中腹にあると言われ、場所的にはDランク以上の場所だと推測されるが、シークレットとなっている為、鑑定が出来る者が一緒でないと見た目が似たねじれた普通の木と間違う可能性が大だ。

 樹液の採取方法は、他の樹液の採取と同じだがすぐに劣化するらしく、保存瓶が必須である。


 「え? 何それ……」


 『どうしたの?』


 それじゃ依頼を探してもないはずだ。どうすんの?


 『あら、これ……自力で探すしかなさそうね』


 本を覗き込んだラスが言った。


 「探すの? 凄い広い範囲なんだけど? それに保存瓶が必要だって書いてあるけど?」


 『それは作れば問題はないわ。無理だと思うなら錬金術師は諦めても別に構わないわ』


 「構わないって……」


 『決めるのはあなたよ。後もう一つ。もし万が一私がいなくなった時の事を考えれば、自分自身で作れる様になっていた方がいいと思うのよね』


 「え!? もしかして一年ぐらいしか居られないとか?」


 『そうだったらとっくにいないわよ!』


 あぁ、そうでした。10年はいますね。


 『そうではなくて、私がいなくなって何も出来ないじゃ困るでしょって話。あなたが私を解約しない限りはいるわよ』


 「そうなんだ。よかった。そうだね。成り行きとはいえ、ちゃんと錬金術みたいな事はするよ。万能薬なんて役に立ちそうだし」


 ラスが、うんうんと頷いている。


 しばらく森にこもる事になるけど、今まで移動ではそうだったんだから別にどうって事ない。ここの食材はちょっと高いけど、いつも通り買いだめをして森に入ろう!


 僕は、宿に戻り二人に話すとついて来る事になり、三人でねじり樹を探す事になった。本来は入ってはいけない場所なので誰にも内緒だ。

 冒険者協会にもしばらく森にこもる事を伝えた。


 食材を買ったけどリアカーがないから重たいけど自分で持たないといけなかった。リアカーの場所についた頃には夕方だ。なのでそのまま森の奥へ更に入り、夕飯を食べて寝る事にした。


 「スラゼお兄ちゃん、切ったよ」


 「うん。ありがとう」


 レンカには、野菜を切ってもらった。サツナは、スープを作っている。

 料理が出来上がった僕達は、いつも通りテーブルで食べ始めた。紅葉だけは、先に食べていたけどね。


 「うん。おいしい」


 「料理って楽しいんだね」


 サツナが言った。

 僕も三人で街を周る様になって作る様になったけど、そんなに難しくはない。それどころか、自分の好みの味付けに出来る。

 施設にいた時は、材料を買うお金もなければ、食べられる物とそうでない物の見分けがつかなかった。今は、いつも採取しているものならラスに聞かなくてもわかるようになった。凄い進歩だ。


 「ねえ、そう言えば二人共、なんで僕について来たの? たぶん施設の中では一番頼りないと思うんだけど」


 そう聞くと二人は顔を見合わせた。


 「置いてかれた。ジーッと見て、こっちおいでって言ってくれたのスラゼお兄ちゃんだけだった」


 レンカが言うと、サツナがうんうんと頷く。


 『まあそうでしょうね。自分の事で精一杯なんだから』


 なるほど。他の人の世話までしてられないって事か。僕にはラスがいたからね。


 「僕も置いて行かれたんだ。一緒だったんだね」


 そう言って三人で笑った。

 二人には悪いけど、一緒に旅で来てよかった。寂しくないし、ラスが居るとはいえ、一人だったらずっと森の中は怖かったかもしれない。


 「ふう。お腹いっぱい」


 「うん。幸せ」


 レンカに続きサツナもニッコリ微笑んだ。

 そうだね。施設に居る時は、一日一食。今の方が色々充実しているかも。

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